2017年5月21日日曜日

アマナ-(4-1) 中国文献-1 山慈姑, 老鴉辧 本草拾遺,本草綱目,頭註国訳本草綱目,植物名實圖考

Amana edulis
2011年春 いわき市の T. S. さんから頂いた鱗茎を鉢で育てていたが,なかなか花が着かないので
地植えにするため,鉢から抜いた.今年ようやく一輪だけ花が着いた.
近世まで日本でアマナの漢名として使われていた「山慈姑」の名が日本に伝わったのは,江戸時代初期に『本草綱目』によってであり,それ以前に渡来した『神農本草経』,『本草集注』,『新修本草』,『嘉祐本草』,『(大観)証類本草』には,記載されていなかったと思われる(未確認).
「慈姑」とは,オモダカ科のクワイ Sagittaria trifolia L. 'Caerulea' であり,食べられる地下部分の形状や味が似ていて,山中に生えているから,この名がついたと思われる.即ち「ヤマグワイ」.

中国の本草書では,『本草綱目』以前では,★陳藏器(681757) 撰『本草拾遺』(739)に「山慈菰」の項目があり,
「草部下品
山慈菰 根有小毒.主,癰腫瘡●(疒の中に娄)瘰癧結核等,醋磨傳之.亦剝人面皮,除●(皮+干)●(黒+曽).生山中濕地,一名金燈花,葉似車前,根如慈菇.零陵間又有團慈菇,根似小蒜,所主與此略同 新補見陳藏器及日華子」(左図『陳藏器本草拾遺不分卷』 NDL 江戸時代寫)とある.

一方,林羅山が長崎で手に入れ,家康に献上し,『多識編』その後,『和刻 江西本 本草綱目』を作成したとされる★李時珍『本草綱目(1590) の「草之二 山草類下」には
山慈姑 (宋嘉)
【釋名】金燈(拾遺),鬼燈檠(綱目),朱姑(綱目),鹿蹄草(綱目),無義草.時珍曰根狀如水慈姑,花狀如燈籠而朱色,故有諸名.段成式酉陽雜俎云 金燈之花與葉不相見,人惡種之,謂之無義草.又有試劍草,亦名鹿蹄草,與此同名,見後草之五.
【集解】藏器曰山慈姑生山中濕地,葉似車前,根如慈姑.大明曰零陵間有一種團 慈姑,根如小蒜,所主略同.時珍曰山慈姑處處有之.冬月生葉,如水仙花之葉而狹.二月中抽一莖,如箭杆,高尺許.莖端開花白色,亦有紅色,黄色者,上有黑點,其花乃衆花 簇成一,如絲紐成可愛.三月結子,有三棱.四月初苗枯,即掘取其根,狀如慈姑及小蒜,遲則苗腐難尋矣.根苗與老鴉蒜極相類,但老鴉根無毛,慈姑有毛殼包裹爲異爾.用之,去毛殼.
【氣味】甘,微辛,有小毒.(以下略)」とある(右図,金陵本 NDL).
和訳としては,★『頭註国訳本草綱目』白井光太郎(監修),鈴木真海(翻訳)(1929)春陽堂 に,
一)山慈姑(宋 嘉祐)
和名 さんじこ
學名 Coelogyno bulbolicuides, Franch.
科名 らん科(蘭科)
〔釋名〕金燈(拾遺)、鬼燈檠(綱目)、朱姑(綱目)、鹿蹄草(綱目)、無義草。時珍曰く、根の形状が水慈姑1)のやう、花の形狀が燈籠(とうろう)のやうで朱色だから右の諸名がある。段成式の酉陽雜俎(いうやうざっそ)に『金燈は花と葉が時を事にして相見えぬところから、世の人はこれの生えるのを惡み、無義草と呼ぶ』とある。又試劍草といふ草にも鹿蹄草なる名称があつて同名だ。その草は後の「草之五」の篇に記載する。
〔集解〕藏器曰く、山慈姑(さんじこ)は山中の濕地に生ずるもので、葉は車前2)のやう、根は慈姑2)のやうだ。大明曰く零陵地方にある團慈姑といふ一種も、根は小蒜3)(せうさん)のやうで治病上の主効が略ぼ同様だ。
時珍曰山慈姑は諸處にあるものだ。冬季に水仙花の葉のやうな狹い葉が生え、その葉が二月中に枯れてから箭簳4)(せんかん)のやうな高さ一尺ばかりの一本の莖端に白色の花を開く。また紅色、黄色のものもあり、上に黑點がある。多数の花が簇(むらが)つて(いちだ)になり、絲の紐を結び合はせて作つたやうな可愛い形のものだ。三月に三稜のある子を結び、四月の初に苗が枯れる。その頃根を掘り取るのだが、その形狀は慈姑か小蒜のやうだ。時期が遲れると苗が腐つて所在が判らなくなる。
根と苗は老鴉蒜5)(らうあさん)に極めてよく似ているが、老鴉根には毛がなく、この慈姑は毛殼に包裹(はうくわ)されてゐる點が異るだけだ。用ゐるには毛殼を取り去る。
〔氣味〕【甘く微し辛し,小毒あり】 (以下 略)」

その頭注に牧野富太郎博士は,
「(一)牧野云フ、其原植物ハ多分下ニ記入シタモノデアラウ叉ユリ科ノあまな即チ Tulipa edulis, Baker ヲ従來之レニ充テ來ツテイルガ今直チニ之レヲ全然否定スル譯ニモ行カヌ點モアルヤウニ思フ。植物名實圖考ニやまいも科ノかしういも6)ヲ山慈姑トシテアルガ之レハ無論眞物デハナイ。
白井曰ク、佛人著支那安南藥材篇ニ山慈姑ノ學名ハ Amaryllis Ines, L. ヲ充ツ。一説トシテ之ヲ掲グ。」
としている.
1)水慈姑,慈姑:クワイ/2)車前:オオバコ/3)小蒜:ギョウジャニンニク/4)箭簳:ウキヤガラか?/5)老鴉蒜:ヒガンバナ/6) やまいも科ノかしういも:タデ科ツルドクダミ(何首烏カシュウ)か?

両書の記述(葉の形はオオバコに似ていて,葉が枯れてから莖を伸ばし,白や黄や赤の花が簇生して着き,その花茎の長さもかなり長い)と挿画に従えば,山慈姑がアマナであるとは考えにくいが,この記述をすべて満たす植物もないようで,多くの植物が「山慈姑」と考定され,市場に出ていた(現在も).江戸時代,中国から輸入されていた「山慈姑」にも多くの種類があったと見えて,1712年脱稿の★松岡恕庵は『用薬須知』で,「山慈姑,此モノ種類多シ(中略)今漢ヨリ来ルモノハ真偽詳ナラズ」と嘆いていた.
日本において「カタクリ」とも考定されていたこともあったのは,葉の形と花の色(赤と白),黒点がある事に着目したからであろうか.

★呉其濬 (1789-1847)『植物名實圖考』清末 (1848)
呉其濬著の『植物名實圖考』三八巻と『同長編』二二巻は,薬草のみならず植物全般を対象とした中国初の本草書として名高い.『図考』には実物に接して描いた,かつて中国本草になかった写実的図もある.幕末~明治の植物学者・伊藤圭介はこれを高く評価し,植物に和名をあてて復刻.のち伊藤本から中国で再復刻された.
この書においては,「山慈姑」として「タデ科ツルドクダミ(何首烏 カシュウ Fallopia multiflora (Thunb.) Haraldson)」らしき蔓性の植物が描かれ,一方,図から「アマナ」と判るユリ科の植物が「老鴉辧」とされて記載されている.この「老鴉辧」は現代中国でもアマナの名称として用いられている.
「植物名實圖考 巻之十九蔓草類
山慈姑
山慈姑江酉湖南皆有之非花葉不相見者蔓生緑莖葉如蛾
眉豆葉而圍大深絞多皺根大如拳黒褐色四圍有白鬚長寸
餘蓬茸如蝟建昌士醫呼爲金線弔蝦蟇微肖其形以為敗毒
通氣散痰之藥余曽求坐拏草於汞豊令以此草應命殆未必
確」(左図上部.Internet Archives)

「植物名實圖考 巻之十三隰草類
老鴉辧
老鴉辧生田野中湖北謂之棉花包固始呼爲老鴉頭春初卽
生長葉舗地如萱草葉而屈曲榮結長至尺餘抽葶開辧尖
白花似海梔子而狭脊淡紫緑心黄蕊入夏卽枯根如獨顆蒜
郷人掘食味甘性温補」(左図下部.Internet Archives)

辧:実際は六辧で,挿図でも六辧
海梔子:學名Gardenia Ellis var fortuniana Lindl か?ヤエクチナシ
獨顆蒜:ヒトツネノニンニク 詳細不明

牧野が考定したラン科の植物は現学名 Pleione bulbocodioides (Franch.) Rolfe(タイリントキソウ属 Pleione (獨蒜蘭屬))で,現代中国でもその假球茎を山慈姑(shancigu)と呼び,薬用にする.そのほか地方によっては,サイハイラン Cremastra appendiculata (杜鵑蘭) やアマナ Amana edulis (老鴉瓣) など多様な植物の球茎を,山慈姑として用いる.

林俊清,難波恒雄「和漢薬の本草学的研究(8) 山慈姑について」薬史学雑誌,20(2)88-98 (1985) によれば,現代中国で用いられる山慈姑の類は,ラン科 (Orchidaceae),ユリ科 (Liliaceae),ツヅラフジ科 (Menispermaceae),サトイモ科 (Araceae),ウマノスズクサ科 (Aristolochiaceae)の五科,十種の植物に及ぶ.

アマナ-(4-2)中国文献-2 金燈花 三才圖會,花史左編,秘伝花鏡,植物名實圖考 

アマナ-(3) 黄精,萎蕤,麻黄,山慈姑の和名の推移.出雲風土記・新撰字鏡・本草和名・延喜式・倭名類聚抄・医心方・色葉字類抄・下学集・温故知新書・新刊多識編・和刻江西本 本草綱

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