2013年3月23日土曜日

マンサク(2/2) シーボルト,Botanical Magazine,園芸種

Hamamelis japonica
Curtis’s Botanical Magazine (1882) 石版手彩色
MOBAT
マンサクに学名をつけたのは,シーボルトとツッカリーニ.1845 年の “Abhandlungen der Mathematisch-Physikalischen Classe der Königlich Bayerischen Akademie der Wissenschaften. Munich (バイエルンの自然科学学会紀要)” の “Flora japonica familiae naturales (日本植物誌分類大綱)” に発表した(左図).
また,マンサクの仲間は東アジア(中国・日本)と北米大陸東部に分布し,Asa Gray が提唱した「東アジア・北米隔離分布」を示す植物群の一つとして有名.

英国には米国産のアメリカマンサク(H. virginiana)が 1736 年に移入されたが,あまり花木としての評価は高くなかった.十八世紀の植物学者マーシャルは,その花は「まったく見栄えがしないが,咲きかけの頃には,人によっては欲しいと思うかもしれない.この灌木についてはそれ以上,庭師に対して言うことはない.マンサクという植物は,自然が植物学者の真面目な厳しいおめがねにかなうようにデザインしたもののようである」と述べている.

1862 年にヴィーチ商会が日本からマンサクを導入したが,この木は簡単に変異をおこす灌木とされ,ある栽培家などは,「種子を播くと,どんな種類でも手に入る」(ビーン)と嘆いているほどであった.
Enum. Pl. Jap. (1875)
1882 年のカーチスのボタニカルマガジンには,冒頭の美しい絵とともに「北米産の魔女ハシバミと近縁にある非常に興味深い植物で,赤い萼裂片の付いた花はやや大きく,また fruiting-calyx はやや短い.葉では殆んど区別が付かないが,北米産のほうが,通常細くまたしばしばより分葉している.(フランスの日本産植物の研究家として名高く,フラサバソウに名を残す)フランチェットFranchet とサバチェルSavatier 氏の(上右図),葉に重点を置いた見分け方はあまり信頼性が置けない」などと,アメリカマンサクとの類似性とその二種の見分け方に力点を置いて記載し,また日本と米国東部との植物相の類似性にも言及している.

英国においてすべてのマンサク類の中で最も人気があるのは,シナマンサク(H. mollis)である.これは,ヴィーチ商会のために植物を収集していたチャールズ・マリーズが 1879 年に九江(江西省)で見つけた.しかし,マリーズがイギリスに送った株は,ヴィーチ商会のタームウッド種苗園で 20 年以上も放置されたままであった.というのは,変異をおこしやすいマンサクの一変異であろうと考えられていたからである.マンサクの花びらが,「まるで波打って縮んでいるリボン」(ストーカー “A Gardener’s Progress 『ある庭師の進歩』” (1938))のように見えるのに,シナマンサクの花びらが真っすぐである点が特徴的である.

'Ruby Glow' from RHS
シナマンサクは 1918 年に王立園芸協会の FCC(First Class Certificate)を獲得し,AM (Award of Merit (メリット賞)) は 1932 年に与えられた.花弁が長く花数も多い園芸種 ‘Pallida’ は 1932 年以前にウィズレイ園芸植物園で育てられていたが,これも園芸界で最も高い賞を勝ち取った.他にも赤褐色の花の 'Jelena' ,より赤みの濃い ‘Ruby Glow’ ,真っ赤な花をつける ‘Diane’ など観賞価値の高い園芸種が作出された.これらの種の開花時の画像は王立園芸協会の HP で見ることが出来る.

ヴァージニアへの入植が行われるかなり前から,アメリカ先住民は収斂作用をもっている各種のアメリカマンサクの内皮を,眼病や炎症やできものの外用薬として使用していて,今も治療薬として役に立っている.

一般にもよく知られている化粧品メーカー「ポンズ」が,最初に開発した「ポンドのエキス」("Pond’s extract" 右図)では,ハマメリスエキスがその効力の主成分である.日本で現在販売されている「ポンズ・クリームクレンジング」にも,コラーゲン,スクワランとともに,ハマメリスエキスが含まれていると記されている(http://www.ponds.jp/products/lifting_1.html).

ハマメリスは hama,「いっしょ」の意味,と melis,「リンゴ」の意味からできた言葉で,どのような植物であるか同定されていない植物についていた名前ではあるが,果実と花が同時に見られるこの類につけられた.

一方,英語名「魔女のハシバミ」(Witch-hazel)は,H. virginiana につけられたものであると考えられている.初期のアメリカの入植者は,水のありかを探すロッド・ダウジング(rod-dowsing)にハシバミの木の枝を使ったり,また H. virginiana  の枝を用いたからである.しかし,この名前は「曲がりやすい」とか,「弾力性がある」という意味のアングロ・サクソン語の wice とか wic という言葉からでてきたものであるかもしれないとの説もあり,日本における「ねそ(綯麻)」との類似性が興味深い.

冒頭の図譜の説明:1, Bud (from “Gardeners’ Chronicle”); 2, portion or flower laid open; 3, petal; 4 and 5, front and side view of stamens; 6, rudimentary stamens; 7, carpels; 8, transverse section of a carpel

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