2013年3月4日月曜日

ロウバイ (1/3) 本草綱目・温故知新書・増補地錦抄・大和本草・和漢三才図会・救荒本草・花彙

Chimonanthus praecox
2010年1月 皇居東御苑
原産地中国では名花として高く評価され,雪中四友(玉梅,臘梅,水仙,山茶)や,名花十友*の一つとして絵画や詩文の題材にされている.花が薬用としても使われていた.日本には,江戸時代初期,後水尾帝の時に朝鮮から渡来したとされている.
*曾端白(宋)が花十種を品評,雅友になぞらえたもの.一,桂花(仙友) 二,蓮花(浄友) 三,海棠(名友)四,酴靡(韻友) 五,梅花(清友) 六,菊花(佳友)七,梔子花(禅友) 八,端香花(殊友)九,蘭花(芳友)十,蠟梅花(奇友)

葉のない冬の時期に,明るい色の薫り高い花を開く事から,日本でも珍重され広く栽培された.また,種子は有毒ながら,花は飢饉の際に食べるられるとされている(救荒本草)が,その図はまったくのウメ.葉については形状はカキノキの葉に似ているとしているが,ムクノキの葉と同様に,ざらざらしているので木竹製品を磨くのに用いられるとしている書もあり,興味深い.

「臘梅」として記載された三種のうち,花としては評価が低い「狗蠅梅」が現在のロウバイであり,より薫り高く花が大きいと評価が高い「檀香梅」,現在のダンコウバイ(クスノキ科クロモジ属)ではなく,トウロウバイChimonanthus praecox var. grandiflorusであるとされている.なお,「狗蠅」とは体色が黄褐色のハエで,色が似ていることからこの名が臘梅につけられたが,花には気の毒のように思われる.参考のために,シーボルトのために多くの植物・動物・風俗絵を描いた川原慶賀(1786-1860以後)の「イヌバエ、ハエの一種」(ライデン国立民族学博物館蔵)の図を示す.

なお,花弁が蝋細工のように見えるため,「蠟梅」と名づけられており,臘月(陰暦十二月)に咲くからと「臘梅」と書くのは誤り.

NDL 和刻本草綱目
★明の李時珍選『本草綱目』(初版1596),左図 和刻本
木之三 (灌木類五十一種)
蠟梅(《綱目》)【釋名】梅花
時珍曰此物本非梅類,因其與梅同時,香又相近,色似蜜蠟,故得此名
【集解】時珍曰蠟梅小樹,叢枝尖葉。種凡三種以子種出不經接者,臘月開小花而香淡,名狗蠅梅;經接而花疏,開時含口者,名磬口梅;花密而香濃,色深如紫檀者,名檀香梅,最佳。結實如垂鈴,尖長寸余,子在其中。其樹皮浸水磨墨,有光采
花【氣味】辛,,無毒 【主治】解暑生津(時珍)
NDL 温故知新書
*陰暦十二月の異称

★『温故知新書(下)』「ラ」の部,「生植(植物)」の門に「蠟梅蘭(ラフハイラン)」とあるのが磯野*の初見.(右図)この書は室町時代後期の文明16年(1484年)に成立した全2巻(3冊)の国語辞典.著者は新羅社宮司大伴泰広(大伴広公),序文は園城寺学侶尊通.所収語数は約13,000で,いろは順が一般的であったこの時代に五十音順を採用した最古のものといわれている.
*磯野直秀『資料別・草木名初見リスト』慶應義塾大学日吉紀要 No.45, 69-94 (2009)

NDL 増補地錦抄
★伊藤伊兵衛『増補地錦抄』(1695)巻之三(左図)
○さつき梅桃るひ
南京梅 花黄色梅にてハなく十月より花咲ゆへ臘梅とも云

★貝原益軒『大和本草 (1709) 巻之十二木乃下花木
蠟梅 本草灌木ニ載ス 近年中夏ヨリワタル 臘月ニ小黄花ヲ開ク 蘭ノ香ニ似タリ 中華ノ書ニ多ク記シ詩ニモ詠セリ 花ノ容ハ不好 葉ハ柿ニ似テ柿ノ葉ヨリ小ニメ長シ 葉ニ少シイラアリ 其高二三尺四五尺ニスギズ 大坂ニテハカラ梅ト云 梅ノ類ニハアラス 根ニ香気アリ 味辛辣木香(ノ)如ト云 中華ノ本(ノ)名(ハ)黄梅 後世蠟梅称ト云ヘリ

★寺島良安『和漢三才図会』(1713頃),現代語訳 島田勇雄,竹島淳夫,樋口元巳,平凡社-東洋文庫
蠟梅 らふばい 黄梅花〔俗に南京梅という〕
『本草綱目に次のようにいう。臘梅はもともと梅の類ではない。それは梅と時期を同じくし、香りもよく似、色も蜜臘に似ているので、こう名づけているのである。小樹で枝は叢(むらが)り、葉は尖り、垂鈴のような実を結ぶ。尖っていて長さ一寸余。子はその中にある。樹皮を水に浸し磨くと黒くなって光沢がある。お
よそ次の三種がある。
狗蠅梅(くようばい) 子を種えて育て、接木しないもの。臘月(十二月)に小花を開き、香りは淡い。
磐口梅(けいこうばい) 接木して育てる。花は疎(まばら)で、開くときに口を含んだように半開きで平開しない
檀香梅(だんこうばい) 花は密で香り濃く、色は深黄。紫檀のようなもの。最も住いものとされる。 
△思うに蠟梅は花弁六つ。単葉で小梅の花に似ていて黄色。枝は柔らかに撓う。遠くから見ると日本の連翹(湿草類)のようである。ただし連翹の花弁は四つで盞(ちょこ)の形をしている。
『農政全書』に「臘梅の枝条(えだ)は李(すもも)によく似ている。葉は桃の葉に似ていて寛(ひろ)く大きく、紋がやや粗(あら)い。淡黄花を開く。味は甘く徴苦」(荒政、木部)とある。

NDL 救荒本草
★『周憲王救荒本草』明徐光啓輯 茨城多左衞門等刊(1716)〔周憲王(周定王)朱橚選『救荒本草』(初版1406)〕巻之十一(左図) 
木部 花可食
臘梅花 (ナンキンムメ)
南方ニ多ク産ス 今北土ニモ亦之有 其ノ樹枝條頗フル李ニ類ス 其葉柿葉ニ似テ而寛大 紋微麄 淡黄花ヲ開ク 味甘ク微苦

NDL 花彙

救餓 花ヲ採リ煠キ熟シ水ニ浸シ淘浄シ油塩ニ調ヘ食

★小野蘭山『花彙』(1765)木部之三(右図)
九英梅 蠟梅 カラムメ ランムメ                            汝南圃史
今處々ニ植フ モト異邦ノ種ナリ 樹高サ丈余 枝条(エダ)叢生ス 葉朱果(カキ)ニ類シテ狭長尖峭(トガル)頗フル硬沙(カタクザラツク)ナリ 亦糙葉(ムク)樹ノ葉ニカヘテ木竹ヲ治ムベシ 季冬花ヲヒラク 大サ五銖銭ノ如ク九出淡黄色 中心又九葉ノ小花ヲナス 深紫色藜蘆(シュロソウ)花ニ似タリ 實ヲ結ブ 尖長寸許 内子自ラ落テ生ジヤスシ

川原慶賀(1786-1860以後)
イヌバエ、ハエの一種
A kind of fly
ライデン国立民族学博物館


「ロウバイ(2/3)  多識編・物品識名・物類品隲・本草綱目啓蒙」に続く

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