Lysimachia vulgaris. var. davurica
2008年7月 岩手県小岩井農場 |
山中の湿地に生育し,夏に鮮やかな黄色の穂状の花を,高さ一メートルほどの茎の先端または葉腋につけて,よく目立つ.花冠は径12-15mmになり,五深裂する.その鮮やかな色から「イオウソウ(硫黄草)」の別名もある.磯野による「クサレダマ」の初見は『和漢三才図会』(1713頃)であるが,『花壇綱目』(1681) には「連玉草」が,『花譜』(1694)には「鷹爪(れたま)」の草本が,『草花絵前集』(1699)には「ゆわう草」が,『地錦抄附録』(1733)には葉の類似性から名づけられた「ヤナギサウ」が記載されており,庭園にも植えられていたことが推察できる.『物品識名』には,「クサレタマ」の別名として「イワウサウ ヤナギサウ」が記されている.
江戸時代から「クサレダマ」という名は,花が南欧産の「レダマ」というエニシダに似た潅木の姿や花に類似している草であることが由来とされている. が,径 4 ㍉ほどの玉のような多数の果実が連なって実る草だから「草連玉」という説もある(湯浅浩史「花おりおり」).
★水野勝元『花壇綱目』1681年(天和元年)刊行の日本最古の園芸書,これは中国やイギリスに並び世界的に見ても早期のものである.園芸を武道や詩歌,音楽などの諸芸道と同等の存在として列する著述がみられる.この書の春の部に,
「連玉草…●花黄色也咲比まへに同 ●養土は合土用て宜し ●肥は右同 ●分植は春秋の時分」(花期は夏(五月),養土は赤土,肥料は茶殻,分植時期は春・秋)とある.
★水野勝元『花壇綱目』1681年(天和元年)刊行の日本最古の園芸書,これは中国やイギリスに並び世界的に見ても早期のものである.園芸を武道や詩歌,音楽などの諸芸道と同等の存在として列する著述がみられる.この書の春の部に,
「連玉草…●花黄色也咲比まへに同 ●養土は合土用て宜し ●肥は右同 ●分植は春秋の時分」(花期は夏(五月),養土は赤土,肥料は茶殻,分植時期は春・秋)とある.
★貝原益軒『花譜 中巻
五月』(1694)には,「鷹爪(レタマ) 葉は柳葉に似て尖れり.黄花をひらく.閩書*に出たり.叉其莖木のごとくなるものあり.」と,草と木の二種があるとされている.草の方がクサレダマであろう.①
*「閩書」:明の何喬遠(1558-1632)撰になる福建省の地誌「閩書南産誌」
鹰爪豆属(学名:Spartium)是蝶形花科下的一个属,为灌木植物。该属仅有鹰爪豆(Spartium junceum)一种,原产于地中海地区。
鹰爪豆属(学名:Spartium)是蝶形花科下的一个属,为灌木植物。该属仅有鹰爪豆(Spartium junceum)一种,原产于地中海地区。
★伊藤伊兵衛三之丞画・同政武編『草花絵前集 三ノ四』(1699) には,「○ゆわう草
花形あいらしく、黄色なり、五六月にさく。」とあり,その図もある.草姿はクサレダマに似ているが,花弁数が6なのが気にかかる.②
「外」 「鷹爪(レタマ) 閩書云藤ノ生 花浅黄色末鋭ニシテ鷹爪ニ似タリ 首(夏?)ニ開ク香シ 爛色(瓜?)如。 今案木ト草ト二種アリ花 イツレモ黄色 葉柳ニ似テ五月花開ク 木本ハ連翹ニ似タル小樹ナリ」③
とあり,この「草の鷹爪(れたま)」がクサレダマであろう.花の先端が鷹の爪のようだからとしているが,なぜ,鷹爪を「レタマ」と読むのかは不明.
★寺島良安『和漢三才図会 巻第九十四 湿草類』(1713頃)には,「草列珠(クサレダマ) 俗称 樹ニ列球ノ木有リ
とあり,名稱は「レダマ 列球樹」と言う名の木に由来するとある.⑤
「柳葉草(やなぎさう) 葉ほそ長くやなぎの葉の如く志げり付く 夏のころよりのびたち八九月花さく 黄色小りん一所に多く集りて咲」とある.説明図は『草花絵前集 三ノ四』の「ゆわう草」②とよく似ている.⑥
★松平君山 (1697 -
1783)『本草正譌 巻之二 草部 二』(1776)には,「鷹爪。俗名レタマ、閩書南産志二出。貝原氏日、今案、草木二種アリト。小ナル者ヱニスダト云,二三尺ニテ花開ク、葉細カニ茎細シ、是ヲ草木トセシニヤ。培養年ヲ経レバ高丈余、一幹数条ヲ垂ル、八集画譜ノ金雀花是ナルベシ。其木本ト云物、レタマニテ、葉大二茎粗、然レドモ数条叢生スルノミ。」と,草生のレタマは,若いエニシダを草と間違えて考定したとしている.
★岡林清達・水谷豊文『物品識名 坤』(1809 跋) には,「クサレタマ イワウサウ ヤナギサウ」とあり,クサレダマの名稱として硫黄草,柳草が用いられていた事を示す.⑦
★飯沼慾斎『草木図説 巻之三』(成稿 1852年(嘉永5)ごろ)には,「クサレタマ 線根遠ク延テ芽ヲ出シ.莖ヲナスコト三四尺細シテ強直.葉柳葉ニ似テ二三或ハ四箇一節ニ對生ス.梢葉腋細莖ヲ出シ.叉分シ疎穂ノ状ヲナシテ花アリ.萼五葉邊縁茶褐色ノスヂアリ.花輪様五裂披針状ニシテ黄色.實礎圓長五縦道アリテ一柱.雄蕋五ニシテ黄葯
第一種 レーシマシア・フェルカリス,羅 ゲメー子・ウェデルリック,蘭」と,詳細で正確な記述と,精密な絵が記録されている.⑧
この名の基になった「レダマ」の移入時期は古く,江戸初期の俳諧論書★松江重頼『毛吹草』(1645)にはその名が歌の題材として記録され,その呼称が広まっていたことが分かる**.レダマは「江戸時代に外来の花木としてもてはやされた***」とのこと.
** 磯野直秀『明治前園芸植物渡来年表』慶應義塾大学日吉紀要・自然科学 No.42 (2007)
*** 長田武正ら『検索入門
野草図鑑 (8) はこべの巻』保育社 (1985)
★寺島良安『和漢三才図会 巻第八十四 潅木類』(1713頃)には「列球樹 レタマノキ」があり,「列珠樹(れだまのき) 正字未詳〔俗に礼太末乃木(れだまのき)という〕
△按ズルニ,列殊樹高さ丈許,梢に細い氣條(ずわい)を出す.緑色畧鳬茨(くろくわい)の莖に似,其葉細小,四月黄花を開く.状,微(やや)緑豆(ぶんどう)の花に似而繁く,莢を結ぶ。亦緑豆に似たり」とある.⑩
★八坂書房編『日本植物方言集成』八坂書房(2001)による「クサレダマ」の地方名は少なく,「おぼんばな 静岡(富士),ぼんばな 静岡(富士)」の二種が収載されているのみ.名はミゾハギと同様の使われ方をしていたためであろうか.
学名
基本種 Lysimachia
vulgaris は欧州に広く分布し,学名が発表されたのはリンネの『植物の種』(Sp. Pl. 1: 146 (1753)).
アジア北東部に生育するクサレダマはその変種,var. davurica と命名されている.Davurica はシベリアの地方名に由来するとされている.
原記載文献は Knuth,
Reinhard Gustav Paul - Pax, Ferdinand Albin 編著の
“Engler, Das Pflanzenreich. Regni vegetabilis conspectus.
[Heft 22] IV. 237, Primulaceae (1905)” で,” Var. ß. davuriea (Ledeb.) R. Knuth. — L. davurica Ledeb. in Mem.
Acad. Pétersbourg V. (1814) 523 ; Fl. ross. III. (1847—49) 27; Duby in DC. Prodr.
VIII. (1844) 63 ; Klatt 1. c. p. 20 ; Jinouma
Yokoussai, So-Mokou-Zoussetz ed. 2. (1874) 60 ; Franch. in Mém. Soc. sc.
nat. Cherbourg
XXIV. (1884) 233. — L. media Willd. Ex Klatt 1. c.” とあり,当ブログ記事に記載した★飯沼慾斎『草木図説』が引用されているのが目に付く (画像:Biodiversity Library).
中国においてはこの植物は「黃連花」とよばれ,帶根全草を7-8月采挖,洗凈,節段,曬干させたものが,鎮靜;降壓。主高血壓;頭痛;失眠に効果があるとして薬用に用いられている.
⑤,⑩以外の特記しない画像の引用元は NDL の公開画像
⑤,⑩以外の特記しない画像の引用元は NDL の公開画像
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