2014年8月27日水曜日

ヒャクニチソウ-4 金井紫雲『草と芸術』,美術・短歌・俳句

Zinnia elegans
2014年 7月
百日草を描いた日本画家の作品はそれほど多くはない.
大正・昭和時代の美術記者の★金井紫雲1888-1954『草と芸術』1931)芸艸堂(左,挿画 福田 豊四郎1904-1970NDL)

メキシコ原産の草 (略)
花期の長い草 (略)
帝展に出た百日草の繪
繪畫には,最近非常にいろ/\の方面で畫かれるやうになつた.此の花ばかりを畫いたものもあるが,人物畫の添景などには殊に多い.近い例でいへば,帝展の第八回には,榊原縫子氏の『野分』には,ダリヤと共に畫かれ,九回には,田中針水氏が童謡踊をかいた『歌ふまゝに』の中,十回には諫山芳惠氏の『幼き日の夢』の中に向日葵と共に畫かれてゐる如き,何れも少年や少女の畫に添へられてゐるのである.
院展の「盆栽」
藤井啓玉 百日草
日本美術院の方では,十六回展覧會に,宮崎東里氏の出品,『盆栽』の中に,百日草が描かれているし,村田泥牛氏の『母子』と題した作の手に持たせられてゐるのが,此の草である.この『盆栽』といふ作は手法にも新しい處があつて評壇の注意を集めた作である.
「浦島草」の名
最近での力作としては,昭和五年の新興大和繪會展覧会で受賞した藤井啓玉氏の『浦島草』と十七回院展に第二賞を得た高橋周桑氏の『秋草』である.前者の作は,忠實なる寫生であつたが,よく此の花の氣分を捉へていた.後者は線が自由に活躍して,手法の上に新味を見せて好評だった.
洋畫の方面でも,静物として花瓶に挿されたりしたものを描いた作は澤山あるので,一々擧ぐるまでもない.
シニヤツクとマンギヤンの作
曾て,佛蘭西美術展覧会に出品された,シニヤツクの素描『花』は,此の百日草であつたが,花ばかりを壷に挿して葉を入れない處など如何にも日本人とは趣味の異なるところである.
それから,大正十二年に開かれた同展には,マンギヤンの花がある.これは矢張り百日草であつたが,この方にはいろいろの色彩を取交ぜた美しい作であつた.兎に角,洋畫の方では,形より色彩を主とする關係上,此の花やダリヤなどが比較的多く描かれるのである.」
とある.金井紫雲は他にも『花と芸術』『鳥と芸術』『魚と芸術』などの書に,美術・文學に描かれた自然物を記しているが,百日草の項は他の項に比べて短く,美術のみに偏っている.

熊谷 守一
近代では,熊谷守一の単純化された色のはっきりとした画風に合うのか,彼の絵に多く題材として取り上げられている.

★谷上廣南(18791928)『ジンニア,ジンジャー』「西洋草花図譜より」(1917
★熊谷守一(1880-1977)『百日草』『百日草と揚羽蝶』
★山村耕花(本名は豊成,1886-1942)『壺と百日草』
★藤井啓玉(1898-1980)『百日草』(http://www.co-terra.com/library/byobu2005/)

夏の花「百日草」は,短歌には相性が良くないらしく,花言葉「別れた友を思ふ」に誘起された少数の歌を見出し得ただけであった.

天を仰ぎよく笑いたる友ありきヒャクニチソウが咲けば想わる  鳥海昭子 
百日を咲きつぐ草に想ふなり離れゆきたる友ありしこと  木村草弥

熊谷 守一
夏の季語の「百日草」には,多くの句が作られているが,真夏に長く咲く百日草の花を,その力強さや洗練されていない佇まいをポジティブに,あるいはやや疎ましく受け止める俳人の感慨がほの見えて興味深い.たとえば.「百日草百日の花怠らず 遠藤梧逸」「これよりの百日草の花一つ 松本たかし」に対照的なのは,「ああ今日が百日草の一日目 櫂未知子」.

 海鳴の冥さに慣れて百日草 ほんだゆき
 百日草百日の花怠らず 遠藤梧逸
 自得して百日草は愚の如し 遠藤梧逸
 蕊とれし百日草の花一つ 京極杞陽
 尼寺やすがれそめたる百日草 軽部烏頭子

 
谷上廣南 部分
 百日草園児の描く絵さまざまに 行廣すみ女
 中年や百日草に日蔭なく 高橋さえ子
 蝶歩く百日草の花の上 高野素十
 百日草今どきこんな花咲かせ 高澤良一
 百日草咲いて質屋の定休日 高澤良一

 百日草凡の生活をいとしみつ 根岸善雄
 百日草ごうごう海は鳴るばかり 三橋鷹女
 毎日の百日草と揚羽かな 三輪一壺
 物陰や百日草の今も咲く 正岡子規
 百日草腰の低さが腹だたし 南村健治

 製麺所休んでゐたり百日草 秋山幹生
 これよりの百日草の花一つ 松本たかし
 坩堝なす落暉を沖に百日草 松本幹雄
 朝の職人きびきびうごき百日草 植村通草
 一つ咲き百日草のはじめかな 瀬野直堂
 
 物書いて声錆びつかす百日草 清水衣子
 百日草ひと日ひと日を丁寧に 石川文子
 八十路まだ夢みる日々や百日草 千原満恵
 心濁りて何もせぬ日の百日草 草間時彦
 百日草芯よごれたり凡詩人 草間時彦

山村耕花
 情事なき中年百日草咲くよ 草間時彦
 病みて日々百日草の盛りかな 村山古郷
 もの古りし百日草の花となり 大石暁座
 百日草澄江堂の書の装幀 瀧春一
 百日草百日強し荷車曳き 中山純子

 程遠くなりし妻の忌百日草 中村葦水
 水替へるはじめ仏間の百日草 長谷川久々子
 百日草がんこで知れる父と母 坪内稔典
 百日草がんこにがんこに住んでいる 坪内稔典
 百日草在りしごとくに書を重ね 徳田千鶴子

 百日草に魚鱗浴びせて島ぐらし 能村登四郎
 百日草子供の干衣竿に高く 富安風生
 雨やみし百日草に蝶多し 武田操
 会議果ての週末百日草の一枚畑 福富健男

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