イチハツは中国画譜の『芥子園画伝』や『小山画譜』に取り上げられ,紫胡蝶の名で詩と共に描かれ,絵手本とされている.
中国園芸書の『秘傳花鏡』には,紫羅欄の名で収載され,蝴蝶花(今言うシャガ)に葉や花のつくりが似ているとされ,また高阜墻頭を好み,墻頭草の名もあると,高い阜(おか)や墻(かき)の背に育つとされている.『佩文齋廣群芳譜』にも墻頭草の名はあり,さらに花はナツズイセンのそれに似て,4月に咲き愛すべしとある.
中国植物図譜の『植物名實圖考』では,毒草の部にカテゴライズされ,三月に開花し,根が民間薬として用いられるとする.
現代中国でも射干(ヒオウギ)の根が「射幹」として,鳶尾(イチハツ)の根が「川射幹」として流通している.
★王槩(おうがい)『芥子園画伝(かいしえんがでん)』(1679,序)
初集は李流芳の画譜をもとに,南京在住の絵師王槩が大幅に増補し,文章をつけて編集した山水樹石画譜で,1679年に刊行された.全五巻本,李漁序.巻五に名をとどめる王槩・王臬兄弟,王楫,孫肇功,陳淏(扶揺)は,康煕年間に同じく南京において刊行された短編小説集『西湖佳話』の図版にも名が見えるのみならず,作風のうえでも共通するところがあり,両書がともにこれらの人々の関与によって制作されたものであることを示している.二集は王槩とその兄弟が共同編集した蘭竹菊梅画譜で1701年刊.4巻本.三集も王槩とその兄弟が共同編集した花鳥画譜で同じく1701年刊.
元来絵師の技術は,門外不出だったので,それを一般に広め,また統一的な描き方の無かった絵画技術を整理するために,解説文と挿絵を用いた書物であったので歓迎され何度も出版された.
日本にも元禄年間(1688年-1704年)に渡来しており,寛延年代(1748年ごろ)以来,日本でも翻刻本が何度も出版され,多くの図が大岡春ト(1680 - 1763)の『明朝紫硯』(1746) に摸刻されている.(http://hanamoriyashiki.blogspot.com/2019/08/3-3.html)
その第三集の「青在堂草蟲花卉譜下冊」に,イチハツの圖が「紫胡蝶 倣張奇畫・黄虞山人句」として収められている(冒頭図).
なお,図は王安節 摸古,出版は京都 五車楼の版(出版年代不明).NDLの公開デジタル画像より引用.
★陳淏子『秘傳花鏡』(1688).陳淏子(ちん こうし.1612年 - 没年不明)は中国.清代の博物学者.園芸家.浙江省杭州の人.字は扶揺.号は西湖花隠翁.経歴は知られていない.
晩年杭州の西湖の湖畔に住み多くの花草果木を育てた.1688年.77歳の時に刊行した『秘傳花鏡』は花木・花草の種類.栽培法と.鳥・獣・魚・昆虫の飼育法を述べた書物
晩年杭州の西湖の湖畔に住み多くの花草果木を育てた.1688年.77歳の時に刊行した『秘傳花鏡』は花木・花草の種類.栽培法と.鳥・獣・魚・昆虫の飼育法を述べた書物
その「五 花草類攷」には
「 蝴蝶花
蝴蝶花類射干。一名烏霎音設葉如蒲而短闊。其花六
出。儼若蝶狀。黄瓣上有赤色細點。白瓣上有黄赤細
點中抽一心。心外黄鬚三莖繞之。春末開花。多不結
實。至秋分種高處易活。壅以鶏糞則肥。
紫羅欄
紫羅欄。俗名墻頭草。一名高良姜。葉似蝴蝶草。而更
濶嫩。四月中發花青蓮色。其辧亦類蝴蝶花。大而起
薹紫翠奪目可愛。秋分後分栽。性喜高阜墻頭。種則
易茂。」とある.
引用図は康煕27 [1688] 序版(NDLの公開デジタル画像より引用)
「 紫羅襴
增*〔草花譜〕紫羅襴,草本,色紫翠,如鹿蔥**花,秋深分本栽
種,四月發花,可愛.」とある.
*増:二如亭群芳譜に追加した項目
**鹿蔥:ナツズイセン,Lycoris squamigera Maxim.
引用図は1868刊(姑蘇亦西齋藏版 NDLの公開デジタル画像より引用)
清の政治家、画家、学者の★鄒一桂(1686-1772)『小山画譜』の「巻之上」には
「 紫蝴蝶
濶葉抽莖幹上生枝陸續開放紫花九瓣作三
臺大瓣三有紫㸃中起一墻如鋸白質而紅㸃
小瓣三無㸃其大瓣之上另擎出三瓣狹小而
拳白色紅筋此花宜栽髙處喜日色土墻上多
有之俗謂之墻頭草」とある.本来ならば図があるのだが,NETで見る事の出来る文献では確認できなかった.
「 紫蝴蝶 イチハツ ヤツハシ 啓鳶尾 廣花薑 秘紫羅欄
濶-葉抽レ莖。幹-上生レ枝。陸續-開レ花。紫-花九瓣。作二三-
臺一。大-瓣三有二紫-㸃一。中起二一-墻一如レ鋸。白-質而紅-㸃。
小-瓣三。無レ㸃。其大-瓣之上。另擎-二出三瓣。狹-小而
拳。白色紅-筋。此花宜レ栽二髙處一。喜二日-色一。土-墻上多
有レ之。俗謂二之墻-頭-草一。 四月中発花秘」
と「イチハツ ヤツハシ」の和名が追加されている.ヤツハシは薩州の地方名(本草綱目啓蒙,諧季寄これこれ草).
図はNDLの公開デジタル画像より引用
なお,「各花異名引證書目」によれば,参照文献の,啓:本草啓蒙, 廣:廣東新語, 秘:秘傳花鏡である.
その「二十四 毒草」には,
「鳶尾
鳶尾本經下品唐本草花紫碧色根似高良薑此即今之紫蝴
蝶也花鏡謂之紫羅欄誤以其根爲即高良薑三月開花俗亦
呼扁竹李時珍以爲射干之苗今俗醫多仍之」と
鳶尾を射干(ヒオウギ)の苗とする李時珍の説は,この時代でも俗醫の間では流布されているとある.
図はInternet Archives より.
現代中国でも射干(ヒオウギ)の根が「射幹」として,鳶尾(イチハツ)の根が「川射幹」として流通している.
射幹,烏扇
【藥理作用】 抗病毒作用,抗炎解熱作用。
【性味功能】 苦,寒,有毒。解毒利咽,清熱化痰,散熱消結。
【主治用法】 咽喉腫痛,咳逆上氣,痰涎壅盛,瘰鬁結核,瘧母,閉經,癰腫瘡毒。內服: 煎湯,0.8-1.5錢;入散劑或鮮用搗汁。外用: 研末吹喉或調敷。
川射幹,鳶尾,烏鳶
【藥理作用】 消炎作用。
【性味功能】 辛、苦,寒,有毒。消積,破瘀,行水,解毒。
【主治用法】 食滯脹滿,癥瘕積聚,臌脹,腫毒,痔瘺,跌打損傷。內服: 煎湯,0.3-1錢;或研末。外用: 搗敷。
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