クサノオウの名前は,皮膚病の「くさ(湿疹)」を治す薬効があるために,「くさ(瘡)の王(おう)」と呼ばれるようになったという説があるように,民間では皮膚病の治療に用いられ,地方によってはタムシグサ,イボクサ,チドメグサ,ヒゼングサ(皮癬草)などと呼ばれる.一方本草では5~7月の開花時に地上部を刈り取り,通風のよい所で乾燥したものを白屈菜(はっくつさい,Chelidonii Herba)といい,鎮痛,鎮咳,利尿,解毒薬とし,胃の疼痛,胃潰瘍,肝臓病,黄疸,水腫,百日咳,気管支炎などに用いる(1日2-6g,煎用).また,新鮮葉の液汁を外用して,はれもの,いぼ,虫や蛇による咬傷などに用いる.
成分としてはケリドニン(右図),プロトピン,ケレリトリンなどのアルカロイドが数多く知られていて,薬理実験でケリドニンは各種平滑筋に弛緩作用と弱い血圧降下作用があり,中枢神経は抑制する.これらのアルカロイドにはいずれも毒性があり,多量に服用しすぎると昏睡を起こし,血管運動中枢が麻痺したり,強い腹痛を起こすので,民間での内服は絶対に避けるべきである. 上図右:長塩某製『礫川(小石川)官園薬草腊葉』(1813),上図左:泉本儀左衛門著『本草要正』(1862).
また,クサノオウの種は,スミレなどと同様にエライオソーム(カルンタラ,種阜(しゆふ),種枕(しゅちん),種冠(しゆかん)ともよばれ,珠柄・胎座などの一部が変化したものといわれる)と呼ばれるやわらかい多肉質の付属物をもち(左図),この付属物を好むアリを利用して種子を散布する.田中真一氏(1923,植物研究雑誌第 3 巻 1 号)はキケマン,クサノオウの 2 種子を新聞紙上に乾かしておいたところ,しばらくして無数のアリが集まってきて,各自 1 個ずつ種子をくわえ,四方八方に運んで行くのを見た.クサノオウの種子を運んだのはトビイロケアリ,キケマンの方はタロクマアリで,アリはこれらの種子をいちどは自分の巣の中に運びこむが,やがて種子だけを外に運びだした。つまりアリは巣の中で種冠だけを食い,あるいは貯えたのち,種子を廃物として外にすてるらしいのである。キケマン,クサノオウなどのいやなにおいはアリに好まれるらしいとも書いている。
クサノオウが岩塊の間や石垣の隙間によくはえるのは,種子がアリに運ばれたからであろう.こうした「アリ散布植物」は日本ではクサノオウ,スミレの他,カタクリ,エンレイソウ,カンアオイ,ホトケノザ,スズメノヤリ,ニリンソウ,フクジュソウ,エンゴサク,ムラサキケマン,ヤマブキソウ,イカリソウなど,さまざまな科にわたって 200 種以上が知られているそうだ.
ローマ時代のプレニウスや英国古本草書でのクサノオウの記載は,クサノオウ(3/3).
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