Hypericum monogynum
江戸時代(宝永5年,1706)* に中国から渡来したビヨウヤナギは,花の少ない梅雨の時期に鮮やかな黄色い花をつける事から,多くの古い博物書・園芸書に記録されている.特徴は葉が柳に似ている事と,多数のほそ長い雄蕊が花弁より外に飛び出している事.この濃い黄色の糸のような雄蕊に由来する名前が多い.*: 草木名彙辞典
漢字名は,美容柳,未央柳〔別名〕美女柳・金糸桃〔漢名〕金線海棠(慣用),金糸海棠・金糸草・金糸桃・貴童花・未央柳(木村陽二郎監修『図説草木名彙辞典』柏書房 (1991)).地方名は少なく,和歌山県日高地方での「ビジョヤナギ」が採られているのみ(八坂書房編『日本植物方言集成』八坂書房(2001).
すべて春夏葉しげりて秋より冬の中落葉するたぐひヲ夏木といふ櫻梅桃のるひも夏木也」の「○山桝(さんせう)るひ 木」の項に
「美陽(びやう) 通木夏中 花うこん色花中ニ金のほそしべ一はいもりてあり葉ハ柳のごとし」とあり,花と葉の特徴が良く記されている.
「〔外*〕
金絲桃(ビヤウヤナギ) 葉ハ柳ニ似テ末マルシ花ハ桃ニ似テ黄ナリ蘂ハ
ニ三尺諸書ニ出タリ春分ニワカチウヘ又正月ニサシ
テモ生ス三才圖繪如テレ桃而心ニ有二黄鬚一鋪キ二散ル花外ニ若ク一
金絲ノ然リ亦根ノ下劈開分種畫譜ニ所レ言亦同」
「美容柳(ビヤウヤナギ)正字未詳
△按ズルニ,俗ニ云フ美容ノ柳ハ小木ニシテ,韌(シナ)ヘタル枝,其ノ葉ハ柳ニ似テ六月ニ黄ナル花ヲ開ク.単
葉ノ棣棠(ヤマブキ)ノ花ノ如クシテ,甚ダ美ニシテ子ヲ結バズ.蓋シ,此レ柳ノ種類ニアラズ.最モ喬木ニアラズシテ,
葉ノ略(チト)似タルヲ以ッテ柳ノ名ヲ得タルノミ.」
とある(原文:漢文).但し図には柳の木に花が着いたように珍妙な木が描かれている.
これを島田・竹島・樋口,平凡社-東洋文庫,『和漢三才図会』(1991)では以下の様に現代語訳している.
「美容柳(びようやなぎ) 正字未詳
△思うに、俗に美容柳といわれているものは、小木で枝はしなえ、その葉は柳に似ている。六月に黄色い花を開くが、それは単葉(ひとえ)の棣棠(やまぶき)の花のようで、大へん美しい。子は結ばない。そもそもこれは柳の種類ではなく、喬木ではない。葉が少し似ているので、柳という名を有しているにすぎない。」
★橘保国(1715-1792)『画本野山草』(1755)
「びやう柳 金糸桃
花、黄色にして桃のごとく、しべ、黄にして糸のごとし。葉、長じて柳のごとし。又,
木細ふして糸のごとし。葉は両方に封(ほう)す.たてに延ず、地にはふ。
下ヨリ劈(つんさ)キ開クニ似タリ。種ヲ分ツテ、三四月花開ク.」
★平賀源内『物類品隲』(1763)
江戸中期の博物学書.1763年(宝暦13) 刊.平賀源内が師の田村藍水とともに1757年以来,5度にわたって開いた薬品会(物産会)の出品物,合計2000余種のうちから主要なもの360種を選んで,産地を示し解説を加えたもの.本文4巻,産物図絵1巻,付録1巻,計6巻からなる.
この書の「巻之三 草部」には
「△金糸桃 和-名ビヤウヤナギ處-處園-中ニ植」との簡単な記述がある.
次の項にはかなり長い「金絲梅」の記述があり,「甚愛スベシ」とあり,また,「○漢種壬午主品中田-村先-生*具レ之此種庚-辰ノ歳始テ本-邦ニ傳フ」と,師の田村藍水の言が記載されている.
0 件のコメント:
コメントを投稿