2013年5月4日土曜日

ハンカチノキ (1/2) 12年後の開花,花の構造,独特の匂い,植物界のパンダ

Davidia involucrate

苗を買ってから12年,庭植えにしてから9年で,ようやくハンカチノキに花が咲いた.
背丈が伸びて葉を茂らせるばかりで,樹高は6㍍近く,日陰をつくるだけの厄介者として冷遇していたが,今年は少ないながらも20個近くの特徴ある花を見ることが出来てうれしくなった.
ハンカチノキは中国の中部と西南部の高冷地のみに自生し,中国では「珍稀瀬危植物」のひとつで第一級の保護植物となって.植物界のパンダともいわれている.中国や欧米でも庭園樹として人気が高く,風に揺れる二枚の苞葉を,白い鳩(はと)に見立てて,ハトノキの別名もある.

両性花 雄花と花柱
ハンカチノキ(ダビディア)はシナノキにハナミズキの花を逆さまに咲かせたようにみえる.ただしハナミズキとはちがって,苞は2枚だけで,大きく白い.苞に包まれた花の花弁は小さく退化している.花は,多数の黒褐色をした雄花と,1つの緑の両性花からなり,これらが鞠状に集まる.萼と花弁はなく,緑の花柱は太くて先が68裂する.基部に長さ816㌢の卵形をした苞があり花びらのようにみえて美しい.中には雄花のみで雌花の付かない花もある(雄花序).花は咲き始めから1週間前後が見頃で,その後は苞が落ちる.苞には落ち方が二種類あり,雄花序苞はきれいな状態で2枚くっついたままぽとりと落ち,両生花の苞はしおれて黄色く変色してからばらばらに落ちる.開花する葉の展開時期には,花からだけではなく,木全体からクレゾールに似た独特の臭気が漂う.この匂いは花の時期が最も強く,花が終わっても少なくなるが消えるわけではない.この匂いは個々の花だけでなく葉や枝の香で虫を呼ぶ方法と考えられ,自然界の子孫繁栄のための戦略の妙味を感じさせる.花後は直径2㌢程の果実ができ,秋に熟する.

1979-May in London Zoo
Chia-Chia or Ching-Ching
ハンカチノキ属は本種のみだが,科名については,1980年代ごろから使われていたクロンキスト体系ではミズキ科とされ、遺伝子情報を解析する方法による「APG植物分類体系」では一度はニッサ(ヌマミズキ)科とされたが,現在はミズキ科に含まれている.また,花の構造の進化による分類法「新エングラー体系」によれば独立したハンカチノキ科とされることもある.

ダビディアの分布は中国の四川,雲南,貴州,湖北とチベットの東部に限られている.しかし日本でも川崎市と新潟県十日町から果実の化石が発見されており,更新世から鮮新世にかけては,もっと広く分布していたものであろう. 

そのため,「生きている化石」とも呼ばれているが,「植物界のパンダ」の名は,希少性や生育地の一部が共通しているほか,西欧への紹介者が同じダヴィド師であることが元であろうか.

ダビディアは1869 年にフランス人の宣教師のアルマン・ダヴィド(Abbe Armand David, 1862 - 1900)が四川省で見出し,パリに乾燥標本を送り,これに基きアンリ・アーネスト・バイヨン(Henri Ernest Baillon, 1827 - 1895)が,新種として,ダヴィドに献名した Davidia involucrate の学名をつけ Adansonia 10: 115 (1871) に発表した.
1889 年には,オーガスチン・ヘンリーが四川省南部で一本の木を再発見し,花と実の標本を採取し,英国のキュウ植物園に送った.これについて研究したキュウ植物園のダニエル・オリバー博士は,"Davidia is a tree almost deserving a special mission to Western China with a view to its introduction to European gardens...." 「ダビディアは,欧州の庭に導入するための特別の任務を持った隊を派遣する価値がある花木である」と云った.

その後,多くのプラントハンターたちが,中国やチベット奥地でこの木を捜し求めた.

Curtis BM (1921)
DAVIDIA INVOLUCRATA
var. VILMORINIANA.
フランスの園芸商ヴイルモラン商会の M. Maurice de Vilmorin はこの植物に魅了され,中国の連絡先にこの木を発見するように要請した.これに答えた宣教師のポール・ファルジュ(Pere Farges)が似た種類を四川省で採集し,商会はその果実37個を1897年の6月に入手した.さらに翌年,ファルジュは東チベットで採取した3個の果実を送った.播種したこの40個の果実のうち,2年後の1899年発芽したのは一個だけであったが,1901年にヴイルモランは挿し木やとり木でいくつかの苗をつくり,パリ・ロンドン・ニューヨークの植物園に送った.1906年には,ヴイルモラン商会の木に花が咲いた.発芽後わずか七年後のことであった.ダビッドの発見したものは葉の裏が白く見えるほど毛が多いが,ファルジュが入手したものは毛の少ない変種であった(左図).

また,イギリスのヴィーチ商会では,ダビディアを入手すべく,1899年にアーネスト・ウイルソン(Ernest Henry "Chinese" Wilson , 1876 1930)を中国西南部に派遣している. 彼は1901年に湖北省西部の宜昌市近くでダビディアを発見し,種を採取した.ただ,これは後年 D. involucrata.ではなく, Davidia laeta, であることが分かった.

2008年4月前橋公園
ダビディアは発見当初,ヨーロッパやアメリカの園芸家の非常な注目を集めた.それは111種で,中国西南部に固有という珍奇性もさることながら,花の清楚な美しさが評価され,中国中部の気候が欧州北部のそれに似ているので,育てやすいだろうと予想されたからである.現在では英国・米国はじめ多くの地方の植物園や公園で栽培されていてその花木としての評価も高く,1993年には英国の王立園芸協会(The Royal Horticultural Society)のガーデン・メリット賞(Award of Garden Merit)を授与されている.英語圏での一般名はその白い花(苞)に由来して,dove tree (鳩の木), ghost tree (幽霊の木), pocket handkerchief tree (ハンカチの木)である.

日本でもパンダと同様,観客を呼ぶための目玉になり,開花時期の GW には多くの植物園は開花情報を提供している.

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