2015年10月30日金曜日

マルバアサガオ-1 英国への移入,ジョン・グッドイヤー (John Goodyer), ジョン・パーキンソン (John Parkinson), トーマス・ジョンソン (Thomas Johnson),米国園芸品種

Ipomoea purpurea
千葉県北西部 2015年10月
植物公園のフェンスに絡んで咲いていたアサガオ.はじめは色からヒルガオの仲間かと思ったが,萼や実のつき方からアサガオの類とわかり,その後調べて,野生化したマルバアサガオと判明.花は栽培種のアサガオと比べると小さいものの,花色はおしゃれ.その後近所の路傍でも,色々な色と模様の花を見つけた.
熱帯アメリカ原産で,17世紀には欧州で広く庭園で栽培されていた.渡来時期ははっきりしないが,英国にはイタリア経由で入ったとされ*, 1621 年に,当時有名な植物学者グッドイヤー (1592–1664) によって育てられたとの記録がある.また,パーキンソンの『太陽の園,地上の園 (1629) には絵も記載されている.ジェラードの『本草あるいは一般の植物誌』(1597)には,記述はないが,トーマス・ジョンソンによる増補改訂版(1636)には,丸葉青色ヒルガオの名で,葉と花の図が掲げられている.
*Alice M Coats, “Flowers and their histories”(1956)

フランスでは1629年に移入された(L. ギィヨ,P. ジバシエ)とされていて,「花のラファエロ」ルドーテが『美花選」(1827) に美しい絵を描いている(次記事).

草丈がぐんぐんと伸びることから,英名は “Tall morning-glory” ,導入された当時は種小名のように赤紫色の花のみであったが,その後多種の花色の株がでて,多くの植物図譜に描かれた.多花性で,秋の低温時にも開花結実する性質があるので,ヨーロッパ,アメリカで古くから栽培されており,現在でも人気は高く,花色や模様の改良が続けられている.

Gunther, (Robert Theodore, 1869-1940) “Early British botanists and their gardens, based on unpublished writings of Goodyer, Tradescant, and Others”, Oxford University Press,1922.
オックスフォード大学にゆかりのある植物学者の手書きのノートを,Gunther が後世活字化して出版した書. ジョーン・グッドイヤー (John Goodyer, 1592–1664) 17 世紀のアマチュア植物学者で,トーマス・ジョンソン(ジェラードの植物誌の改定者)など,多くの植物学者と交流があり,イングランドの植生の調査に貢献した.彼の蔵書や記録はオックスフォード大学のマンダレンカレジに現在も保存されている.

Bryonia nigra
“JOHN GOODYER  p153-154
Convolvulus coeruleus       7 Sept. 1621
flos Noctis. non script.
Hath manie small weake round hairie browne redd branches, growinge from one root, windinge wrappinge and turninge them selves against the sunne, round sticks or poles that are sett by them for that purpose: whereon by certaine distances growe greate broad leaves, in a manner round, yet picked at the toppe, without anie corners like Ivie leaves, verie like those of Bryonia nigra (←) but rounder, somewhat rough above and smooth underneath. Forth of the bosomes of the leaves growe longe slender hairie footstalks, on the toppe whereof growe 2 or 3 most beutifull flowers, not flowringe all at a time but one after another, those that will open in the morninge make some small shewe overnight, onlie wound together, and not of half their growth, erlie in the morninge they appeare in their full lenght, but joyned close together with 5 corners, which after in a short time open and are round like a little bell, like those of white Bindweed (↓), but of a delicate Azure or as it were a color of blewe and redd mixed together, with five straight strakes or lynes in the inside like redd darke colored crimson velvet. This glorious Shewe continueth but awhile, for towards night the same daie that they open, they beginn to vade and fold themselves in together at the toppe, and never open againe, and the next daie fall quite away. Quaere, whether they do always so. MS. f. no.

Bindweed
「一本の根から多数の細く弱々しい,毛の生えた赤褐色の枝を出し,その目的のために側に設置した棒や柱に,太陽(の進行方向)とは反対側から,くるくると絡みつく.ツタとは異なり角がない,先端の尖がった丸っぽい大きな広い葉をある間隔を持って生やす.(その葉は)Bryonia nigra* (ウリ科ブリアニア属) に似ているがより丸く,表面は粗いが下面は滑らかである.葉の付け根から毛の生えた長細い柄を伸ばしその先に2または3個の美しい花をつける.(この花は)ずっと咲いているわけではないが,次から次と咲く.夜間は、ただねじれているだけで花が半分も開かない.朝開く花は、早朝には完全な大きさとなり、短時間の内にその全体の姿を見せる。白色のセイヨウヒルガオ類(Bindweed**)の花と同じように,小さなベルのような花は,五稜の花弁をしっかりと繋ぎ合わせているが,花の色は繊細な紺碧色で,それは赤と青を混ぜ合わせたような色合いである.内側には赤っぽいくすんだ紅色のベルベットのような五本のまっすぐな縞もしくは線がある.この輝かしい姿は,ほんのしばらくしか続かず,開花したその日の夜にはしぼみ始め,先の方が閉じ合わされ,二度と開くことがない.しかも翌日には枯れてしまっている.常にそうするのかは,疑問である.」
Bryonia nigra* : Bryonia alba L., ウリ科ブリアニア属, 図は “A curious herbal, - - - Volume 2” (1737-1739), Elizabeth Blackwell,
Bindweed**: Calystegia sepium (L.) R. Br. [Convolvulus sepium L.]?, 図は “Flora Londinensis, vol. 1 t. 13” (1775), William Curtis

ジョン・パーキンソンJohn Parkinson, 1567-1650) “Paradisi in Sole Paradisus Terrestris (Park-in-Sun's) 『太陽の園,地上の園』” (1629)
The Garden of pleasant Flowers.  p358
1. Convolvulus caeruleus major rotundifolius
BHL/MoBot
“ I. Convolvulus caeruleus major rotundifolius.
The greater blew Bindweede, or Bell-flower with round leaves.
This goodly plant rifeth up with many long and winding branches, whereby it climbeth and windeth upon any poles, herbes, or trees, that stand neare it within a great compasse, alwaies winding it selfe contrary to the course of the Sunne : on these branches doe growe many faire great round leaves, and pointed at the end, like unto a Violet leafe in shape, but much greater, of a sad greene colour : at the joynts of the branches, where the leaves are set, come forth flowers on pretty long stalkes, two or three together at a place, which are long, and pointed almost like a finger, while they are buds, and not blowne open, and of a pale whitish blew colour, but being blowne open, are great and large bels, with broad open mouths or brims ending in fine corners, and small at the bottome, standing in small greene huskes of fine leaves : these flowers are of a very deepe azure or blew colour, tending to a purple, very glorious to behold, opening for the most part in the evening, abiding so all the night and the next morning, untill the Sunne begin to growe somewhat hot upon them, and then doe close, never opening more : the plant carrieth so many flowers, if it stand in a warme place, that it will be replenished plentifully, untill the cold ayres and evenings stay the luxury thereof : after the flowers are part, the stalkes whereon the flowers did stand, bend downwards, and beare within the huskes three or foure blacke seedes, of the bignesse of a Tare or thereabouts : the rootes are stringy, and perish every yeare.”
「大型青花 or 丸葉ベル型花ヒルガオ
この美しい植物は多くの長い曲がりくねった枝を伸ばし,相当な範囲の内に立っている支柱や草木に昇って絡みつく.常に太陽の進行方向とは逆の方向に蔓を伸ばす.これらの枝の上に多くの見事な大きな丸い葉をつける.(葉の)形状はスミレの葉のように先が尖るが,くすんだ緑色でずっと大きい.枝の葉のついた節から(伸びる)目に見えて長い茎の上に花をつける.一カ所に2-3個つく(花は)蕾で花が開かないうちは細長くて指のようで,薄い白みがかった青色であるが,開き始めると豪華で大きなベルのようになり,完全に開くと口または縁は繊細な角で終わる.底では細くなり繊細な葉の緑の萼の中に立っている.これらの花は大変深みのある碧青色や青色で紫色を帯び,豪華で観賞価値が高い.殆どの部分は夕方に開き,夜の間から,太陽が温める次の朝までその状態を持続し,その後閉じて,二度と開かない.この植物は暖かい場所に植えられると,とても多くの花をつけるので,冷たい風や夜がきて豪華さを奪うまでは,たくさんの花であふれんばかりになっている.花が終わると花のついていた枝(茎)は下を向き,莢の中に 3-4 個の黒い種ができる.大きさは Tare(カラスノエンドウ類)のそれくらいで,根は糸状(鬚根)で毎年枯れる.」と,果実のつき方などに,グッドイヤーよりも観察が鋭い.

★トーマス・ジョンソンによる,ジェラードの『本草あるいは一般の植物誌』の増補改訂版 “The herball or Generall historie of plantes. Gathered by John Gerarde of London Master in Chirurgerie very much enlarged and amended by Thomas Johnson citizen and apothecarye of London” (1636)

CHAP. 318. Of Blew Bindweed.
¶ The Description.
1 * BLew Bindweed bringeth forth long, tender, and winding branches, by which it climeth upon things that stand neere unto it, and foldeth it selfe about them with many turnings and windings, wrapping it selfe against the Sun, contrary to all other things whatsoever, that with their clasping tendrels do embrace things that stand neere unto them; - -

‡** 2 There are also kept in our gardens two other blew floured Bindweeds. The one a large and great plant, the other a lesser. The great sends up many large and long winding branches, like those of the last described, and a little hairie: the leaves are large and roundish, ending in a sharpe point: the floures are as large as those of the great Bindweed, and in shape like them, but blew of colour, with five broad purplish veines equally distant each from other: and these floures commonly grow three neere together upon three severall stalks some inch long, fastened to another stalke some handfull long: the cup which holds the floures, and afterwards becomes the seed vessell, is rough and hairie: the seed is blacke, and of the bignesse of a Tare: the root is stringie, and lasts no longer than to the perfecting of the seed. I have onely given the figure of the leafe and floure largely exprest, because for the root and manner of growing it resembles the last described.

「318章 青花ヒルガオについて
記述
1.青花ヒルガオは長くしなやかで巻きつく枝を伸ばし,近くにある物によじ登り,何度も折り返して絡み付いてその物に自分自身を固定する.(からみつく方向は)巻き鬚で近くにある物に絡みつく他(のよじ登り植物)とは対照的に,太陽(の進む方向)とは逆の向きに蔓を伸ばす.(以下略)」
「‡ 2.もう二種類,我々の庭で栽培している青花ヒルガオがある.一つは大きく豪華で,もう一つは小さい.豪華な方は,先ほど述べた物の様に,多くの大きく長い巻きつく枝を上に伸ばすが,やや多毛である;葉は大きく丸型で,先端は尖っている:花は「大型ヒルガオ great Bindweed」と同じくらい大きく,形もそっくりであるが,色は青く,互いに等距離の五つの幅広い条がついている.これらの花は通常,数つかみ分の長さ(some handfull long)の他の莖にくっついた何インチかの長さの三本ほどの莖に三個密接して着く.花を保持しているカップ(萼)は後で,種の粗い多毛な容器になる.種は黒くて,カラスノエンドウの種とほぼ同じ大きさである.根は糸状で種が熟するより長くは残らない.ここには葉と花との図のみを拡大して載せる.なぜなら根と成長の様式は,先ほど述べた物と似ているからである.」

* 1.の蔓の巻く方向を含めて Blew Bindweed の記述は,ジェラルドの初版 1597 年版にも同一文が記載されている.
** ‡はトーマス・ジョンソンによる新規追加項目及び記述.ジェラルドの初版 1597 年版にはない.

Bindweed は便宜的に「ヒルガオ」と訳したが,字義通りの「マキツキグサ」としてもよかったかな?.


現在でも米国を中心に庭園用草花としての人気は高く,多くの花色や模様の園芸品種が販売されている.米国の Jacksonville Morning Glory Vineyard で販売されている品種の花の画像を示す.この種苗店では日本のアサガオ園芸品種の種も多数販売していて,品種名に “shibori; 絞りとあるのは,そのためかもしれない.


2015年10月27日火曜日

ハリアサガオ-2,丁香茄苗・天茄兒・丁香茄兒,若冲画帖・花彙・本草綱目啓蒙・救荒本草啓蒙・梅園草木花譜・本草図譜・草木図説・植物名実図考・Food Plants of China, 幼果実 縦横断面

Ipomoea turbinate, I. muricata (synonym), Calonyction muricatum (synonym)
食用となる若い果実 2015年10月
江戸時代に中国から渡来し,帰化した救荒植物.江戸には琉球から薩摩商人の手で種がもたらされ,平賀源内によって栽培され,詳細な記事と写生図が記録された(前記事).食料になったのは若い実や肥大した蔕(へた).漢名どおり小さな茄子によく似た形をしていて,下剤としての薬効のあるアサガオと異なり,食しても問題はないとのこと.
莖には刺があり,実が大きくて下を向いて着くなどの特徴は,毛利梅園の絵によく捉えられている.特徴のひとつとして「実が白い」と種々の本草書にあるが,完熟した場合はアサガオと同様に褐色の果皮に包まれ,種子は黒い.ただしアサガオのそれに比べて大きい.
中国への渡来について,胡秀英博士は,フィリピンに植民したスペイン人が熱帯アメリカから持ってきたのが,中国南部に伝わったとしている.しかし,フィリピンに到達した初のスペイン人は1521年のマゼラン率いるスペイン船団であり,一方,14061407)年刊行の『救荒本草』にハリアサガオの記述があるので,時代的に合わない.原産地は熱帯アジアとすべきであろう.

なお,文献の記述を記事にする場合,読み易いように,適宜読み下しに変えたり,句読点,改行,空白を入れた.疑問がある場合は NDL 公開の原文献を参照されたい.文献よりの図は特に断りない限り NDL のデジタル公開画像より部分引用.


写実と想像を巧みに融合させた「奇想の画家」として人気の伊藤若冲 (1716-1800) 原画で,明治末年(刊行年度不明)芸艸堂発行の単色拓版摺「若冲画帖」には,ハリアサガオの図が載っている(右図).この画の図法は,木版を用いた正面摺りで,拓本を取る手法に似ていることから「拓版画」と呼ばれる.通常の木版画と逆に,下絵を裏返しせずそのまま版木に当て,地の部分ではなく描線部分を彫って凹ませ,彫り終えた版面に料紙を乗せ表から墨を付ける.結果,彫った図様が紙に白く残り,地は墨が載った深い黒の陰画のような画面が出来上がる.極彩色の花鳥画がよく知られている若冲だが,デザインの面白さに特化したモノクロ図にも味わいがある.この図では,花より果実の形状の特異さに描く価値を見出している様だ.

★小野蘭山『花彙 艸之三』(1765
「丁香茄苗 テウカウカベウ ハリアサガホ 救荒本艸
仲春種子ヲ下シ便チ苗ヲ生ジ 藤蔓ヲ引テ樹竹ニ上ル 小架ヲ作シテコレヲ玩ブ 藤上ニ柔棘アリ ソノ葉圓尖形チ瘡帚(カシュウ)葉ニ類シ嫩緑色ナリ 差互シテ生ズ 五六月葉間ニ花ヲ生ズ 形チ筋根(ヒルガホ)花ニ類シヤヽ小ニシテ五尖アリ ソノ色粉紅ニシテ紫暈アリ 萼長クシテ假君子芲萼(アサガホノヘタ)ノ如シ 実モ亦圓尖ニシテ相ヒ似タリ ソノ蒂最モ肥長寸バカリ 小刺アツテ嫩小菰(チイサキナスビ)ノ如シ 生青ク枯テ白色ニ變ズ 核ニ三稜アリテ假君子核ニ異ナラズ 熟シテソノ色白シ」

★小野蘭山『本草綱目啓蒙 巻之十四上 草之七 蔓草類』(1803-1806)
「牽牛子 アサガホ(和名鈔) ケニゴシ(今古集)〔一名〕假君子(假耕録) 三白草(村家方)
(中略)
〔集解〕時珍日,白者,人多種之云々.コノ草ハ,ハリアサガホナリ.一名テウジナスビ,トウナスビ,マンパラス或ハモンパラストモ云.寛延ノ始*薩州ノ商人コノ種ヲ携キタル.今ハ諸州ニ多クウユ.春月タネヲ下スコト牽牛子ノ如クス.葉ハ何首烏(かしゅう)葉ノゴトクエシテ光アリ.藤ニ柔刺アリ.人ヲ傷ラズ.花ハ牽牛花ニ同クシテ,小ク淡紫色筒ニ近シテ色深シ.申ノ時ヒラキテ戌ノ時萎ム.故ニ今俗ユフガホト呼.ソノ蒂(へた)肥テ柔刺アリ.甚茄ノ蒂ニ似タリ.上ニ房ヲ結テ牛奶茄(ヒトクチナスビ)ノ形ノゴトシ.熟スルトキハ白色微褐,牽牛子殻ノ如シ.内ニ子アリ,子ノ形亦同シテ微大白色,ソノ嫩ナルモノハ食フべシ.コレ救荒本草ニ載ル所ノ丁香茄児一名天茄児ナリ.白牽牛ニアラズ.時珍ノ説誤レリ.白牽牛ハ白花ノ牽牛ヲ以,真トスべシ.」
寛延ノ始*:寛延元年1748

★小野蕙畝口授(小野職実/録)『救荒本草啓蒙 第十四巻 菜部』(1842
本草学者の蘭山の孫の小野蕙畝が講義をした内容を,その子職実がまとめたもの.
「丁香茄苗
丁子ナスビ 丁子アサカホ
梅園草木花譜 秋四
此種元﨑陽*ヨリ来リ九州邊ニ栽ユ 今ハ世上ニ多シ 葉形落葵(ツルムラサキ)葉ニ似テ大ニシテ蔓生 花ハ旋花(ヒルカホ)ノ形ニシテ淡白紅ヲ帯フ 未ノ刻頃ニ開キ暮ニ至リテ猶アリ 故ニ夕(ユフ)ガホトモ云 花後實ヲ結ブ 形丁子ノ如ク肥大ニシテ肉アリ 食用トシテ害ナシ 本草牽牛ノ條時珍説ニ白牽牛子ヲ丁香茄児トス 誤ナルベシ」
﨑陽*:長崎の異称.江戸時代,漢学者が中国風に呼んだもの

★毛利梅園(1798 1851)『梅園草木花譜 秋四』(1825 序,図 1820 – 1849
「救荒本草及農政全書出
丁香茄苗(テウシナスビ,ナンバンアサガホ),天茄児 藤茄 藤瓜
本草詔江南之藤茄畫譜云
藤瓜此一種也
壬辰*七月十有八日 於霊石園眞寫」
壬辰*1832
よく特徴は現されているものの,萼が二重になっているのが気になる

★岩崎灌園(17861842)『本草図譜(刊行1828-1844)
野生種,園芸種,外国産の植物の巧みな彩色図で,余白に名称・生態などについて説明を付し,『本草綱目』の分類に従って配列している.巻510は文政131830)年江戸の須原屋茂兵衛,山城屋佐兵衛の刊行.以下巻1196は筆彩の写本で制作,三十数部が予約配本され,弘化元(1844)年に配本が完了した.
「巻之二十六 蔓草類二 牽午子(けんごし)
一種 てうじなす はりあさかほ
春實を栽.葉圓くして尖り,何首烏(かしゅう)の葉に似たり.蔓に疣多し.花の蒂(へた)長く形丁子(てうじ)に似て大なり.花は旋花(ひるがほ)に似て大に,白色中心紫色なり.實は下垂す.生なるときは採りて鹽蔵し亦●(者のしたに火,=煮)て食す.中子白色白花の牽午子と同じ故に,時珍此物を以て白牽牛とするは謬なり.てうじなすは漢名丁香茄苗(救荒本草)といふ」

★飯沼慾斎『草木図説前編(草部)巻之四』(成稿 1852(嘉永5)ごろ,出版 1856(安政3)から62(文久2)
「ハリアサガホ 天茄児
蔓葉共ニ多液滑澤.葉形ツルムラサキニ似テ大ニシテ薄ク.蔓ニ柔刺アリ.葉腋花ヲ出スコトアサガホノ如ク.萼五片ニシテ亦多肉.花旋花(ヒルガホ)ノ形ニシテ淡白紅紫底ニ濃紫暈アリ.實礎両蕋アサガホト一般故ニ不圖.花未後放テ暮ニ至ル.花後梗曲ツテ●(黙の犬を占=點)頭.蒂多肉柔滑ニシテ可食.實熟シテ亦アサガホノ如シ
按林氏第十種ニ挙ゲル「イポモイア・ボナ 羅,クーデ・ナクト・トレクテルウインデ」ノ葉形及莖ニ刺アリ花暮ニ萎(シボ)ム等ノコト.本條ニ合スレドモ.其文簡且一處ニ三ハナヲ出スモノヽ如キニ嫌アリ.宜ク他ノ可較ノ書ヲ得ノ日ヲ俟テ當否ヲ決スベシ」

★呉其濬 (1789-1847)『植物名実図考 果類巻之三十一』清末 (1848)
「天茄子 救荒本草謂之丁香茄 茄*作蜜煎,葉可作蔬 其形状絶類牽牛子 或即以爲牽牛花殊誤」(右図,BHL)
*:幼果
『植物名実圖考』三八巻と『同長編』二二巻は,薬草のみならず植物全般を対象とした中国初の本草書として名高い.『圖考』には実物に接して描いた,かつて中国本草になかった写実的図もある.幕末~明治の植物学者・伊藤圭介はこれを高く評価し,植物に和名をあてて復刻.のち伊藤本から中国で再復刻された.

分類学の分野で働いた中国の植物学者.1949年にハーバード大学から植物学の学位を得た最初の中国人女性.★胡秀英 (1908 – 2012) の著作 "Food Plants of China" (刊行年確認できず)には,
幼果実 縦横断面
“Calonyction muricatum (L) G. Don (Syn. Ipomoea muricata [L.] Jacquin)
Tian-qiw = T’ien-ch’ieh (天茄,Celestial Eggplant; Ding-xian-qie = Ting-hsiang-qie = Ting-hsiang-ch’ieh (丁香茄,Clove Eggplant. Leafy shoots; used for potherb; young fruit for jam.
(中略)
Native to tropical America, introduced to the Philippines by the Spanish people and thence to tropical China by overseas Chinese residing in Manila; recorded in the famous Famine Herbal (救荒本草,Jiu-huang-ben-cao published in 1407.”
とあるが,冒頭に述べたように,フィリピンに到達した初のスペイン人は1521年のマゼラン率いるスペイン船団である.


2015年10月26日月曜日

ハリアサガオ-1,丁香茄苗・天茄兒・丁香茄兒,救荒本草・本草綱目・平賀源内『物類品隲』

Ipomoea turbinate, I. muricata (synonym), Calonyction muricatum (synonym)
2015年10月 花の時期は過ぎていた.大きな葉,実のつき方,茎の刺に特徴
近くの公共施設のフェンスに絡まっていた蔓性の植物で莖には刺が多数つく.葉は立派だが,アサガオを小さく深くしたような目立たない花をつけていた.
近年帰化したアメリカアサガオの類かと思っていたが,マルバアサガオのついでに調べてみたら,古くから救荒植物として知られていたハリアサガオと分かった.

2016年7月 上図株の種より開花
アサガオの名はつくが,アカバナヨルガオの別名どおり,夕方から咲き出すヨルガオの仲間.古くに南方から中国に入り,日本には江戸時代に渡来.平賀源内が薩摩商人から購入して庭で育て,仲間に配って中国本草書と比較して丁香茄苗と考定した.

原産地は熱帯アメリカとする説もあるが,明時代の『救荒本草』や『本草綱目』に記録されていることから見ると,時代的に南方アジア原産と考えたほうが納得できる.実の形が香料の丁子と茄子に似ていることから,丁香茄苗・天茄児・丁香茄児の名がついた.若い実,特に蒂(へた)の部分は肉厚でジューシーであり,煮物やジャム(蜜煎)にして食べられた.

時珍の『本草綱目』の「牽牛子(アサガオ)」の項の「白者」(白牽牛子)の記述を読むと,「蔓は微紅色で毛がなく,柔い刺があり,切れば濃汁がでる」など,葉や花,果実の記述もアサガオよりはハリアサガオに合致する.小野蘭山もその著作で指摘し,牧野富太郎も『頭註国訳本草綱目』でその見解を是とした.

実が大きく,下を向いて着くなどの特長は,救荒本草の図や毛利梅園の絵によく捉えられている.特徴のひとつとして「実が白い」とあるが,完熟した場合はアサガオと同様に褐色の果皮に包まれ,種子は黒い.ただしアサガオのそれに比べて大きい.

なお,記述を記事にする場合,読み易いように,適宜句読点や空白を入れた.

★周憲王(周定王)朱選『救荒本草 巻十四 三十一 菜部(根及實皆可食』(1406),徐光啓編・附語『農政全書・荒政』,『救荒本草』(1639),図は和刻:茨城多左衞門等刊 (1716) NDL より
「丁香茄苗 亦名天茄兒.延蔓而生.人家園籬邊多
種.莖紫多刺.藤長丈餘.葉似牽牛甚大.而無花叉
又似初生嫩檾*葉却小.開粉紫邊紫色心筒子花.狀
如牽牛花様.結小茄如丁香様而大.有子如白牽牛
子.亦大味微苦
救飢 採茄兒煠食,或醃作菜食.嫩葉亦可煠熟.
油鹽調食.
玄扈先生**曰嘗過,恆蔬,亦作蜜煎.」
*:イチビ
玄扈先生曰**:欽定四庫全書 救荒本草 巻八 四十六(原版)にはこの文は無い.玄扈先生とは徐光啓の号.徐の附語

救荒本草:中国,明(みん)代の本草書.飢饉(ききん)の際に救荒食物として利用できる植物を解説した書.太祖の第5子,周定王朱(しゅしゅく)1425没)の撰(せん)で,全2巻,1406年刊.収載品目は400余種で,その形態を文章と図で示し,簡単な料理法を記しているが,そのすべてを園圃(えんぽ)に植えて実際に観察して描いている点に特色がある.植物図は他の本草書に比べてはるかに正確であり,明代に利用されていた薬草の実態を知るうえで重要な文献である.1639年に出版された徐光啓(じょこうけい)の『農政全書』の荒政の部分は,この『救荒本草』に徐光啓の附語を加筆したものである.
徐光啓 (1562 - 1633):中国,明末の政治家,学者で天主教 (キリスト教) 徒.上海の人.字は子先.号は玄扈.万暦 32 (1604) 年の進士.翰林院庶吉士に任じられたが,この頃マテオ・リッチから天主教の教えを受け,また暦学,数学,水利,兵器など西洋の実用科学を学び,同 35年にはリッチと共訳したユークリッド幾何学を『幾何原本』 (6) と題して発刊した.

★李時珍『本草綱目』(1590)草之七 蔓草類七十三種,附一十九種
「牽牛子(《別》下品)
(中略)
【集解】時珍曰牽牛有黑,白二種黑者處處野生尤多.其蔓有白毛,斷之有白汁.葉有三尖,如楓葉.花不作瓣,如旋花而大.其實有蒂裹之,生青枯白.其核與棠 子核一樣,但色深 霍爾.白者人多種之.其蔓微紅,無毛有柔刺,斷之有濃汁,葉團有斜尖,並如山藥莖葉. 其花小於黑牽牛花,淺碧帶紅色.其實蒂長寸許,生青枯白.其核白色,稍粗.人亦采嫩實蜜煎為果食,呼為天茄,因其蒂似茄也.」

★『頭註国訳本草綱目』白井光太郎(監修),鈴木真海(翻訳)(1929)「時珍曰く,牽牛には黑,白の二種あって,黑いものは處處に野生就中多くある.その蔓には白毛があって,切れば白汁が出る.葉は三尖があって,楓の葉のやうだ.花は瓣にならず,旋花のようで大きい.その實は蒂に裹まれてゐて,生は青く枯れると白い.核は棠子(だうきうし)の核と同樣だが,色が深黑なだけである.白い種類は一般に多く栽培するもので,その蔓は微紅色で毛がなく,柔い刺があり,切れば濃汁がでる,葉は圓くして斜尖があり,いずれも山藥*の莖,葉のやうなものだ.白牽牛の花は黑牽牛の花よりも小さく,淺碧色に紅色を帶びている.實は蒂が長くて一寸ばかりもあり,生では青く,枯れると白く,その核は白色でやや粗い.世間ではやはり嫩實(せんじつ)を採つて蜜で煎じ,果子に作って食ひ,天茄と呼ぶ.蒂が茄に似てゐるからだ.
牧野富太郎註 時珍謂フ所ノ白牽牛ハ,天茄子即和名ハリアサガホニ當ル」
山藥*:ヤマイモ

源内が自身で種より育てたハリアサガホ (NDL)
平賀源内物類品隲 巻之三 艸部』(1763)宝暦13
「牽牛子 和名アサガホ黒白二種アリ
〇黒丑 黒牽牛子ナリ花色数十種アリ○黒白江南花 和名シボリアサガホ 花鏡ニ曰ク近コロ叉異種有 一本上二花ヲ開者ノ俗因テ之ヲ名二黒白江南花ト曰○重辧ノモノアリ奇品ナリ 實ヲ結不其ノ餘近花色数十ニ及ブ 薬用ニハ碧花ノモノヲ用ベシ
○白丑 白牽牛子ナリ 是牽午子ノ花實皆白キモノナリ 東璧天茄子ヲ白丑トスルハ非ナリ 辧下ニ詳ナリ
天茄子 一名丁香茄苗和名タウナスビ又丁子ナスビト云和産ナシ○琉球種其蔓微紅ニシテ毛無柔刺アリ之ヲ断テ濃汁有葉圓ニシテ山藥及甘藷葉ニ似タリ 花牽牛旋花ノゴトク白色ニシテ底紫ナリ 午時ニ開テ夕ニ萎ム 實牽牛子ニ類シテ蒂長シテ其ノ形丁香ノゴトク叉茄子ニ似タリ 生ハ青ク熟ハ白シ其ノ核牽牛子ニ比スレバ稍大ナリ 嫩実ヲ取蜜煎シ或ハ焯茶ニ供シ薑醋ニ拌ゼテ饌ニ供ス 又對口瘡ヲ治スル神方アリ 詳ニ高濂ガ遵生八牋ニ見エタリ 此ノ物本邦ニ産スルコトヲ聞ズ 戊寅*ノ夏薩商東都ニ齎シ来ル琉球ニ出ヅト云 予即是ヲ得テ甚愛ス秋ニ至實数十百枚ヲ得タリ 翌年己卯主品中ニ具ス 叉同志ノ者ニ贈テ干世ニ公ニス 按ズルニ東璧天茄子ヲ以テ白牽牛子トス 然レドモ蘇頌黒白二種有ト云ノ外古人ノ説ナシ 牽牛子中又色白モノアリ 天茄子形相似タリトイヘドモ其種自ラ別物ナリ 且天茄子ハ果ト爲シテ食ドモ下痢セズ 牽牛子ノ功ナキニ似タリ 恐クハ東壁牽牛子白實ノモノヲ見ズ 妄ニ認テ此ノ物トスルカ」
戊寅*1758


2015年10月13日火曜日

クサレダマ-7 基本種 セイヨウクサレダマ,英国古本草-4,パーキンソン『太陽の園,地上の楽園 ”Paradisi in Sole Paradisus Terrestris”』

Lysimachia lutea siliquosa Virginiana. The tree Primrose of Virginia. Oenothera biennis L.

BHL/MOBOT
ジョン・パーキンソン (John Parkinson 1567–1650) は英国中世の庭師・植物学者で,薬剤師見習いからスタートし,1617年薬種商組合 (The Society of Apothecaris) の創設に参加,20年には理事になるが庭仕事に熱中するようになり,22年には引退した.
彼を有名にした『太陽の園,地上の楽園 ”Paradisi in Sole Paradisus Terrestris”』(1629)(左図)のタイトルは,自分の名前(park-in-son)をラテン語にしたもので,第一部「花園」(The Garden of pleasant Flowers.),第二部「菜園」(The Kitchen Garden.),第三部「果樹園」(The Orchard)よりなる園芸書.庭園設計や土づくり,種まき,育て方などの具体的な庭造りのノウハウと,約800種の植物の図が掲載されている.諸外国から移入された,或は英国自生の庭園用の美しい植物が多く取り上げられ,それまでの中世の菜園の実用主義や医術・治療を目的とした本草書とは,大きく異なる内容となっている.

BHL/MOBOT & Biblioteca Digital del Real Jardín Botánico
この書には108 の全ページ大の,囲みの中に多くの植物を描き込んだ木版画に800種もの植物の絵が載せてある.その何点かはドイツ人画家クリストファー・スウィッツァー(Christopher Switzer)による新しいオリジナルの図だが,多くの図版は,マティアス・デ・ロベル(Mathias de l’Obel),カロルス・クルシウス(Carolus Clusius),オランダの彫版職人クリスピン・ファン・ドゥ・パス(Crispijn van de Passe)の『花の園』(Hortus Floridus)の図版をコピーしたもので(右に一例を示す),しかも粗雑な彫り方で,添付されているすばらしい説明文にそぐわない.

この著作は当時の国王,チャールズ一世(Charles I, 1600 – 1649, 在位:1625 - 1649)の皇后で,園芸の愛好者 ヘンリエッタ・マリア・オブ・フランス (Henrietta Maria of France, 1609 –1669) に献呈され,その後彼はチャールズ一世のお抱え植物学者となった.
(左図,Henrietta Maria, with her court dwarf, Jeffrey Hudson,(1633)ヴァン・ダイク,ナショナル・ギャラリー(ワシントン)所蔵)
背後のオレンジの木の鉢植えはヘンリエッタ・マリアが庭園を好んでいたことを表していると考えられている.(from Wiki-commons

この書は主に庭園を彩る観賞価値の高い植物を収載しているため,薬草として名高い Lysimachia luteaYellow Loose-strife)の記事はない.しかし,当時北米大陸から導入されたメマツヨウグサが Lysimachia の仲間として,ストック(Viola Matronalis. Dames Violets)の章に,”Lysimachia lutea siliquosa Virginiana. The tree Primrose of Virginia.” の名で紹介されている.この植物をどの類の章に入れるか,パーキンソンは大分迷ったようではあるが,花が四辧で香りがよいことから,ストックの項に入れたのであろう.なお本文中の,“Gilloflowers”とはカーネーションの古名で,香りがこの花に似ているので,ストック類が “Queenes Gilloflowers” と呼ばれた.

この北アメリカより移入された”Lysimachia lutea siliquosa Virginiana" は Marcus Woodward によってメマツヨイグサ(Oenothera biennis L.)と考定されている.

“PARADISI IN SOLE PARADISUS TERRESTRIS” BY JOHN PARKINSON
“The Garden of pleasant Flowers.”
CHAP. XLI.
1 . Hesperis, sive Viola Matronalis. Dames Violets, or Queenes Gilloflowers.
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THe ordinary Dames Violets, or Queene Gilloflowers, hath his leaves broader, greener, and sharper pointed, then the Stock gilloflowers, and a little endented about the edges : the stalkes grow two foot high, bearing many greene leaves upon them, smaller then those at the bottome, and branched at the toppe, bearing many flowers, in fashion much like the flowers of stocke gilloflowers, consisting of foure leaves in like manner, but not so large, of a faint purplish colour in some, and in others white, and of a pretty sweet sent, especially towards night, but in the day time little or none at all : aster the flowers are part, there doe come small long and round pods, wherein is contained, in two rowes, small and long blacke seede : the roote is wholly composed of stringes or fibres, which abide many yeares, and springeth fresh stalks every yeare, the leaves abiding all the Winter.

2. Hesperis Pannonica. Dames Violets of Hungary.
The leaves of this Violet are very like the former, but smoother and thicker, and not at all indented, or cut in on the edges : the flowers are like the former, but of a sullen pale colour, turning themselves, and seldome lying plaine open, having many purple veines, and streakes running through the leaves of the flowers, of little or no sent in the day time, but of a very sweete lent in the evening and morning ; the seedes are alike also, but a little browner.

3. Lysimachia lutea siliquosa Virginiana. The tree Primrose of Virginia.
Unto what tribe or kindred I might referre this plant, I have stood long in suspence, in regard I make no mention of any other Lysimachia in this work : lest therefore it should lose all place, let me ranke it here next unto the Dames Violets, although I confesse it hath little affinity with them. The first yeare of the sowing the seede it abideth without any stalke or flowers lying upon the ground, with divers long and narrow pale greene leaves, spread oftentimes round almost like a Rose, the largest leaves being outermost, and very small in the middle : about May the next yeare the stalke riseth, which will be in Summer of the height of a man, and of a strong bigge size almost to a mans thumbe, round from the bottome to the middle, where it groweth crested up to the toppe, into as many parts as there are branches of flowers, every one having a small leafe at the foote thereof : the flowers stand in order one above another, round about the tops of the stalks, every one upon a short foot-stalke, consisting of foure pale yellow leaves, smelling somewhat like unto a Primrose, as the colour is also (which hath caused the name) and standing in a greene huske, which parteth it selfe at the toppe into foure parts or leaves, and turne themselves downewards, lying close to the stalke : the flower hath some chives in the middle, which being past, there come in their places long and cornered pods, sharpe pointed at the upper end, and round belowe, opening at the toppe when it is ripe into five parts, wherein is contained small brownish seed : the roote is somewhat great at the head, and wooddy, and branched forth diversly, which perisheth after it hath borne seede.

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3. バージニア・コダチ・サクラソウ
他のリシマキアにはこの書では言及しないので,この植物をどの種類に入れるのか,長いこと迷ったが,何処にも入れないことも出来ないので,あんまり類似性はないと認めながら,” Dames Violets (ストック)の次にランク付けた.播種の一年後は,地上には莖も花も現さず,多くの長く細い薄緑色の葉を,多くの場合まるでバラのように丸く広げる(ロゼッタ).外側の葉が最も大きく,内の葉は非常に小さい.次の年の五月ごろに莖が伸び出し,夏には人の背丈まで成長する.その莖は,硬くて人の親指の太さほどもあり,根際から中ほどまでは丸く,梢頂まで毛がついている.多くの場所に花莖があり,その全てには付け根に小さな葉が着いている.花は他の花の上に順番につき(無限花序?),莖頂に向かって環状につく.全ての花は短い莖の足(子房)の上に咲くが,四辧の薄黄色の花弁からなる,一寸サクラソウ (Primrose, Cowslip?) に似た香りがする.そのため,色も似ているのでこのように呼ばれている.この花は緑色の殻(子房)の上につくが,この殻はその先で四つの部分或は葉(萼)に別れ,莖に密着して垂れ下がる.花の中心部にはsome chivesがあり,後にその場所には,先端が尖り,基部では丸い,長い角ばった莢がつく.熟すると先端部は五つに分かれ,その中には小さな茶色の種が入っている.根はやや先端が太くなり,木質で,数多く分岐し,種を結んだ後は枯れる.

The Place.
The two first grow for the most part on Hils and in Woods, but with us in Gardens onely.
The last, as may be well understood by the title, came out of Virginia.
最後の種は,名稱でわかるように,バージニアから移入された.

The Time.
They flower in May, June, and July.
(三種とも)五月,六月,七月に花をつける.

The Names.
The name of Hesperis is imposed by most Herbarists vpon the two first plants, although it is not certainly knowne to be the same that Theophrastus doth make mention of, in his sixth Booke and twenty five Chapter de caujis plantarum : but because this hath the like effects to smell best in the evening, it is (as I said) imposed upon it. It is also called Viola Marina Matronalis, Hyemalis, Damascena and Muschatella : In English, Dames Violets, Queens Gilloflowers, and Winter Gilloflowers.
The last hath his Latine name in the title as is best agreeing with it, and for the English, although it be too foolish I confesse, yet it may passe for this time till a fitter be given, unlesse you please to follow the Latine, and call it Virginia Loose-strife.
最後の種は,そのラテン名がその形態を良く表している(siliquosa とは, codded の意味).英語名は,正直に言うと非常に馬鹿らしいとは思うが,もっとよい名前が付くまでは,この名が通用しよう.でなければ,ラテン名に従うか,Virginia Loose-strife (バージニア産のセイヨウクサレダマ)と呼ぶべきであろう.

The Vertues.
I never knew any among vs to use these kindes of Violets in Physicke, although by reason of the sharpe biting taste, Dodonaeus accounteth the ordinary sort to be a kinde of Rocket, and saith it provoketh sweating, and urine : and others affirme it to cut, digest, and cleanse tough flegme.
The Virginian hath not beene used by any that I know, either inwardly or outwardly.
バージニア種は,私が知っている限りにおいては,内服用・外用何れにも使われたことはない.

出来るだけ原文に忠実にテキスト化したので,スペルは現在の英語とは異なる点もある.また, "u", "v", "s", "j" は現代英語の用法に従って変更した.
誤読解等の疑問がある場合は Biodiversity Heritage Library (BHL) に公開されている原典を参照されたい.