2012年4月11日水曜日

ショウジョウバカマ(2-2) 2つの繁殖法

Heloniopsis orientalisショウジョウバカマは繁殖に,二つの方法をとっている.庭のショウジョウバカマは主に栄養繁殖法で個体数を増やしている.

ショウジョウバカマは花の咲いた後も花被はそのまま残り,色が緑色になるとともに,花茎はぐんぐんと伸び,60~80㌢ほどになる.花被の中央に位置するさく果が裂開すると無数の糸くずのような種子があらわれ,微細な種子は風によって周囲へと四散していく.花茎を伸ばすのは,付いた種をなるべく遠くに飛ばすための作戦と考えられている.1個体あたりに生産される種子数は2000~3000個以上にもおよぶ.種子はその年の秋と翌年の春に発芽するが,実生の生残率はきわめて低く,秋まで生き残る個体はきわめてまれだそうだ.


一方,越冬が終わった時点では,ショウジョウバカマは2年分の常緑葉をつけている.最下層には前々年の春に形成された数枚の2年葉,そしてその上層に前年の春に形成された数枚の1年葉がある.きびしい冬を越すために,これらの葉は耐凍性を増すための可溶性タンパクや配糖体のアントシアンが多量に蓄積されていて,濃い赤紫色となっている(上図).
また地表に接した葉の先端には小さな栄養繁殖体が形成され,根をはっている.この栄養繁殖体はやがて2年葉が脱落すると親植物から離れて独立し(右図),幼植物体として生長する.
この繁殖方法はユリ科植物としては珍しく,貝原益軒の『大和本草』 (1709) には,「シャウジャウハカマ 葉土に付き生す」と記されている.

また,飯沼慾斎の『草木図説』(1852,嘉永5年ごろ成稿)草部巻六,(牧野富太郎増補版 1912)にも,「葉凌冬テ不枯,肥大ノ者ハ,晩秋ニ至テ葉尖毎ニ一稚苗ヲ生ジ,地ニツイテヨク成長ス.」とあり,附図には(八)芽ヲ有セル葉(補)が描かれている(左図).

栄養繁殖による子株には遺伝的多様性はのぞめない.しかし,栄養繁殖で集団を維持していれば,別の遺伝子を持つ個体から,昆虫を介して受粉した種子から発芽した個体が生き残ることのできる条件にいつか遭遇し,そのときに1個体でも新しい遺伝的要素をもった個体が誕生すれば,ショウジョウバカマにとっては十分なのだろう.

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