2011年9月20日火曜日

リシリヒナゲシ モドキ

Papaver miyabeanum2003年6月に「利尻島・礼文島」の花旅ツアーで一泊した利尻島.朝,海岸を散歩すると.人家の近くには淡黄色の花をつけたケシ属の植物が栽培されていた.日本原産の唯一のケシ属で,利尻山の高山帯岩礫地にのみ自生する,利尻島の固有種リシリヒナゲシ( Papaver fauriei )ではないか,と興奮した.さすが,緯度の高い北の利尻島では高山の植物まで海岸でも栽培できるのだと感心して写真を何枚か撮った.

しかし,帰宅後冷静に考えると、環境省のレッドリスト(2007)で絶滅危惧IB類(EN)に,北海道のレッドデータブック(2001)では絶滅危急種(Vu)にそれぞれ指定されている希少で脆い植物が,市街地で栽培されていることに違和感を覚え,また定評のある植物図鑑のリシリヒナゲシの写真に比べると,花の色が薄いことも気にかかった.

その後,ネットで調べると,利尻島の平地で栽培されているこのケシ属の植物は,リシリヒナゲシとは異なるリシリヒナゲシモドキとも云うべき植物であろうということが分かり(http://48986288.at.webry.info/201001/article_6.html),さらに,「これ何?」サイトに投稿したところ,交雑種というより,海外からの移入された園芸種の可能性が高いということを教えてもらった.
この問題については,北海道大学農学部の山岸研究室でも多大の関心を払っており,2008年にはリシリヒナゲシとリシリヒナゲシモドキの葉緑体DNA上のtrnL-Fおよび核リボソームDNA上のITS領域の塩基配列を解析し,その結果,リシリヒナゲシとリシリヒナゲシモドキは別種であることを確認し,またリシリヒナゲシモドキが,播種によって自生地にも定着していることも明らかにした.

更に2009年には遺伝子解析の結果から,このリシリヒナゲシモドキは,欧州で園芸植物として広く栽培されている P. miyabeanum であろうと報告している(http://www.springerlink.com/content/1021712008317k55/).しらべると,このP. miyabeanum は比較的高温にも耐える非常に栽培しやすい種であり,本州でも栽培に困難は無く,欧州では広く帰化していることが分かった(右).

このように,利尻島市街地で栽培されるケシはリシリヒナゲシは異なっていることが証明されているにも関わらず,現在でも自然観察ツアーを催行している旅行会社のブログで,「リシリヒナゲシは利尻山の山頂部でしか見られないと思いきや、何と平地でも見ることが出来る。これは利尻島をリシリヒナゲシの里にしようと島民の方々が植えたもので、島を廻ると民家の玄関先や昆布を干す「無砂干場」に見られる。」と掲載するなど,誤解を招く情報が氾濫している.

情報不足のために,「善意」が原生地を破壊し,また遺伝子攪乱で貴重な植物を絶滅させることのないよう,利尻に住む人,利尻の花を見に訪れる人に,教育も含めて色々な媒体で十分な情報を与えることが必要では.

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