2013年3月5日火曜日

ロウバイ(2/3)  多識編・物品識名・物類品隲・本草綱目啓蒙,荷花梅

Chimonanthus praecox
マンゲツロウバイ (Chimonanthus praecox var. lutea cv. Mangetsu)
画像提供 つくば市 E.T.さん
以下にいくつかの江戸時代の辞書・本草書の蠟梅の項を示す.渡来した時期が遅かったためか,記述は『本草綱目』の写しが多く,また方言名が殆んどないのが目に付く.源内は檀香梅の中国からの渡来は享保年間で,俗に唐蠟梅と呼ばれるとした.さらにこの花を一枝挿すと部屋中に馥郁たる香が満が,花瓶の水には猛毒が移ると記している.蘭山の『本草綱目啓蒙』には,近年,荷花梅という花被全体が黄色いもの(ソシンロウバイか)が渡来した.また『群芳譜』には臘月の時に開くので臘梅といっているが,この名は非であるとしている.


NDL
★林羅山『多識編』 (1612) (再版 1630、1631) (左図,左)
蠟梅 ラフハイ 綱目(本草綱目)異名 黄梅花

★平賀源内『物類品隲』巻之四 木部(1763) (左図,中央)
蠟梅 和名ナンキンウメ
東璧(*本草綱目の編者,李時珍の字)曰 蠟梅種凡ソ三種 子種ヲ以出テ接経不者ノ臘月小花ヲ開而香淡シ 狗蝿梅ト名 接ヲ経テ花疎開ク時合口ナル者梅馨口梅ト名ヅク 花密ニシテ而香濃紫檀ノ如者ハ檀香梅ト名ヅク 最モ佳ナリ 實ヲ結コト垂鈴ノ如尖リ長寸余 子其中ニ在ト 今本邦狗蝿檀香ノ二種アリ
○狗蝿梅 江村如圭曰ク昔シ本邦之有コトヲ不聞(*きかず)
後水屋帝時朝鮮自(*より)来ルト今ハ處處多植
○檀香梅 ○漢種享保中種ヲ伝へテ官園ニ植 俗唐蠟梅ト云 花狗蠅梅ニ比スニ大ナルコト三倍 色琥珀ノゴトク 帯ニ近キ処深紫色ニシテ紫檀ノ色ノゴトシ 香甚濃ナリ 若シ一枝ヲ瓶中ニ挿メバ香馥室ニ満ツ ○本草ニ曰ク花瓶水之ヲ飲メハ人ヲ殺ス 蠟梅尤甚(*尤甚:ゆうじん 非常に.際立って.ひときわ)

★岡林清達・水谷豊文『物品識名』乾 (1809 跋) (左上図,右)
ラウバイ 通名ナンキンムメ 蠟梅 狗蝿梅 汝南国史
 シンノラウバイ 檀香梅 蠟梅ノ條

★小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1803-1806) 巻之三十二 木之三 灌木類
蠟梅 ナンキンウメ カラウメ トウウメ ランウメ 今通名 〔一名〕奇友(事物紺珠)九英梅(汝南圃史)狗蝿花(汝南圃史)狗英(花史左編)狗櫻(群芳譜)
蠟梅ノ説一ナラズ。時珍ノ説ハ、困其与梅同時、香又相近、色似蜜蝋、故得此名ト云。群芳譜ニ、人言臘時開、故以臘名非也、為三色正似黄蠟耳ト云。又似女工撚蠟所成、故名ト云。彙苑詳註来其蠟国ト云。コノ木ハ百九代後水尾帝*ノ時、朝鮮ヨリ来ルト云伝。故ニ俗ニ、カラウメ等ノ名アレドモ、今二至テハ皆蠟梅ト称ス。ソノ木叢生ス。*(在位:慶長16年(1611) - 寛永6年(1629))

高キ者ハ丈余、低キ者ハ数尺、枝葉対生ス。葉ノ形狭長ニシテ尖リ、長サ四五寸、肌糙渋ニシテ加条(ムク)葉ノ如シ。唐山ニテハ、ミガキモノニ用ユルコト物理小識ニ見エタリ。冬月、梅ト同時ニ花ヲ開ク。皆下ニ向フ。緑萼。弁ハ細長シテ尖リ、黄白色ニシテ光リアリ。蠟花ノ如シ。故ニ狗蝿梅ト名ク。狗蝿(イヌバイ)ノ色ニ似タルナリ。弁ハ九出ナリ。故ニ叉九英梅ト名ク。花中ニ蘂ナシ。小弁九出シ、紫黒色ナリ。コノ花開ク時ハ其香一室ニ盈。花謝シテ稀ニ実ヲ結ブ。大サ揖ノ如ク、長サ寸余、内ニ数子アリ、形雲実(カハラフヂ)ニ似テ、長ク褐色、甚硬シ。一種檀香梅、享保年中ニ渡ル。即、蠟梅中ノ上品ナリ。唐蠟梅ト呼。今ハ世上ニ多栽、直ニ檀香梅ト称ス。葉ハ九英梅ヨリ短ク厚ク、小柿葉ノ如シ。花ハ大ニシテ色深黄、弁円ニシテ梅花弁ノ如シ。内ノ小紫弁最モ美ハシ。香モ亦多シ。花正開セズ、常ニ半合ニシテ下ニ向フ。故ニ又磐口梅ト呼。今世ニ檀香梅ト称シ栽ル者ハ、多ハ荷花梅ニシテ真物ニ非ズ。即、檀香梅ノ一種、下品ナリ。荷花梅ハ弁狭ク尖リテ九英梅ト同ジ。其色深黄ニシテ正開ス。檀香梅ノ弁、円ニシテ半含ナルニ異ナリ。秘伝花鏡ニ、惟円弁深黄、形似白梅雖盛開如半含者名磐口、最為世珍、若瓶供一枝、香可盈室、狗英亦香、而形色不及、近日円弁者、如荷花而徴有尖、僅免狗英者ト云。此文ニテ檀梅香ト荷花梅ノ分別ヲ知べシ。又時珍、磐口梅、檀香梅ヲ分テ二ツトスルノ誤ヲ知べシ。

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