2018年6月12日火曜日

ツグミ(14)「狩獵鳥獸」捕獲数 大正12年-昭和15年,岐阜県での鳥屋遊び,岐阜市案内,大井名勝

Turdus eunomus


大正七年(1918)に大改訂された「鳥獸獵規則」によって狩猟してよい「狩獵鳥獸」と指定されたツグミは,昭和二十二年に「鳥獸獵規則」が改訂されるまでは,主に霞網で大量に捕獲され,スズメと並んで最も多数が,量(羽×体重)ではスズメを抜いて最も多量に,捕獲されて食用とされた.
大正十二年度から昭和十五年度*で残っている公式の統計(「狩獵免許者ニ依ル鳥獸捕獲數調」農林省畜産局)では,昭和3年に440万羽をこえるツグミが捕獲されていた
*昭和8年度の記録は,NDLの公開デジタルでは見つけられなかった.

★農林省畜産局『狩獵統計』の「狩獵免許者ニ依ル鳥獸捕獲數調」には,大正七年(1918)の「鳥獸獵規則」によって狩猟してもよいとされた「狩獵鳥獸」全ての,大正十二年度から昭和十五年度の間の,狩獵免許者による捕獲実績が,各県別に記載されている.この表には各狩獵鳥獸の標準単価や標準重量も併記されていて,興味深い.

捕獲数のもっとも多かった昭和3年度ツグミの標準単価は 0.15 圓,標準重量は 0.082 kgとされ,同年度のスズメの標準単価は 0.05 圓,標準重量は 0.022 kgとされている(一圓 2,000 円で換算すると,ツグミは一羽 300 円,スズメは 100 円).これらの数値はあくまでも免許を取得していた者による公式な届け出に基づくので,密猟によってこれ以上の数のツグミが捕獲されていた可能性は否定できない.


捕獲数は昭和三年度をピークに漸減傾向が明らかで,乱獲による影響が考えられる.

安価ではあるが,捕獲数が多いため,その経済的な価値は捕獲全鳥類の中でも三番目で,スズメの十位を凌駕する.
留鳥のスズメと比較しても多いツグミの捕獲数は,地域的にも偏りがあり,捕獲数上位十位までの県で,全捕獲数の 80% 近くを占め,渡りの経路で,短期間に霞網で多量に捕獲されていたことが分かる.一方スズメは上位十県で 60% 以下であり,あまり地域的な偏りはないようだ.

多く捕獲できる地域では,霞網にかかったツグミをその場で焼いて,酒のつまみとして食べるのが秋の風物詩となり,客寄せのアトラクションとなった.また,粕漬として保存し,名産品として各地へ送った.金澤出身の徳田秋声は好み,夏目漱石は死の直前に賞味したという(次記事).

★岐阜市教育会編『岐阜市案内 : 附・長良川鵜飼記』(大正41916
「◎鶇獵(つぐみれう) 恵那(えな),加茂(かも),土岐(とき),の諸郡に於て秋期(十月下旬より十一月上旬迄)之を行ふ
 山頂に網を張り,囮を以て類を呼び之を捕ふ,其實况(じつきやう)甚だたくみにして,興あり,鳥叉味よく,古き以前よりこの地方の特産として鶇の糀漬(かうぢづけ)は最も有名(いうめい)なり.」

同じ岐阜県で,中山道大井宿を中心にし,現在の恵那市の中心地を構成する町の一つである大井町のツアーガイドともいうべき★松下辰造『大井名勝(大正91921) には
『大井名勝』(大正9) NDL
東濃の捕鳥 鶇(ツグメ) -鳥屋遊び
 東濃殊に木曾山系中なる恵那ヶ岳の峰續き阿木の龍泉寺山に於ては鶇鳥の捕獲數年々多大なり.抑ゝ鶇は素と西比利亞の産,其の産地の大曠原も漸く極寒降雪の期に達せんとするや,各其餌に滿足せんが爲め遂に一大群を作つて日本内地の最大山系上を辿りつゝ目的地南洋諸島へと渡り行かんとす,龍泉寺山近傍實に之れが衝路にして,時としては張りたる霞(カスミ)網を突破せらるゝ如きの大群團が襲來すること屢々なり.以て年々の捕獲量をも推察すべきなり.
 拂暁より午前八時前頃迄數百數千の鶇群が飛來するとき,突然百兵の踏來するが如く暴風にも似たらん其羽音,飛行機にも似たらん,其迂鳴り,舞ひ來り舞ひ下るところの光景は唯々壮絶凄絶と言ふの外なし.
 渡る鶇,群(ム)れに大恵那ひヾきけり.
其の之れが捕獲の法,先づ網場(アミバ)には霞網(カスミアミ)を張り,囮(オトリ)を備へ,曳鳥(ヒキトリ)を設け,且跳木(ハネキ)を装す,既にして囮先づ啼けば,天空の鶇之が爲め呼ばれ,飛翔徘徊のもと曳鳥もて之を誘ふ,機を見て跳木を揮へば終に網羅し得るの順序なり.循環転々羅するあり,逃ぐるあり,鳥屋内には巨瓶一筒,豫め醇酒を燗し赫々たる爐中に鶇を投じて之を燒かば濃脂滿々大に火勢を煽つて美肉忽ち成る,佳醤に浸して後ち且飲み且食ひ且網する其味,其快,其頻との相錯綜するところ忙殺場裏趣味津々として眞個秋天の一快事なり.
以上の殘禽餘鳥は大井近傍關戸山正家山愛宕山等各山丘上(サンキウゼウ)に鳥屋袋ありて之を捕獲するの設備あり,鶇の外シナイアトリカシラヒワ等の如き端鳥までを獲とらるゝ.季節は十月中旬より十一月下旬に亘る稍〃寒気且晴天の日,霜ある朝の如き尤も好し之を鳥屋遊びと云ふ,近年都會よりも,忙裏一日を割愛して態〃來観する人,尠からず.獲たる鶇は麹漬となし,後ち各所に向けて販賣する.即ち大井名産の一なり.」
と美文調でその行楽を描く.

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