From“The Picture of Dorian Gray” (1890) by Oscar Wilde (1854 - 1900)
いつものとおり、たてつづけにたばこを吸いながら、ねそべっているベルシア鞍袋の寝椅子の片隅から、へンリー・ウォットン卿は蜂蜜のように甘く蜂蜜のような色をしたきんぐさりの花のかすかな光をわずかにとらえることができたが、わななくようなその枝々はこの花の炎にも似た美の重荷に耐えかねるかの風情であった。
『ドリアン・グレエの絵姿』(オスカー・ワイルド全集Ⅰ,西村孝次訳,青土社 1988)
30数年前,英国ケンブリッジの住宅街で初めて見た時は,エニシダにしては高木だし,花の黄色いフジはないし,三小葉だし,と分からなかったが,Golden Chain, Golden Shower と聞いてなるほどと合点がいった(撮影:両者とも1979年6月,左図の草地の白い花はヒナギク).
スペインからバルカン半島の地中海沿岸の山地に自生するマメ科の樹木.
古代ギリシャの博物学者テオフラストス (Theophrastus, 371
B.C. – 287 B.C.) は紀元前 300 年以上も前に著わした『植物原因論』(Historia Plantarum (Enquiry into Plants / Inquiry into Plants) 左図) に,この木の心材の堅牢性は黒檀と同等と記している.
“ENQUIRY INTO PLANTS, V. iii. 1, Of
differences in the texture of different woods.
Box and ebony seem to have the closest and heaviest
wood ; for their wood does not even float on water. This applies to the
box-tree as a whole, and to the core of the ebony, which contains the black pigment.
The nettle-tree also is very close and heavy, and so is the core of the oak,
which is called 'heart of oak,' and to a still greater degree this is true of
the core of laburnum ; for this seems to resemble the ebony.”
“Theophrastus: Enquiry into plants, and
minor works on odours and weather signs, with an English translation” by Sir
Arthur Hort (1864-1935), The Loeb Classical Library; London ,G. P. Putnam's Sons,1916.
第5巻
第三章 材質の相違と材質に応じた用途
セイヨウツゲは最も緻密で重く、コクタン類も同様と思われる。事実、水に浮きもしない。とくにツゲ類は全体が、コクタン類では心材(メートラー)が最も緻密で重い。なお後者の心材は色も黒い。ちなみに、他の木のなかでは〔ナツメ属の〕「ロートス」も緻密で重い。「黒いオーク」と呼ばれているオーク類の心材も緻密で、キングサリの心材はそれ以上に緻密である。実際、これはコクタン類によく似ていると思われる。
『テオブラストス 植物誌 2』小川洋子訳 西洋古典叢書 京都大学学術出版会 (2015)
ローマ時代の博物学者のガイウス・プリニウス・セクンドゥス(Gaius Plinius Secundus, 22 / 23 – 79)の”Naturalis historia 『博物誌』” (77 A. D.)和訳:大槻真一郎編『プリニウス博物誌』「植物篇」(八坂書房 1994)には,
「水を嫌うのは、イトスギ、クルミ,クリ、キングサリである。このキングサリもアルプス特有の木で、一般には知られていない。その木材は堅くて白い色をしており、花は長さが一クビトウム(約四四センチ)もあるが、ミツバチは触れようともしない。」と,更に,「(ブドウのための)最良の添え木は、先に述べたもの(本巻・147(*クリ)・151(*アエスクルス-コナラ属)参照)、あるいはカシやオリーブから作った杭であるが、それがなければ、ネズ(おもにセイヨウネズ)やイトスギ、キングサリ(ロブルヌム属)、ニワトコなどから作った杭がよい。その他の種類の木から作った杭は、毎年切り直してやる。」とあり,材の堅く腐りにくいこと,アルプスにもあること(L. alpinum),また花の房が長いことが記述されている.
英国では,ジョン・ジェラード(John Gerard aka John Gerarde, 1545 – 1611 or 1612) が自分の庭で育て,彼の “The herbal, or, General Historie of plantes 『本草あるいは一般の植物誌』” (1597) に絵と共に,Anagyris, Laburnum 及び Bean Trefoil の名で「三つに分かれた薄緑色の葉を持ち,黄色い花が房状に咲く.花後,小さな平べったい莢が出来る.フランス南部とスペインの大部分に自生し,他の土地では街路樹として植えられている.(葉の)ジュースはワインの飲みすぎによる頭痛に効く.種を食べると嘔吐を催す」等と記した.
この木を覆うほどに咲く黄色い花は好まれ,また英国の気候にもあったと見え,30年後に著されたジョン・パーキンソン(John Parkinson, 1567-1650) の “Paradisi in Sole Paradisus Terrestris (Park-in-Sun's) 『日当たりの良い楽園・地上の楽園』” (1629)(左図)には,「ここ英国でも,またイタリアなどの原産地でも薬用として使われてはいないが,かなり強い吐き気を催させる」とあり,また” It growth in many gardens with us.” とこの時点では英国の庭園に広く普及していたことが分かる.
太陽の乏しい英国ではその明るさが好まれていたのであろうか,冒頭のオスカー・ワイルドはじめ,多くの文学者の作品に,晩春の点景として登場する.
キングサリ Laburnum (2/2) - 毒性・薬効(禁煙補助),Cytisine シスチン,ルース・レンデル 『悪意の傷跡』
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