ツタンカーメンのエンドウに多数の実がなっている.緑色の莢のエンドウを見慣れていると,黒紫色の莢がぶら下がっている光景はかなり異様.この色が何に由来するのか,一寸実験をしてみた.予備的に数個の莢をステンレスの鍋で食塩を加えて煮たところ,青い色の液を得た.これに食酢を加えたところ赤色に,重曹水を加えたところ緑色に変色した.
この現象を「日本植物生理学会 みんなのひろば 質問コーナー」に投稿したところ(質問:ツタンカーメンのエンドウ 莢の色素/登録番号: 2629 http://www.jspp.org/17hiroba/question/index.html),名古屋大学大学院情報科学研究科の吉田久美先生からの回答を頂いた.要約すると「色素の正体はアントシアニン系の化合物と推定され」また,「莢などのアントシアニンは、比較的単純な構造で不安定な色素が多く、煮沸すると分解して無色になる場合が多いのですが、ひょっとして、アシル化アントシアニンかなにかで、安定かもしれません。熱水での抽出液が青色というのは、面白い現象ですが、(中略)鍋からの金属イオンによって、あるいは、塩ゆでの際のにがり成分(塩化マグネシウム)によって錯体ができて青くなったかもしれませんが。酸性で赤、塩基性で青というのがアントシアニンの通常ですが、多分、緑色になったのは、フラビリウム環が開環して、カルコンになった成分が共存したためではと推測します。カルコンは塩基性で黄色になります。これに若干残存したアントシアニンの青色とが混ざった色で緑色になったかと。」
また,いわき市在住の植物愛好家トミーさんからは紫キャベツの抽出液のpH依存的変色(http://www.hyogo-c.ed.jp/~rikagaku/jjmanual/jikken/omo/omo23.htm)との類似性を指摘された.
そこで,吉田先生のアドバイスに従い,新鮮な莢をガラス容器中で煮沸したところ,前回と異なり紫色の液を得た.これに食酢を加えたところ,美しい紅色に,浴槽洗浄用の重曹水を加えたところ鮮やかな緑色に変わった(左図,中央:無処理抽出液,左:重曹水添加,右:食酢添加).
従って,吉田先生やS氏のコメントの如く,ツタンカーメンのエンドウの莢の色はアントシアニン系色素で,莢の地色の緑色と重なって,黒紫色を示すと考えられた.一方,育てている株の中には緑色の莢をつけるものや,黒紫色のまだら模様の莢をつけるものもあり,種を下さった川口市在住のH氏の話では,白い花をつけるエンドウとの交雑種ではないかとの事.なおこれらの株も,花は黒紫色の莢をつける株と同様に赤紫色である.
また,花を莢同様に処理したところ,同じような変色を呈したことから,花の赤紫色もアントシアニン系と考えられる.(花の画像は,「ツタンカーメンのエンドウ (1)」),(色素の化学構造文献は「ツタンカーメンのエンドウ(3)」)
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