2008年7月 岩手県小岩井農場 |
山地の湿った草地や湿原などに自生する高さ50㌢~100㌢の多年草.披針形の葉は互生で無柄(種小名の由来).群生し,美しい瑠璃色の花は人目を引くが,他のキキョウ類とは花形が全く異なり,上下2唇に分かれ,上唇は2裂し,下唇は3裂する.
他のキキョウ科の植物と同様,茎を切ると白い乳液をだす.有毒植物としてもよく知られているが,調べても人での中毒の実例は見つけられなかった.全草に「ロベリン」という有毒アルカロイドを含むことは,前出の Cardinal Flower や Great Blue Lobelia と同様.
磯野慶大教授の初見は 1542年の『池坊専応口伝』で,カンギクやフジナデシコと共に出ているので,この時点ではキキョウの仲間と認識されていた.どのような根拠からか,興味がある.
伊藤伊兵衛『花壇地錦抄』 (1695)「巻四,五 草花 夏之部,桔梗(きけう)類」に、「澤きけう(秋初中末)きけうといへとも花形各別也。るり色成ちいさき花葉の間ニひしとさく」とキキョウとはいえ,花の形が異なるとあり,栽培されていたことがうかがわれる.
寺島良安『和漢三才図会』(1713頃) 「湿草類」に「沢桔梗(さはききやう) 俗称〔本名は未詳〕貝原益軒『大和本草』諸品図上 |
貝原益軒『大和本草』 (1709) の「巻乃七花草類」には
「澤桔梗 茎大ニテ葉シゲク巻丹ノ葉ノ茎ニ付ルガ如シ.花ハ桔梗ニ似テ淡碧色桔梗ヨリ小也水辺ニ生ス.秋花ヲ開ク根亦桔梗ノ如ク,又浮薔(ナギ)ノ花ヲモ澤桔梗ト云同名異物ナリ」とあり
更に, 「巻乃八水草類」にも「澤桔梗 葉ハ桔梗ニ似テ花碧色ナリ根白シ澤中ニ生ス浮薔(ナギ)花ヲモ澤桔梗ト俗ニ名ツク此トベツナリ」とある.
ナギとの混同にしきりに言及しているのは,ナギ(コナギ或いはミズアオイ)は食用になり,サワギキョウは有毒で,誤食で中毒が発生したからであろうか.さらに『大和本草諸品図上 (巻十九)』には,図も掲載されている(左図).
「澤桔梗 茎大ニテ葉シゲク巻丹ノ葉ノ茎ニ付ルガ如シ.花ハ桔梗ニ似テ淡碧色桔梗ヨリ小也水辺ニ生ス.秋花ヲ開ク根亦桔梗ノ如ク,又浮薔(ナギ)ノ花ヲモ澤桔梗ト云同名異物ナリ」とあり
更に, 「巻乃八水草類」にも「澤桔梗 葉ハ桔梗ニ似テ花碧色ナリ根白シ澤中ニ生ス浮薔(ナギ)花ヲモ澤桔梗ト俗ニ名ツク此トベツナリ」とある.
ナギとの混同にしきりに言及しているのは,ナギ(コナギ或いはミズアオイ)は食用になり,サワギキョウは有毒で,誤食で中毒が発生したからであろうか.さらに『大和本草諸品図上 (巻十九)』には,図も掲載されている(左図).
△按ずるに、沢桔梗は高さ二尺に近く、秦は山丹草(ひめゆり)の葉に似て短かく、
三、四月、葉の間に花を開く、形は桔梗に似て小さく紫色、頗る水葵の花に似て浅水の中にも亦た生ず、多くは湿地に生ず。(水葵は水草の部に出づ)
△思うに、沢桔梗は高さ二尺ぐらい。葉は山丹草(ひめゆり)の葉に似ているが短く、三、四月に葉の間に花を開く。形は桔梗に似ているが小さく紫色、非常に水葵(みずあおい)の花に似ていて、浅水の中にも生える。多くは湿地に生える。」とここでは花の形はキキョウに似ているとある(右図).
カール・ツンベルク『日本植物誌』(Flora Iaponica)(1784)には,Lobelia erinus と L. erinoides の二種の Loberia 属の植物が記載されている.前者は現在よく花壇のボーダーに用いられているルリミゾカクシの学名であるが,当時はまだ移入されていなかったので,ミゾカクシの誤認かと思われる.
一方後者は,実際に彼が採取したサクヨウによって実際はヒナギキョウであることが確認されている(田中長三郎, 九州帝國大學農學部學藝雜誌 (1925) 1(4), p191-209 『二三の THUNBERG 植物に就て』).従って,ツンベルクはサワギキョウを見なかったと思われる.
一方後者は,実際に彼が採取したサクヨウによって実際はヒナギキョウであることが確認されている(田中長三郎, 九州帝國大學農學部學藝雜誌 (1925) 1(4), p191-209 『二三の THUNBERG 植物に就て』).従って,ツンベルクはサワギキョウを見なかったと思われる.
現在でも有効な学名 L. sessilifolia をつけたのは,英国の植物学者 Aylmer Bourke Lambert (1761-1842).彼はドイツの動物学者・植物学者でロシアで働いたペーター・ジーモン・パラス (Peter Simon Pallas, 1741 – 1811) が,ロシアで購入して持ち帰った多量の植物標本を研究し,カムチャッカ原産のサワギキョウに Lobelia sessilifolia (葉が茎に直接ついた)の学名をつけ,Trans. Linn. Soc. London 10(2): p260 (1811) に図と共に発表した(右図).
一方,伊勢の医師・本草学者の鎌井松石 (1812-1890) の『北勢三重全郡採藥之記』自筆原稿 明治二十年 (1887) には,
「○山梗菜 サハ桔梗 水澤村字足見川池澤水辺ニ多
生ス旧根ヨリ苗ヲ生シ高サ四五尺ニ至ル斷レバ白汁ヲ出ス
西書ニ曰護草
亜墨利加ニ多ク生シ
土人楳毒ノ治ニ殊効アルコトヲ貴称スル事吾國水銀ニ
於ルカ如シ因テ欧羅巴ニ試用スルニ兎角驗アルコト鮮シ」
とあり米国産のサワギキョウが現地では梅毒に効くと事で,欧州で臨床されたが,効果がなかったとの情報が記されている.(Great blue lobelia 愛の妙薬?Lobelia siphilitica)(左図 NDL)
サワギキョウ (2/2) 毒性・「悪魔の手毬唄」 お庄屋ごろしは出来ない?
一方,伊勢の医師・本草学者の鎌井松石 (1812-1890) の『北勢三重全郡採藥之記』自筆原稿 明治二十年 (1887) には,
「○山梗菜 サハ桔梗 水澤村字足見川池澤水辺ニ多
生ス旧根ヨリ苗ヲ生シ高サ四五尺ニ至ル斷レバ白汁ヲ出ス
西書ニ曰護草
亜墨利加ニ多ク生シ
土人楳毒ノ治ニ殊効アルコトヲ貴称スル事吾國水銀ニ
於ルカ如シ因テ欧羅巴ニ試用スルニ兎角驗アルコト鮮シ」
とあり米国産のサワギキョウが現地では梅毒に効くと事で,欧州で臨床されたが,効果がなかったとの情報が記されている.(Great blue lobelia 愛の妙薬?Lobelia siphilitica)(左図 NDL)
サワギキョウ (2/2) 毒性・「悪魔の手毬唄」 お庄屋ごろしは出来ない?
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