2011年11月21日月曜日

ヒマワリ (4/4)  キルヒャーのヒマワリ時計 向日性,何故東を向くか? 体内時計の関与

Helianthus annuus
2001年7月
開いたヒマワリの花が太陽とともに回転するという説は,現在では否定されているが,まだヒマワリがめずらしかった十七世紀に,好奇心旺盛なドイツの万能学者アタナシウス・キルヒャー (Athanasius Kircher, 1601 - 1680)はホロスコピオン・ヘリオトロピコン (ヒマワリ時計)を考案した.『磁石あるいは磁気の法』 (Magnes sive de arte magnetica 1641) という著作(下右図)に掲載された銅版画では,水盤のなかにコルクの円盤が浮いており、コルクの中央から一本のヒマワリの茎がまっすぐ伸びている.花の中心には指針がついているので,太陽が動けばコルクといっしょにヒマワリがぐるぐる回転して,指針によって時を指示するという仕掛けである(左図).
彼の場合,光ではなくて,太陽の磁力を受けて,ヒマワリの花が回転すると考えており,したがって,曇天でも時計として機能するというのがみそのようだ.アタナシウス・キルヒャーを記念した博物館にはこの時計の模型も展示されているそうだが,実際に動いているのか否かは確認できなかった.
The sunflower clock, from Kircher, "Magnes, sive De Arte Magnetica" (1643 ed.), p. 644.


ヒマワリの若い蕾は確かに太陽の動きにつれてその方向を変え,日没後夜の間にその方向を東に戻し,日出と共にまたその方向を変える.東の方角は記憶されており,鉢植えのヒマワリの方向を変えると,しばらくの間は夜の間に記憶に基づいた東へと蕾の向きを変える.成熟するにしたがって,東から西への運動の幅は小さくなり (下左図,A R G Lang & J E Begg,瀧本敦『ヒマワリはなぜ東を向くか』中公新書 1993 より引用)開花時には,花の向きは東へと固定される.


この首ふり運動の原動力はオーキシンという名の植物ホルモンで,日の当たらない陰の部分の濃度が高くなるため,茎の東面と西面の成長が交互に促進され,若いヒマワリは東から西へ首を振る.このオーキシンの不均衡化は,このホルモンの日当たり部分から影の部分への移動である(コロドニー・ウェント説)とされ,アイソトープで標識化されたオーキシンの投与により,日の当たる部分で分解するのではなく,日当たりから日陰への移動が原因だという事が,トウモロコシ幼葉鞘の実験で証明された.(日本植物生理学会-みんなの広場).

茎が成長をやめる時期,すなわちオーキシンの作用がなくなる時期には,花の向きが東向に固定されるので,ヒマワリ畑のヒマワリの花は殆ど全てが東を向いてしまう.ではなぜ,他の方向ではなく東へ固定化されるのかについては,わかっていないようだが,多数の花が同方向を向くことによって,受粉昆虫を遠くからひきつける効果が増大するからではないかという説や,「東を向いていると朝日があたり、夜露が早く乾燥するので、病原菌のまんえんを防ぐことができる」という説もある.しかし,東の方向を向くことにそんなに利点があるのなら,なぜ,他の植物でも全部の花が東を向かないのかという疑問も起こる.

ヒマワリは古くから,食用としての種を採るため,また観賞用に育てられて,人との付き合いの長い植物だが,インカやアズテックで神格化されていたのも頷ける謎の多い植物でもある.

ヒマワリの花の首振り運動についての興味深い深い報告が,最近発表された.(2016-08-23)
「体内時計によるヒマワリの日周運動の制御,花の向き,受粉昆虫の訪問」
 米カリフォルニア大(University of California - Davis)の研究チームが,成長途中のヒマワリは,昼は太陽光を受けて東から西へ首を振り,夜は体内時計の働きで元に戻ること,この生体リズムを乱すと,成長が妨げられこと.更に東を向いて開花することは,花の温度を上げることによって訪問する受粉昆虫の数を増やす効果があることを実験的に解明した(201685日付の米科学誌サイエンス(H. S. Atamian, N. M. Creux, E. A. Brown, A. G. Garner, B. K. Blackman, S. L. Harmer. Circadian regulation of sunflower heliotropism, floral orientation, and pollinator visits. Science, 2016; 353 (6299): 587)).
 つぼみの状態のヒマワリの鉢植えを実験室に持ち込み,青色発光ダイオード(LED)の照明を頂上から照らすると,数日間は,東から西へ,そして東へという運動を行うが,やがてその運動は止まってしまう.再度太陽の動きをまねた照明をあてると,首を振る動きが再開される.
照明を16時間点灯・8時間消灯する24時間サイクルから,20時間点灯・10時間消灯の30時間サイクルに変えると,消灯時に西から東へ戻る動きが不安定になった.体内時計が乱れたためと考えられる.遺伝子の発現の検討から,昼は太陽光を受けて茎の東側の成長が速いために次第に西を向き,夜は体内時計の働きで茎の西側の成長が速くなって東向きに戻ることが分かった.
ヒマワリが首を振れないよう固定したり,鉢植えのヒマワリを朝に西,夕方に東を向くように手で回したりすると,成長が妨げられ,全体の重さ (biomass) や葉の面積が1割減った.
 成長し終えて開花期になると,障害物がない開けた場所では,体内時計が,午後や夕方の日光より,早朝の日光に強く反応するようにして,花が東を向いたままになる.
東向きだと花が朝に太陽光を受けて早く温度が上がり,受粉を担うハチなどの虫がよく集まる効果があった.西の方向に向かせておくと集まる昆虫の数は2割に減ったが,赤外線ランプで花の温度を上げると,その数は東向きの花と同等となった.

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