2021年1月14日木曜日

ツミ(4)-江戸中後期.飼籠鳥,物品識名,物品識名拾遺,蘭山禽譜,水谷禽譜.啓蒙禽譜,錦窠禽譜,古名録

Accipiter gularis


ツミは鷹狩に使われ,『飼籠鳥』では,「鷹家是を飼て鳥雀を取らしむ」,とあり『水谷禽譜』には「公儀ヘ獻上アリ献上ハ
ハイタカト ツミ許ナリ」と幕府の鷹匠がこれを用いて御鷹狩を行っているとある.

一方『蘭山禽譜』には「児童ノ翫迠ニテ常ニ不畜」とある.また,『錦窠禽譜』には,雌のツミは「雀鷂は勢ひ強きものなり」と気が荒いとある.オスの「悦哉」の名はメス「雀鷂」に比べると飼育・順化し易い事からつけられたという説もある.

「雄はエツサイという。漢字名は悦哉。悦のひとつの意は喜んで従う」であるから、鷹狩り用のタカとして「飼いやすく、仕込みやすい鷹」の意かもしれない。」安部直哉『野鳥の名前 名前の由来と語源』ヤマケイ文庫 (2019) 

★佐藤成裕『飼籠鳥』(1821?)


江戸時代3大養禽書の一つで、筆者は水戸藩士佐藤成裕(号は中陵・温故斎、
1762-1848)、会津の人厳恪の序は文政4年(1821)なので、その頃に完成か。巻1は序などと「異鳥部」(天狗など、想像上の鳥)、巻2・3は「飼法部」で、飼い方・治療法・21種の猟法を記す。巻4以下が各論で、416品(うち102品は外来種)を鶏部・雉部・鳩部・鸚鵡部‥‥鷹部・隼周鳥部と、形状に基いて17部に分けて叙述し、『本草綱目』の分類とは異なる。当時の野鳥の分布など、参考になる記載が少なくない。(磯野直秀)

その巻之二十「隼鵰部」に

「雀鷂 本草綱目 一名

              和名 ツミ

西国の山林に見る事あり雀鷂より小にして腹の色
      淡く杜鵑の斑點に似て濃し案るに鷹鶻方の小鵶*1鶻*2
       の一種小なる者あり小鳥のミならず中鳥を取る鷹家是
    を飼て鳥雀を取らしむ〓〓〓なり
    本草綱目*3曰杜鵑條下杜鵑南方亦有之狀
    如雀鷂而色慘黑赤口」比説より考るに形状毛色
    頗る相似る事あり是の口中は鷹の如くして杜鵑ごとく赤ミなし」
とある.

*1:鵶:カラス
   *2:鶻:ハヤブサ
      朝鮮王朝実録,世祖実録17巻、世祖5年9月6日乙酉1459年,天順3年の記事に
     「○ 乙酉/御後苑。 分左右鑿池, 賜酒肉于役夫。 觀放鵶鶻。」とある.

*3:本草綱目の「禽之三」の 『杜鵑』の項には

「杜鵑(《拾遺》)(中略)
【集解】(中略)時珍曰杜鵑出蜀中今南方亦有之狀如雀鷂而色慘黑赤口有小冠春暮即鳴夜啼達旦鳴必向北至夏尤甚晝夜不止其聲哀切田家候之以興農事惟食蟲蠹不能為巢居他巢生子冬月則藏蟄」と,確かに「雀鷂」があるが,これは,「雀,鷂」と分けるべきで,『国訳本草綱目』には「時珍曰,杜鵑は蜀中に産し,現に南方にもゐる.形狀は雀、鷂のやうで慘黑色(さんこくしょく)だ.口が赤く,小さい冠がある.」と,分けて和訳されている. 

★岡林清達・水谷豊文『物品識名』(1809 跋)



品名を和名のイロハ順とし,ついで水・火・金・土・石・草・木・虫・魚・介・禽・獣に分け,各項にその漢名・和の異名・形状などを記した辞典.序によれば,『物品識名』は,初め水谷豊文(
1779-1833)の友人岡林清達が着手したが眼病で中絶し,豊文が継続,完成させた.後編『物品識名拾遺』(特1-2504)は豊文の単独執筆である.イロハ順といっても,江戸時代の場合は第2字目以下はイロハ順ではないが,本書は「キリシマ・キリ・キリンケツ」のように,第2字目も同じ名を連続する工夫をしているので,一般的なイロハ引より使いやすい.本書は和名中心の動植鉱物辞典の嚆矢だったので,大歓迎された.

★水谷豊文『物品識名拾遺』(1825 跋)
『物品識名』の後編.日本産の動物・植物・鉱物名をイロハ順にし,さらに「水」,「火」,「土」,「金」,「石」,「草」,「木」,「蟲」,「魚」,「介」,「禽」,「獣」に分類,カタカナで和名を,その下に漢名を記載し,出典なども付したもの.『物品識名』に掲載されなかったものを収載.また,『物品識名』の見出しになっていない別称についても記し,前編の記載部分も指示している.

①『物品識名』の津部には,「ツミ すヽめだか                 雀鷹」とある.

②『物品識名拾遺. 乾』の多部のタカの項には,「ゑつさい 雄をゑつさいと云 雌をツミと云」とある.

➂『物品識名拾遺. 乾』の江部には,「ゑつさい タカの部に出」とある. 

幕末最大の本草学者★小野蘭山の『蘭山禽譜』は蘭山(1729-1810) の自筆本天地二冊が明治42年(1909)の蘭山没後百年記念会までは存在していたが,現在は行方不明である.しかし,諸書の検討によって,天之巻(水鳥)と地之巻(水鳥以外の鳥類と獣類)の二冊から成り,鳥類計307品・獣9品と推定されている.その諸書のうち,東京大学総合図書館蔵『禽譜』(T86-177本,鳥305品・獣9品)がほぼ完全な転写本らしい.なぜ獣類が少数含まれるのかは不明である.本資料はその「地之巻」に当たり,鳥171品と獣7品を含み,各品とも雌雄を描く例が多い.記文では産地や渡来年,形状や色彩を簡潔に記す.

この書の「鷹」の項には「児隼,刺羽,雀鷂,雀𪀚等品類ハ児童ノ翫迠ニテ常ニ不畜飛鷹録弁畧等ノ説ヲ抄述ス」とあり「雀鷂 正写」と題された絵がある(冒頭図,左端)が,雄(雀𪀚)の図はない.

本草学者★水谷豊文『水谷禽譜』(1810 頃) には,上記『蘭山禽譜』から転写した図と記文が少なくない.この書の巻之三の

「鷹 タカ」の項には

「𪀚 和名ツミ 一名スヾメタカ 兄𪀚 和名ヱツサイ」とあり,また,

「ツミ                  小ナリ ヒヨドリホドアリ 一種クマツミ クロツミ 

  ヱツサイ         小ナリ 白バトヨリ小ナリ

ツミ                  弟 
   ヱツサイ           兄」とあり,また,「右二種木曽ニ産ス年々
  公儀ヘ獻上アリ献上ハ ハイタカト ツミ許ナリ」とある.また,エツサイの図も添えられている(冒頭図,中央).

 同時期に著された著者不明の★『啓蒙禽譜』三巻の「地 山禽」の部には「雀鷂」の図があるが,説明はない(冒頭図,右端).

伊藤圭介(1803-1901)『錦窠禽譜』 2編20巻の第13

分冊(続編7分冊目)「タカ」の章には,

「○刺羽と云は小隼(はやぶさ)雀鷂(つみ)雀𪀚(えつさい)は形状大さ伯労(もず)
程あり雀𪀚は雀鷂の雄也また兄鷂鷂と云あり鷂は兄鷂
の雌なり

○或云雀鷂は勢ひ強きものなり先年畜養して●(萑+鳥)に
合せたるに只一たヽきに雀鷂ハ〓〓〓〓とそ

つみ

豆美 今同 出鈔叉曰須々美多加引漢語抄為
下條所記載者此鳥之雄也 (各物〓〓〓〓〓)
○鈔有悦哉 今同 假字也為雀𪀚」

とある. 

畔田翠山 (1859 – 1792) は,江戸後期の本草学者.姓は源,名は伴存,通称は十兵衛(5代),号は翠山,翠岳,紫藤園,翠嶺軒.和歌山藩湊南仲間(和歌山市)生まれ.本草学を同藩の小原桃洞に,国学歌学を本居大平に学んだ.俸禄20石の小身だったが,藩主徳川治宝に認められて医員として西浜御殿の花卉薬草の管理に当たる.居室の円窓書斎は書物,標本に満ち,採集行は加賀白山,越中立山など高山にもおよんだ.日本で最初の総合水産動物誌『水族志』をはじめ多くの著書があるが,『古名録』85巻は大和ことばを大切にした本草関係の異色の大作である.

その★畔田翠山源伴存『古名録』禽部巻第六十四 には,

「紀藩    源伴存 撰
山禽類 駿河國風土記曰,伊勢原貢山禽」

「豆美 ツミ 倭名類聚鈔              [漢名]雀鷹 詩疏 [今名]スヾメタカ
 [一名]須々美多加  倭名鈔曰,雀鷂.兼名苑云,雀鷂.善捉ルレ雀者也.漢語抄云,須々美多加.
或云豆美.袖中抄曰,こたかには雀鷂をばつみといふ.すゝみたかとも云 須
々美太加 天文写本和名鈔 都美 同上.鷹百首曰,つみといふ字は雀鷂と書なり.叉曰,つみといふ字,當流に雀鷂と書也.また雀𪀚ともかけり. 雲雀鷹 言塵集曰,雲雀鷹とは五六七月間につかうふひばりの夏毛替時,尾羽の落比つかふなり.尾羽
の落たるをねりひばりと云,雲雀鷹とは,つみ小鷹の名なり.尺素往來曰,〓兄〓 [形状] ○本朝食鑑曰,雀
鷂ハ能鷙二鳩已下小鳥一,叉鷙二鳧鷖一亦有.最モ爲レ希也.大和本草曰,雀鷂(ツミ)は小鳥をとる,叉だいさぎをもとる.鷂に似たり.雜記曰,雀鷂(つみ)はゑつさいの女なり.大さひゑとり程あり.○黑つみ
言塵集 [集註] 言塵集曰,黑つみと云も有なり,若狭山の巣といへり ○悦哉エツサイ 倭名類聚鈔 [今名] エツサイ 一名 菩提鷹 鷹百首曰,ゑつさいとは,菩提鷹と書なり ゑつさい 言塵集〇倭名鈔曰,雀𪀚.唐韻云,雀鷹小鷹也.漢語抄云,和名悦哉.字典曰,廣韻云,〓似,鷹小く,能く捕れ雀.尺素往來曰,兄鷂(ゑつさい),袖中抄曰,〓,ゑつさいとよむ.悦哉ともかけり.
[形状] ○本朝食鑑曰,今以テ雀-鷂(ツミ)ノ雄ヲ爲二雀-𪀚(エツサイ)ト一.雀-𪀚不レ及二雀鷂一、漸鷙二雀鷃之類一而已.大和本草曰,雀𪀚(エツサイ)ハ雀鷂(ツミ)ノ雄ナリ鳥ヲ不
レ取チカラヨハシツミヨ
リ猶小也形ハ似タリ」とある.

2021年1月4日月曜日

2021 A Happy New Year 謹賀新年 丑年

 謹賀新年 丑年

この30年来,毎年その年の干支にちなんだ植物のモチーフを年賀状にしている.
20年ほど前までは多色刷り木版にしていたが,その後はコレクションした Antique Botanical Print のスキャンした画像を印刷してお茶を濁している.
和名が干支と合えばいいのだが,そうもいかず,英名が干支と関連あれば良としている.

丑年の今年は和俗名がウシゼリのタガラシ,Ranunculus sceleratus の多色石版画図を Chaumetonらの “Flore Medicale”  (1814) から(原題名 “ Renoncule des marais”) ,また,American Cowslip(Dodecatheon meadia)の多色石版画図を W. Curtis“The Botanical Magazine“ (1787)  から用いた.

24年前,12年前の年賀状の画像は懐かしい.

2020年12月4日金曜日

ツミ(3)エッサイ・クロツミ 訓蒙圖彙,頭書増補訓蒙圖彙大成,觀文禽譜,堀田禽譜

Accipiter gularis

『堀田禽譜』サギ(チュウサギ?)を捕捉する黑つみ 元図を所蔵していた「戸田五助」は将軍の鷹狩用の鷹を飼育・訓練していた「千駄木御鷹部屋」を管理していた鷹匠頭 
宮城県県図書館「伊達文庫」収蔵〔禽譜〕

 中村惕斎の『訓蒙圖彙(キンモウズイ)』は,江戸時代前期に作られた「絵入り百科事典」であり,初版は寛文6年(1666)に刊行された.以後,元禄8年(1695)には『頭書増補訓蒙圖彙』,寛政元年(1789)には『頭書増補訓蒙圖彙大成』が,それぞれ大幅な増補改訂を経て刊行されている.『訓蒙圖彙』の「鷹」の項には鷹の年齢による呼び方しか記されていないが,『頭書増補訓蒙圖彙大成』には,「雀鷂・雀𪀚」の記述がある.しかしこの書では「雀鷂・雀𪀚」小鷹で,小鳥を獲るとしかない,また雀𪀚ゑつさい,雀鸇さしばが鳥を捉えている図があるが,どちらかは分明でない. 

堅田藩主で,のち佐野へ転封された堀田正敦の『觀文禽譜』(1794) は江戸時代で最大最高の鳥譜で,その図譜部の通称『堀田禽譜』と対になる業績である.その巻四の鷹の部に「つみ(まつみ),くろつみ,ゑつさい」の三項があり,「くろつみ」は「くまつみ」「このやまつみ」「これやまつみ」とも呼ばれ,「つみ」より大きくて,鳥を獲る能力もまさっていて,将軍家のタカ狩りにはこれが用いられているとしていて,『堀田禽譜』にはサギ(チュウサギ?)を捕捉している図もあるが(冒頭図)(https://eichi.library.pref.miyagi.jp/da/detail?libno=&data_id=041-70093-1%20target=),つみの黒化個体と思われる.

以下図は NDL のデジタル公開画像よりの部分引用   

★中村惕斎『訓蒙図彙』初版(1666) 第十冊.巻之十三「禽鳥」には


「
鷹  よう・をう
たか、鷙鳥(してやう)也。一-歳ヲ曰二黄鷹ト一、わかたか、二-歳ヲ曰二鳽鷹(へんよう)ト一、かたがへり、三-歳ヲ曰二鶬鷹(さうよう)ト一、おほたか」としかないが(左図)


★中村惕斎
編『頭書増補訓蒙図彙大成』全 21巻 (1789)巻之十三には,「禽鳥 此部にすむもろもろの鳥をのこらずしるす」とあり,「鷹」の項には,「鷹は惣名にて大小その品多く勇猛の鳥なり(中略)
○鷂は鷹の小さきものなり鷂の小さきを兄鷂といふさらに小きを雀鷂といふいづれもかなり小さければ小鳥をとるなり.
○雀𪀚ゑつさい 雀鸇さしば
何れも鷹の名小鳥をとるなり(後略)」

とある.また雀𪀚ゑつさい 雀鸇さしばが鳥を捉えている図が掲げられている.(右図)

鷂はいたかの小さいものを兄鷂このり,さらに小さなものを雀鷂つみとし,雀𪀚ゑつさいとは別に考えていた.

 著者の中村惕斎(なかむらてきさい)(1629~1702)は京都の呉服商の家に生まれ,幼い頃から頭脳明晰,朱子学を独修して一家をなし,同時代の伊藤仁斎(1627~1705)に比肩する学者とも評された.儒学のほか,天文・地理・度量衡や音律にも通じた,幅広い知識を有した人物であった. 視覚教材としては,チェコのコメニウス(Joh. Amos Comenii, 1592~1670)による『世界図絵 Orbis Sensualium Pictus』(1658年)が教育史上著名であるが,近い時期に日本でも本書のような書物が出版されていたのである.

  初版の『訓蒙圖彙』は序目2巻,本文20巻全14冊であり,1頁に上下2図を載せている.和名と漢名,短い注記を付す.画者は不明(一説蒔絵師源三郎).以後「・・訓蒙」という書名が流行となった.
  寛文8年(1668)に刊行された第2版『増補 訓蒙圖彙』には,1頁に4図が載り,序目・20巻全7冊に改められた.この版がもっとも多く流布した.ケンペル『日本誌』(1727)もこの版から模刻した図を多く載せている.
  『頭書増補訓蒙圖彙』(1695)は1頁に4図が載り,序目・21巻よりなる.
  『頭書増補訓蒙圖彙大成』(1789)1頁に複数の物品の図が混在し,序目・21巻よりなる.

★『觀文禽譜』(1794) の著者堀田正敦(1755-1832)は江戸時代中期-後期の大名.陸奥仙台藩主伊達宗村の八男として生まれ,天明6(1786)年堅田藩主堀田正富の養子となり,翌年家督相続,1万石.寛政1(1789)年大番頭,老中松平定信の知遇を得て翌2年若年寄,勝手掛となり寛政改革の財政を担当.文化3(1806)年に1万3千石,翌年にはロシア船来航により蝦夷地に赴き,文政9(1826)年下野佐野に転封.12年に1万6千石.天保3(1832)年に75歳で致仕するまで43年間若年寄の職にあった.
 この間『寛政重修諸家譜』編纂を総括するなど幕府の系譜編纂事業に寄与.また屋代弘賢,林述斎,大槻玄沢,谷文晁 ら学者,文人と交際,彼らの学問,芸術の庇護者となる.自らも博物学者として近世最大の鳥類図鑑『観文禽譜』を編纂した.<著作>『水月文章』『水月詠藻』『幕朝年中行事歌合』『蝦夷紀行』

 『観文禽譜』は江戸時代で最大最高の鳥譜で,その図譜部の通称『堀田禽譜』と対になる業績である.『観文禽譜』は,巻一がツル・サギ・シギ,巻二がカモメ・カモ,巻三がニワトリ・キジ・ハト,巻四がインコ・タカ・フクロウ,巻五がツバメ・コウモリ・キツツキ,巻六がヒバリ・スズメなどで,総計は655品.『堀田禽譜』の多くの図は現在宮城県県図書館に収蔵されているが,堀田正敦が伊達家出身に由来するからか.


『観文禽譜』の巻四に

「つみ すゝみたか 漢語抄 まつみ 黒ツミニ對トシテ称ス真シキ真カモト云カ如シ

雀鷂 倭名抄引漢語抄 〓(常+鳥)下学集〔  〕撃征 題

雀鷹 鶗〓(肩+鳥)通雅                                                               

新六帖ニ とやかへるつみをてにすゑあはつののうつらからむとこのひくらしつ  前内大臣家良

鷹百首                                            慈鎮和尚

西園寺鷹百首                                                公經

詩小雅 采芑 鴥彼飛隼

 良安云*3コノリニ比スレハ又小ナリ毛色畧ハイタカニ似タリ翅彪横ニ

巻成スル者ノ如ナル者藤黑ノ彪ト名ツク唯雀ノ類ヲ取而已今按ニ
ルニ爾雅*4鷹隼醪陸疏*5鷂屬也齊人謂之撃征或謂之顆肩或
謂之雀鷹春化爲布穀者是也此屬數種皆爲隼又本草鴟集
解詩疏云隼有數種通稱鷂ト云ヘリ其説錯雜ナリト云トモコレヲ改フルニ
ヲホタカハイタカツミ彪各大小アレトモ同種ナリ然ルニ時ハ隼ハイタカ類トナシテツミ
ニ當ン方穏ナルヘシ稲若水庶物類纂*6ニモ撃征題〓(戸ノ下ニ日)雀鷹ヲハイタカニ當テ
ツミヲ別出セス是時珍カ隼鷂ヲ弁出スルト同意ニシテ未審ナラサルニ似タ
リ

  *3:寺島良安『和漢三才図会』
  *4:『爾雅』(陸佃、11世紀末)の「釋鳥」に「鷹隼醜,其飛也翬」とある。
      翬:音読み      キ  意味  速く飛ぶ。大いに飛ぶ。また、その羽の音。五色の美しい羽を持つ雉(きじ)
 *5:陸璣『毛詩草木鳥獸蟲魚疏』の「卷下」に
「鴥彼飛隼
隼鷂屬也齊人謂之擊征或謂之題肩或謂之雀鷹春
化為布榖者是也此屬數種皆為隼」とある.

頭注

潛確類書*1 李善曰驇撃之
鳥通日集又曲籍便覧*2隼註
〓云古今隼未有的指其物
者禽経但云鳥之小而驇
者皆曰隼

*1潛確類書:(明)陳仁錫纂輯『潛確居類書』全120卷,その「巻之一百六 飛躍部三」の「鷹隼」の章に,「鷹隼○〔禮記〕立秋乃日鷹隼乃撃○李善曰驇撃之 鳥通日集呼曰隼執取飛鳥撃奪毛羽〇故曰驇撃」とある.
*2曲籍便覧:「曲籍便覧」は特定できなかったが,(明)馮復京輯著『六家詩名物疏』(萬暦33 [1605] 序)の「詩名物疏 全覽二 有嘉魚之什二 采芑篇」の「隼」の項に「爾雅云鷹隼醜其飛也翬郭云鼓翅翬翬然疾(中略)○雅翼云古今言隼未有的指其物者(以下略)」とある.

また続けて

「黑つみ くまつみ これやまつみ

新六帖ニ あふ事を いつとか待ん わかさちの 山の黑つみ つみしらせても

利徳朝臣ノ説ニ聞ニ今官ニ養所ノツミハ多クコレ山ツミニシテマツミハ未観スト云ヘリコレ山ツミ
コノ山ツミトモ云ヘリ ハ越前福井ヨリ献ス亦尾藩ヨリモ來ルマツミヨリ差大ニシテワサモ亦勝
レリ疑ラクハ是エツサイノ雌ナラント」
とあり,

更に

「ゑつさい 和名漢語抄引を悦哉としるせり 雀𪀚 和名抄引唐韻 零鳥 下学集

鷹三百種 かたむねをなほかひ残すゑつさい乃いかにしてかは鶉とるらん    定家

エツサイハツミノ雄ナル者ナリ大サヒヨトリノ如シ雀及小鳥ヲ取ノミ仙臺
候ノ寫眞*1ヲ観ニ頭背灰青黒ニシテ翅黒シ尾亦背灰ニシテ黒キ横彪
アリ臆*1ヨリ脇腹ニ至テ淡赤臆及腹下白シ咮*2黒ク脚黄ナリ
眼中亦黄ナリ」とある.

*1仙臺候ノ寫眞:現宮城県県図書館「伊達文庫」収蔵〔禽譜〕 (https://eichi.library.pref.miyagi.jp/da/detail?data_id=040-51703)では見られず.
*2
臆:オク,ヨク,むね
*3
咮:チュウ,くち,くちばし