2015年10月26日月曜日

ハリアサガオ-1,丁香茄苗・天茄兒・丁香茄兒,救荒本草・本草綱目・平賀源内『物類品隲』

Ipomoea turbinate, I. muricata (synonym), Calonyction muricatum (synonym)
2015年10月 花の時期は過ぎていた.大きな葉,実のつき方,茎の刺に特徴
近くの公共施設のフェンスに絡まっていた蔓性の植物で莖には刺が多数つく.葉は立派だが,アサガオを小さく深くしたような目立たない花をつけていた.
近年帰化したアメリカアサガオの類かと思っていたが,マルバアサガオのついでに調べてみたら,古くから救荒植物として知られていたハリアサガオと分かった.

2016年7月 上図株の種より開花
アサガオの名はつくが,アカバナヨルガオの別名どおり,夕方から咲き出すヨルガオの仲間.古くに南方から中国に入り,日本には江戸時代に渡来.平賀源内が薩摩商人から購入して庭で育て,仲間に配って中国本草書と比較して丁香茄苗と考定した.

原産地は熱帯アメリカとする説もあるが,明時代の『救荒本草』や『本草綱目』に記録されていることから見ると,時代的に南方アジア原産と考えたほうが納得できる.実の形が香料の丁子と茄子に似ていることから,丁香茄苗・天茄児・丁香茄児の名がついた.若い実,特に蒂(へた)の部分は肉厚でジューシーであり,煮物やジャム(蜜煎)にして食べられた.

時珍の『本草綱目』の「牽牛子(アサガオ)」の項の「白者」(白牽牛子)の記述を読むと,「蔓は微紅色で毛がなく,柔い刺があり,切れば濃汁がでる」など,葉や花,果実の記述もアサガオよりはハリアサガオに合致する.小野蘭山もその著作で指摘し,牧野富太郎も『頭註国訳本草綱目』でその見解を是とした.

実が大きく,下を向いて着くなどの特長は,救荒本草の図や毛利梅園の絵によく捉えられている.特徴のひとつとして「実が白い」とあるが,完熟した場合はアサガオと同様に褐色の果皮に包まれ,種子は黒い.ただしアサガオのそれに比べて大きい.

なお,記述を記事にする場合,読み易いように,適宜句読点や空白を入れた.

★周憲王(周定王)朱選『救荒本草 巻十四 三十一 菜部(根及實皆可食』(1406),徐光啓編・附語『農政全書・荒政』,『救荒本草』(1639),図は和刻:茨城多左衞門等刊 (1716) NDL より
「丁香茄苗 亦名天茄兒.延蔓而生.人家園籬邊多
種.莖紫多刺.藤長丈餘.葉似牽牛甚大.而無花叉
又似初生嫩檾*葉却小.開粉紫邊紫色心筒子花.狀
如牽牛花様.結小茄如丁香様而大.有子如白牽牛
子.亦大味微苦
救飢 採茄兒煠食,或醃作菜食.嫩葉亦可煠熟.
油鹽調食.
玄扈先生**曰嘗過,恆蔬,亦作蜜煎.」
*:イチビ
玄扈先生曰**:欽定四庫全書 救荒本草 巻八 四十六(原版)にはこの文は無い.玄扈先生とは徐光啓の号.徐の附語

救荒本草:中国,明(みん)代の本草書.飢饉(ききん)の際に救荒食物として利用できる植物を解説した書.太祖の第5子,周定王朱(しゅしゅく)1425没)の撰(せん)で,全2巻,1406年刊.収載品目は400余種で,その形態を文章と図で示し,簡単な料理法を記しているが,そのすべてを園圃(えんぽ)に植えて実際に観察して描いている点に特色がある.植物図は他の本草書に比べてはるかに正確であり,明代に利用されていた薬草の実態を知るうえで重要な文献である.1639年に出版された徐光啓(じょこうけい)の『農政全書』の荒政の部分は,この『救荒本草』に徐光啓の附語を加筆したものである.
徐光啓 (1562 - 1633):中国,明末の政治家,学者で天主教 (キリスト教) 徒.上海の人.字は子先.号は玄扈.万暦 32 (1604) 年の進士.翰林院庶吉士に任じられたが,この頃マテオ・リッチから天主教の教えを受け,また暦学,数学,水利,兵器など西洋の実用科学を学び,同 35年にはリッチと共訳したユークリッド幾何学を『幾何原本』 (6) と題して発刊した.

★李時珍『本草綱目』(1590)草之七 蔓草類七十三種,附一十九種
「牽牛子(《別》下品)
(中略)
【集解】時珍曰牽牛有黑,白二種黑者處處野生尤多.其蔓有白毛,斷之有白汁.葉有三尖,如楓葉.花不作瓣,如旋花而大.其實有蒂裹之,生青枯白.其核與棠 子核一樣,但色深 霍爾.白者人多種之.其蔓微紅,無毛有柔刺,斷之有濃汁,葉團有斜尖,並如山藥莖葉. 其花小於黑牽牛花,淺碧帶紅色.其實蒂長寸許,生青枯白.其核白色,稍粗.人亦采嫩實蜜煎為果食,呼為天茄,因其蒂似茄也.」
★『頭註国訳本草綱目』白井光太郎(監修),鈴木真海(翻訳)(1929)「時珍曰く,牽牛には黑,白の二種あって,黑いものは處處に野生就中多くある.その蔓には白毛があって,切れば白汁が出る.葉は三尖があって,楓の葉のやうだ.花は瓣にならず,旋花のようで大きい.その實は蒂に裹まれてゐて,生は青く枯れると白い.核は棠子(だうきうし)の核と同樣だが,色が深黑なだけである.白い種類は一般に多く栽培するもので,その蔓は微紅色で毛がなく,柔い刺があり,切れば濃汁がでる,葉は圓くして斜尖があり,いずれも山藥*の莖,葉のやうなものだ.白牽牛の花は黑牽牛の花よりも小さく,淺碧色に紅色を帶びている.實は蒂が長くて一寸ばかりもあり,生では青く,枯れると白く,その核は白色でやや粗い.世間ではやはり嫩實(せんじつ)を採つて蜜で煎じ,果子に作って食ひ,天茄と呼ぶ.蒂が茄に似てゐるからだ.
牧野富太郎註 時珍謂フ所ノ白牽牛ハ,天茄子即和名ハリアサガホニ當ル」
山藥*:ヤマイモ

源内が自身で種より育てたハリアサガホ (NDL)
平賀源内物類品隲 巻之三 艸部』(1763)宝暦13
「牽牛子 和名アサガホ黒白二種アリ
〇黒丑 黒牽牛子ナリ花色数十種アリ○黒白江南花 和名シボリアサガホ 花鏡ニ曰ク近コロ叉異種有 一本上二花ヲ開者ノ俗因テ之ヲ名二黒白江南花ト曰○重辧ノモノアリ奇品ナリ 實ヲ結不其ノ餘近花色数十ニ及ブ 薬用ニハ碧花ノモノヲ用ベシ
○白丑 白牽牛子ナリ 是牽午子ノ花實皆白キモノナリ 東璧天茄子ヲ白丑トスルハ非ナリ 辧下ニ詳ナリ
△天茄子 一名丁香茄苗和名タウナスビ又丁子ナスビト云和産ナシ○琉球種其蔓微紅ニシテ毛無柔刺アリ之ヲ断テ濃汁有葉圓ニシテ山藥及甘藷葉ニ似タリ 花牽牛旋花ノゴトク白色ニシテ底紫ナリ 午時ニ開テ夕ニ萎ム 實牽牛子ニ類シテ蒂長シテ其ノ形丁香ノゴトク叉茄子ニ似タリ 生ハ青ク熟ハ白シ其ノ核牽牛子ニ比スレバ稍大ナリ 嫩実ヲ取蜜煎シ或ハ焯茶ニ供シ薑醋ニ拌ゼテ饌ニ供ス 又對口瘡ヲ治スル神方アリ 詳ニ高濂ガ遵生八牋ニ見エタリ 此ノ物本邦ニ産スルコトヲ聞ズ 戊寅*ノ夏薩商東都ニ齎シ来ル琉球ニ出ヅト云 予即是ヲ得テ甚愛ス秋ニ至實数十百枚ヲ得タリ 翌年己卯主品中ニ具ス 叉同志ノ者ニ贈テ干世ニ公ニス 按ズルニ東璧天茄子ヲ以テ白牽牛子トス 然レドモ蘇頌黒白二種有ト云ノ外古人ノ説ナシ 牽牛子中又色白モノアリ 天茄子形相似タリトイヘドモ其種自ラ別物ナリ 且天茄子ハ果ト爲シテ食ドモ下痢セズ 牽牛子ノ功ナキニ似タリ 恐クハ東壁牽牛子白實ノモノヲ見ズ 妄ニ認テ此ノ物トスルカ」
戊寅*1758


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