Cypripedium japonicum
伐採した竹林の明るい空き地 茨城県南部 |
世界でも稀な,葉の幅が広いラン.二枚の大きな扇形の葉の間から,下部が袋状の花を一個咲かせる.花径は10センチにもなり,葉とともに目を引く.竹林やヒノキ近くの日のよく当たる平地に根を張って群落をつくり,いっせいに咲くと見事.国内に広く分布しているため,ベコノツラ,キツネノチョウチンなどのひなびた地方名も多い.
受光量が減るなどの環境の変化に敏感で,姿を消すことも多い.『大和本草』などの古書に「枯れやすい」と書かれている.そのためか,花言葉は「気まぐれ美人」だそうだが,熊谷直実の名をもらった和名のように,むしろ男性的な印象を受ける.
現存文献での記録は比較的遅く,
布袋草 (末) 花形丸クして宛子安貝の形なり色うすむらさき葉も二まいづゝ出て花ハ一りんづゝ咲
敦盛草 (末) 花形ほてい草ニ似て異有ほろかけたるごとく紫葉も段々付ク
熊谷草 (末) あつもり草の花うす白キ物
とあるのが,確認されている初出.この記述では「布袋草(ほていそう)」が「クマガイソウ」にあたる.このことは,ツンベルクの『日本植物誌(Flora Japonica)』(1784)の「クマガイソウ」の項に,「ホテイソウ」とも呼ばれていると書かれていることからも,支持される.
貝原益軒『大和本草』 (1709)には
「熊谷 葉はフキの葉の形にして小也.エビネの葉の如く皺あり.葉に少光あり.葉の高八九寸.梢に花,一あり.花の大きさ鴨(あひる)卵を二に割りたるより猶大にして形はハマクリを二にひらきたる如し.色白し或黄なり.心はハマクリの肉の如くにして黄なり.花うるわしと見つるべし.深山にあり.或曰(く)敦盛熊谷一物なり.花の紫なるを敦盛(と)為,花淡白を熊谷と為.共に枯れやすし.」
と詳しく記している.花の大きさをアヒルの卵を基準にして述べているのが,興味深い.
同書の巻之十九諸品図上の「あつもりそう」の図は,「敦盛 倭名也,或曰(ク)鬼督郵ナリト未(レ)知(二)是否ヲ(一)-(未だ是否を知らず)」とあるが,葉の特徴から明らかにこれは「クマガイソウ」である(左上図).なお,「鬼督郵」はハグマの類の漢名とされている.
(続く)
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