2011年11月7日月曜日

ヒナゲシ (2/2) Poppy day,ジョン・マクレー,G20,ベッカム,サッカー・イングランド代表ユニホームにポピー

Papaver rhoeas
先ごろ閉幕したカンヌでのG20 (Group of 20) の集合写真,何人かのメンバーは胸に赤い造花を着けていた.確認できたのは英国及びカナダの首脳だけだったが,これはヒナゲシをモチーフにしたもので,国によって違うが11月11日やそれに近い日曜日の「戦没者記念日」のシンボルである.

古戦場に多く咲く血赤色の poppy が戦死者の流した血から生えるとの俗信は,特に欧州に共通で,Napoleon が一敗地にまみれたベルギー中部 Waterloo では,Wellington 公の戦勝後,畑をいくら耕しても field poppy が群がり生えるといい,この辺りではこれは戦死者の血から生えると言い伝える.

Yet nature everywhere resumed her course;が,自然はどこでもその営みを再開し,
Low pansies to the sun their purple gave,地をはうサンシキスミレは太陽を紫に染め,
And the soft poppy blossom,d on the grave.柔らかなヒナゲシはその墓に花を開いた。
-R.Southey: Pilgrimage to Waterloo,III, 36-8.

しかし,ヒナゲシが戦没者記念日の象徴となったのは,第1次世界大戦の激戦地フランダースの荒野に咲き乱れる poppy を詠んだ,カナダの詩人 John McCrae の有名な詩,‘In Flanders Fields, (1915)’ による.

カナダ・バーモント大学の教授であったジョン・マクレーは軍医としてフランドルの戦地に赴いた.激戦の中で,彼の教え子のアレクシス・ヘルマー中尉がイープルで戦死し,ヘルマーを埋葬したマクレーは,幾重にも並ぶ白い十字架と辺り一面に咲き乱れる赤いヒナゲシ花を見た.ヒナゲシの種は、地中で何年もそのまま発芽せず,地面が掘り返されると芽を出す.戦場となったフランダースの野原は,兵士たちや砲弾によって地中深くまで,荒らされ,掘り返され,それまで眠っていたヒナガシの種が,いっせいに真紅の花を咲かせた.マクレーにとってその光景は兵士たちが戦場で流した血潮のように見えたのであろう.

この詩と共にま真っ赤なヒナゲシは戦没者を悼む花となり,1921年に Royal British Legion (英国在郷軍人会)が,戦没者への募金を集めるために赤いポピーを売ったのが,この運動の始まりとなった.特に英連邦の各国 オーストラリア,バルバドス,バーミューダ,カナダ,南アフリカなどでは Remember Day (Armistice Day) やPoppy Dayという名前で11月11日に戦没者を悼むための休日にしたり,礼拝を行ったりする.

"In Flanders fields the poppies blow
Between the crosses, row on row,
That mark our place; and in the sky
The larks, still bravely singing, fly
Scarce heard amid the guns below.

We are the Dead. Short days ago
We lived, felt dawn, saw sunset glow,
Loved, and were loved, and now we lie
In Flanders Fields.

Take up our quarrel with the foe:
To you from failing hands we throw
The torch; be yours to hold it high.
If ye break faith with us who die
We shall not sleep, though poppies grow
In Flanders Fields.

- John McCrae

英国ケンブリッジに住んでいたとき,11月になると街角では,この記念日のための募金がされ,ヒナゲシの花のシールや造花を募金した印に渡していた.また,植物園近くのラウンドアバウトの中心に立つ戦没兵士の銅像の足元は,ヒナゲシの造花で埋められていた.

ビートルズの初期の名曲,"Penny Lane" の歌詞のなかに,
”Behind the shelter in the middle of a roundabout
The pretty nurses is selling poppies from a tray”
とあり,歌を聞くたびにその光景が思い出される.

冒頭の図はJohn Curtis's British Entomology (England, 1834-1838)
Papaver Rhaeas & Acontia Catena (Brixton Beauty),銅版手彩色

追記 11月11日 NHK の朝のニュースで,ロサンゼルス・ギャラクシー(Los Angeles Galaxy)のデビッド・ベッカム(David Robert Joseph Beckham OBE)が 11/03 に 2 - 1 で New York Red Bulls を破ったゲームでの貢献についてのインタビューを放映していたが,そのとききっちりとしたスーツ姿の彼の右胸にこのヒナゲシの造花がつけられていた.大英帝国から勲位(OBE)を受けた男として,さすがと感心した.

追記2.11月11日の朝日新聞夕刊に,「サッカー・イングランド代表ユニホームにポピー」という見出しで以下の記事が掲載された.サッカーのイングランド協会(FA)は 12 日にロンドンのウェンブリースタジアムで行われるスペインとの親善試合で,Poppy Day にあわせてユニホームの胸にポピーを縫い付けて出場することを予定していた.しかし,「代表ユニホームに政治や宗教,商業宣伝につながるものをつけてはならない」との規定を持つFIFAが認めなかったが,キャメロン英首相や,FA 会長を務めるウィリアム王子が反発したため,選手の腕の喪章の上にポピーを縫い付けることで妥協したとのこと.英国における,第一次世界大戦の戦没者追悼の日の重要性がうかがい知れる.

追記3. 上記親善試合の結果
イングランドは昨夏の南アW杯王者・スペインにホームで1-0勝利。後半4分にMFランパード(チェルシー)がヘディングで押し込み決勝点を奪った。」 FA の HP のビデオを見ると,英国のペレーヤーは腕に巻いた黒い腕章にポピーのマークをつけていた.

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