2023年11月26日日曜日

コガネノハカタカラクサ(黄金野博多唐草)Tradescantia fluminensis 'Aurea' or T. f. ‘Gold Wing’

Tradescantia fluminensis 'Aurea' or T. f. ‘Gold Wing’ 


 ノハカタカラクサ(トキワカラクサ)は南アメリカ原産のツユクサ科の多年草.現在でも有効な学名をつけて発表したのは,ブラジル生まれのポルトガル人植物学者ヴェローゾ(José Mariano de Conceição Vellozo, 1742 - 1811) で,Florae fluminensis(『リオデジャネイロ植物誌』1825)及びその図譜部 Florae fluminensis icones” (1827) に簡明な記述と図を記した.この書籍の発行に至る数奇な物語は,Wikipedia の José Mariano de Conceição Vellozo の項に詳しい.
 その後欧州で温室植物として広く栽培され(E. Regel ”Gartenflora” vol. 16 p. 298 (1867)),数種の色変わりや模様入りの品種が作出された.日本に園芸植物として昭和初期に渡来したノハカタカラクサは,葉に帯状の白い斑が入っていた品種で,博多帯のようなのでハカタカラクサと呼ばれていた.しかし栽培場所から逸出すると斑がなくなって,親のノハカタカラクサとなって各地で野生化した.斑が残っているのは,シロフノハカタカラクサと呼ばれている.

 ノハカタカラクサの黄葉種(Tradescantia fluminensis 'Aurea')は,1991年に英国の王立園芸協会(RHS)のガーデン・メリット賞(A. G. M., Award of Garden Merit)を受賞して,現在(2023年)もその賞を保持している.この賞は「比較的手に入れやすく,育てやすく,長年栽培していてもその形質が安定していることが確認された,観賞価値の高い植物」に与えられる賞であり,定期的に審査される.'Aurea' というのは「黄金色の」という意味のラテン語で,金の元素記号 Au もこれに由来する.
 ネットで調べると,もう一つの黄葉種の
‘Gold Wing’ が欧州では市販されていて,画像を見る限り 'Aurea' よりは葉が小さく,茎立ちも高くなく,這性が強いのでハンギングバスケットに適している.


 我が家の庭で栽培している黄葉種は,もう5年程生えっぱなしで,春から初夏は葉の色が緑からライムグリーン,5月に白い繊細な花をつけ(冒頭図),日差しが強くなると葉の黄色味が濃くなり,晩夏から黄色になる(上図).南アメリカ原産なので寒さには弱く,霜が当たると葉が枯れてしまうが,木の下や屋根の下では越冬して,春には莖を伸ばして拡がる.春に枯れた長く伸びた茎を取るのが手間だが,サクラソウの根を暑さと乾燥から守る夏のグランド・カバーとして重宝している.形状的には‘Gold Wing’ に近いように感じられる.
 花は,雄蕊に多くの細胞が一列に並んだ細い毛がついている.この毛はツユクサの類には多く見られ,ムラサキツユクサの花の毛は,理科の授業で顕微鏡で覗いて,原形質や核を観察したことがある.また昔は放射線に対する感受性が高いので,原発の周辺で生物モニターとして使ったらとの話もあったと憶えている.東電福島第一原発の事故の際には,どうだったのだろうか.

Tradescantia fluminensi 原記載文献
 Florae fluminensis (Florae fluminensis, seu, Descriptionum plantarum praefectura Fluminensi sponte mascentium liber primus ad systema sexuale concinnatus” (1825)


p. 140

Hexandria. Monogynia.

2. T. fluminensis. T. caule procumbente , floribus axillaribus.
  congestis. ( Tab. 152.a T. 3. )

OBSERVATIONES.

Vaginæ foliorum pilosæ ; stamina antheris binis as apicem ; flamen-
tis pilosis e basi ad medium. Habitat maritimis ad revolum ri-
pas, locaque humentia.


 “Florae fluminensis icons (Petro nomine ac imperio primo Brasiliensis imperii perpetuo defensore ... jubente Florae fluminensis icones, nunc primo eduntur ...)” (1827)

TAB. 152

TRADESCANTIA FLUMINENSIS
 (TAB. 152)

  ノハカタカラクサの種小名及びヴェローゾの著作にある “Fluminensis” は,ラテン語の「川」の意の “flumen” 由来で,「川」はポルトガル語では “rio” であり,ブラジルではリオ・デ・ジャネイロ (Rio de Janeiro) を指す.ポルトガル人探検家ガスパール・デ・レモス(Gaspar de Lemos)たちがグアナバラ湾の湾口であるこの地を,湾口が狭まっているため大きな川であると誤認し,発見した1502年1月1日に因み “Rio de Janeiro(ポルトガル語で一月の川)” と命名した.住民たちは,江戸生まれの人たちが「江戸っ子」というように “Fluminense” と自称・他称する.1902年に設立された土地の名門サッカークラブも “Fluminense Football Club” と名乗る.2023年クラブワールドカップの決勝に進出した(2023-12-22, 追記)が,イングランド:UEFAチャンピオンズリーグ2022/23優勝チームのマンチェスター・シティFCに,4-0 で敗退した.

0 件のコメント: