Fumaria officinalis from Plantillustration.com & BHL
①Mattioli, P.A., Cibo,
G., “De materia medica” (1564-1584), t. 121
②Palmstruch, J. W., “Svensk
Botanic” vol. 1 (1815), plate 42.
③Smith, J.E., “Engl.
Bot.”, ed. 3, vol. 1 (1863), t. 76
④Perrin-Robins, I.S.,
“Brit. Fl. Pl.”, vol. 2 (1914), t. 89
英国の大文豪,W. シェイクスピア(W. Shakespeare, 1564 - 1616)の三大悲劇の一つ.古代ブリテン王国を舞台にした『リア王』では,三人の娘の上二人の甘言に騙され,領土を相続させたリア王が母国を追放された.彼に勘当され,フランス貴族に嫁した末娘,コーディーリアが王権と領土回復のためにイングランドに侵攻し,狂気の内に彷徨うリア王を探す.リア王は失った王冠の代りとして,小麦畑に生育する雑草を頭にかぶっている.この雑草の王冠を構成する草のひとつが,Fumiter である. シェイクスピアの戯曲では,他に史劇『ヘンリー五世』(第五幕第二場)に,英国とフランスの長年の戦争で,田園が荒れ果てたことを嘆く重臣のセリフに,ドクムギとともに
Fumitory として現れるのみ.
”The Tragedy of King Lear”
Act IV Scene IV
CORDELIA Alack, 'tis he: why, he
was met even now
As mad as the vex'd sea; singing
aloud;
Crown'd with rank fumiter and furrow-weeds,
With hardocks, hemlock, nettles, cuckoo-flowers,
Darnel, and all the idle weeds that
grow
In our sustaining corn.
この
Fumiter は,和名カラクサケマンと言われる
Fumaria officinalis L.(英俗名 Fumitory等, 希臘語名 Capno 等,羅甸名 Fumus terraæ 等)であることで,研究者の見解は一致している.このカラクサケマンは欧州ではギリシャ・ローマ時代以前から薬草として知られ,古くから欧州の本草書に記録され,現在のヨーロッパ薬局方(EP)にも収載されている.日本では明治後期には渡来したとされ,また北海道では帰化している(清水矩宏ら『改訂 日本帰化植物写真図鑑』全国農村教育協会(2008)).
この戯曲の和訳での Fumiter は,ほぼカラクサケマンで一致しているが,黄色いマーカーの訳には植物名としては疑義がある.
○Fumiter:①延胡索(エンゴサク)の類、ミヤマケマン属の草,②カラクサケマン,③えんごさく,④伸び放題の雑草,⑤カラクサケマン,⑥カラクサケマン,⑦華鬘草(けまんそう) この中で,④はカラクサケマンの性状から訳しているのだろうが具体性に欠け,⑦はタイツリソウとも呼ばれる中国原産の美しい花で,シェイクスピアの時代には英国には入っておらず(1840 年代に移入),リヤ王の雑草の冠としてはきらびやかすぎる.
①坪内道遥訳『ザ・シェークスピア-全戯曲(全原文十全訳)全一冊,改訂新版』第三書館(1999)
②三神勲訳『リヤ王』世界文学全集1シェイクスピア 河出書房新社(1969)
③小津次郎訳『リア王』(筑摩世界文学大系16,シェイクスピアI)筑摩書房(1972)
④小田島雄志訳『リア王』シェイクスピア全集 u-28 白水社(1983)
⑤熊井明子『シェイクスピアのハーブ』誠文堂新光社(1996)
⑥松岡和子訳『リア王』シェイクスピア全集
5 ちくま文庫(1997)
⑦野島秀勝訳『リア王』岩波文庫 赤205-1 岩波書店(2000)
カラクサケマン(Fumaria officinalis)は,ケシ科(Papaveraceae),ケマンソウ亜科(Fumarioideae),カラクサケマン属(Fumaria)の1年生,あるいは2年生の草本で,草丈 60-100 cm に伸び,春から夏にかけて,赤紫色の筒状の花を房のようにつける.細く柔らかい茎が簇生する様子は,地面から立ち上る煙,或はその汁を点眼した場合涙を流す様子を煙に遭った場合に例えられ,欧州言語の植物名はそれに由来する.欧州では,穀類の畑の雑草として嫌われてもいるが,ディオスコリデスやプリニウスの著作では薬草とされ(次記事),現代まで認められている.ケマンソウ亜科(Fumarioideae)はかつて,クロンキスト体系で,独立したケマンソウ科(Fumariaceae)とされていた.
日本産の類似している植物としては,旧ケマンソウ科のムラサキケマン,ジロボウエンゴサク,キケマン等が野草としてみられる.また旧科名の基となった移入園芸植物のケマンソウが庭園で栽培されている.
日本で普通に見られる類縁種
①ムラサキケマン(Corydalis incisa)茨城県南部
②ジロボウエンゴサク(Corydalis decumbens)茨城県南部
③ミヤマキケマン(Corydalis pallida var. tenuis)宮城県西部
④ケマンソウ(Lamprocapnos spectabilis,
basion.: Fumaria spectabilis)宮城県植栽
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