2018年11月12日月曜日

シャジクソウ-1 和文献-1,廣益地錦抄,草木弄葩抄,画本野山草,物品識名,梅園草木花譜

 Trifolium lupinaster
2000年7月 長野県高峰山
日本では北海道,本州(長野県・群馬県・宮城県)の比較的標高の高い山地に分布する北方植物.世界的にはシベリアを中心にアジア北東部,ヨーロッパ東部に分布する.
5~7個の小葉が茎の片側に車輪状に着くので車軸草,しかも半輪状なので片葉車,片輪車の別名もある.また,笠の内側の骨が仏像の光背の形に見えることから,後ろ下がりにかぶる笠に例えた「阿弥陀笠(草)」の名もある.(挿図は何れも NDL の公開デジタル画像の部分引用)

磯野の初見は,★伊藤伊兵衛『廣益地錦抄 巻之七 薬草四十五種』(1719)で,漢名を「半邉蓮」とし,葉と花のつき方が「半輪」であることから,車軸草の名がついたとある.また,鉢植えにして観賞するに適しているとある.また,「薬草」の部にはあるが,薬効についての記述はない.
「半邉蓮(はんへんれん) 宿根より春
生る尺ばかり
乃小草にて地には
びこる葉五枚ツゝ出て
切まハし見事に草乃
半輪のごとく花ハ五六
月さくうすむらさき
花形も叉車の半輪
乃かたちなれハ車軸(シャジク)
草(サウ)といふ段と枝多ク
出花葉志げく付ク小
草なり鉢植にして
ながめたへす愛賞す
へし」とある.

『和漢三才図会』には,「半邉蓮」が記載されているが,これは既述のようにミゾカクシの漢名として用いられている.

★菊池成胤『草木弄葩抄』(1735)は,知名度は低いが,先行する『花壇綱目』や『花壇地錦抄』より記載がはるかに詳しい園芸書で,草類だけを載せる.次にのべる『絵本野山草』(1755)は全163項目だが,うち半数の82項が本書の記文の全部あるいは一部の転写である.
この書には,葉がヤハズソウ (Lespedeza striata (Thunb.) Hook. et Arn.) に似ていて,横に広がり,阿弥陀笠の別名があると記す.
「志やしく草
葉矢はづ草のごとくうす紅のはな、だん/\さく蔓(つる)とおなじ
くひろがりて立のびず又あみだがさともいふ」

★橘保国保『画本野山草』(1755)には,
「車軸草(しやぢくさう) 半邉蓮(はんへんれん)
葉矢筈(やはづ)のごとくうす紅(べに)のはな、だん/\さく。蔓(つる)と同く
ひろがりて立のびず又あみだかさともいふ五六月花さく」
と,ほゞ『草木弄葩抄』を剽窃した記述と,「阿ミだかさ」の名での図が載る.

岡林清達・水谷豊文『物品識名(1809 ) には,「シヤジクサウ」の名は載るが,漢名や別名などの説明はない.

★毛利梅園『梅園草木花譜』(1825 序,図 1820 1849)の「夏之部 二」には,当時の図譜としては珍しい実物の精密な写生図とともに,
車軸草(シヤジクサウ)
本草家曰
酔仙花

地錦抄ニ
半邉蓮 車軸草 と云

和漢三才圖會濕草類に曰
半邊蓮(シャジクサウ)(ハンヘンレン)
急解索(キュウゲサク)
本綱ニ曰花止(タヽ)有
半邉蓮華狀


と写生した日付「癸未林鐘初七日眞寫」(1826年陰暦六月七日)を記してある.但し前述の如く『和漢三才圖會』の半邊蓮はミゾカクシである.

さらに「救荒本草曰
水胡蘆苗(シヤジクサウ) 證元説」

とあるが,「救荒本草」の水胡蘆苗は図を見ると,葉の形は似ていなくもないが,キンポウゲ科の Halerpestes sarmentosa (Adams) Komarov & Alissova であり,全くの別物である.證元なる人物は不明.

「水胡蘆苗
生水邊就地拖蔓而生每節間生四葉而葉如指頂大其葉尖上皆作三義味甘
救饑采葉連嫩秧煠熟水浸淘浄油鹽調食」

0 件のコメント: