ホテイアオイが欧州に渡来したのは
1820 年代と思われる.カーチスのボタニカル・マガジンの vol. 56 [ser. 2, vol. 3]: t. 2932 (1829) に Pontederia azurea (現学名Eichhornia azurea)が手彩色銅版画として収載された(左図左側).しかし,描かれている植物の特徴から,これは E.
azurea ではなく,E.
crassipesではないかと思われる.じつは,t.
2932 の “Specific
Character and Synonyms.” の項には,Pontederia azurea の他に,Pontederia crassipes? と書かれており,また,Description でもその筆者も可能性は否定できなかったようだ.これが,E. crassipes であるなら,「エイトン氏*1 がブラジルから導入したこの植物は,数年前から,Kew 植物園の加温温室で育てられていたが,1829 年に花が咲いた」とあるので,1820年代前半には,英国で栽培されていたこととなる.*1 William
Townsend Aiton (1766–1849)
同じマガジンの71 年後の vol. 106 [ser. 3, vol. 36]: t. 6487 (1880) (左図右側)には,新学名の Eichhornia
azurea (Sw.) Kunth で,明らかに E. azurea
の特徴を示す植物の図が収載されている.従って,t.
2932 は E. crassipes である可能性が高い.
温室で育てなければならなかったにもかかわらず,美しい花のために,愛玩されたようで,いくつかの植物図譜に描かれている.英国の Edward Step の “Favourite flowers of garden and greenhouse” vol. 4 (1896-1897)の t. 287には多色石版で図が載り(右図,右側),p 616 には,” EICHHORNIAS
Natural Order Poxtederiaceae. Genus
Eichkornia
EICHHORNIA (named in honour of J. A. F.
Eichhorn, a Prussian botanist). A small genus of stove aquatics, with creeping
rhizomes, roundish rhomboidal stalked leaves, and blue or violet flowers in a
raceme. The flowers are funnel-shaped, the six unequal segments uniting at
their base to form a tube. The stamens also are unequal, three being longer
than the others. The ovary is three-celled. They are natives of South America
and Tropical Africa. They are sometimes called Water Hyacinths,
Principal
Species EICHHORNIA AZUREA (blue). (中略)
E. CRASSIPES
(thick-footed). Rhizome thick. Leaves roundish, fleshy; stalk much swollen near
the base. Flowers violet, 1(1/2) inch long, in a many-flowered raceme, with a
spathe below; July. Native of Brazil .
Also known as Pontederia crassipes. Plate 287.
Cultivation Eichhornia should be
grown in a stove tank, as they require to be in water that has a temperature of
from 60° to 80°. They may be planted in large pots, and these sunk in the
tank;- but this is not necessary, as the stems float and root. Where potted,
the soil should be of a rich character. They readily increase by means of
stoloniferous growths.
Description
of Plate 287. Eichhornia crassipes, reduced about
one -third less Plate 287. than the natural size, showing stems, roots, leaves,
spathe, and flowers.” と,属名・種小名の由来,特長,栽培法などが記載されているが,残念ながら英国への導入時期については触れられていない.
また,ベルギーのゲントで刊行された植物図譜 “L'ILLUSTRATION
HORTICOLE, REVUE MENSUELLE, DES SERRES ET DES JARDINS (Ambroise Verschaffelt,
Charles Lemaire & Jean Jules Linden) vol. 34 (1887) の t. 20 には,モノクロながら美しい石版画が載っている(右上図左側).テキストからは欧州本土への移入時期は読み取れなかった.
一方米国の南部では日本以上にこの植物によるハザードが問題になっている.
米国へのホテイアオイの侵入は1884-5(明治17-18)年にニューオリオンズで開催された “World’s Industrial and Cotton Centennial Exposition” で,日本の使節団がお土産として配ったからだ,との説がある*2.
確かにこの見本市に日本政府はブースを持ち,香蘭社製等の薩摩焼などの陶磁器や,屏風などの美術工芸品,高い技術を誇った金属製品を展示即売していた(Guidebook trough The World's Fair and Cotton Exposition New Orleans 1885).しかし,日本は勿論ホテイアオイの原産地ではないし,またブラジルなどの原産地から購入して輸送するほどの余裕があったとは考えにくく,日本の関与は何らかの誤りではないかと思われる.*2 http://blogs.scientificamerican.com/food-matters/2014/03/27/the-hunger-game-meat-how-hippos-nearly-invaded-american-cuisine/
, Wikipedia “Eichhornia crassipes”
この見本市から持ち帰ったフロリダの住民が,川や水路にリリースしたのが繁茂して,二十世紀初頭には温暖で水の豊かなフロリダではホテイアオイが経済的・環境的に大きな問題となっていた.当時社会問題となっていた食肉不足とこのホテイアオイ問題を一挙に解決しようという案がだされた.
発案したのは,アフリカに詳しい探検家のFritz Duquesne と,南アメリカの軍人Frederick Russell Burnham で,ルイジアナ州選出議員のRobert Broussard と組んで,アフリカからカバを移入して大規模牧場をつくり,彼らにホテイアオイを食べさせ,その肉を食肉として市場に出そうという計画で,1910 年には米国議会の公聴会まで開かれた.しかし結局この案は受け入れられず,沼沢地を干拓し牧草地化して肉牛を飼育することで,食肉不足を解消することとなった.この興味深い歴史の経緯は人間模様も絡めて
Jon Mooallem “American Hippopotamus” に詳しいとのこと*2.
カバがホテイアオイを本当に好んで食べるのか,日本でも丸山動物園ではカバの屋外プールにホテイアオイを浮かべているが,投稿動画(https://www.youtube.com/watch?v=pXu7O4-1Ces)を見る限り,カバのザンはホテイアオイを全く無視している.茨城県日立市のかねみ動物園では飼育員川添久美子さんが「花言葉は揺れる心」の題で「野生の彼らのエサは草原の草ですが、水草も好物との事。現地ではホテイアオイをむしゃむしゃ食べるカバやアフリカゾウがよく見られるそうです。カバプールをホテイアオイで覆い尽くしたい、というのが私のもくろみ。浮き草の間から顔を出したり浮いたり沈んだりしているカバの姿を皆さんにお届けしたいのです。」とホテイアオイの繁殖を試みている.結果は彼女のブログには,まだ現れてはいない.
Caloosahatchee river-hyacinths-1939 |
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