2012年9月7日金曜日

Great blue lobelia  梅毒治療薬? 愛の妙薬? 高野 長英『外科薬剤秘録』

Lobelia siphilitica
2002年8月 Seymour IN, USA
米国インディアナ州のセイモア(Seymour)のホテルから程近い農道の側の溝の中に咲いていた.Lobelia cardinalis(ベニバナサワギキョウ)に比べると花の密度は高く,花筒の長さは短い.そのため,ずんぐりむっくりの印象を受ける.また,花筒の長い L. cardinalis の花粉媒介者が主にハチドリにあるのに対して,花筒の短いこの花の花粉媒介者はハチの仲間だそうで,媒介者が異なることで交雑が避けられているのであろう.

リンネのつけた種小名 siphilitica は “syphilis (梅毒)”に由来する.なぜ,リンネがこのような不快な名前をつけたかというと,1747年にアメリカを訪れた彼の弟子の Pehr Kalm (1716 - 1779) がアメリカ先住民の間でこの植物の煎じ薬が性病の治療に用いられていると報告したからである.この発見は欧州の医師たちに大きな興奮を引き起こした.

当時の英国の北アメリカインディアン問題担当の最高責任者 (British Superintendent of Indian Affairs) であった Sir William Johnson (c. 1715 – 1774) は先住民から薬物の調整法の秘密を買い取り使用した.しかし,欧州で実地に試験したところ,そのような薬効は確認できなかった.(Alice M. Coats "Flowers and Their Histories", Adam & Charles Black, London (1956)).

Clarke, E.G. “A Conspectus of the London, Edinburgh, & Dublin Pharmacopoeias.” (1814) E.Cox and Son
p.97
Lobelia Sythilitica, radix, E. Blue Cardinal Flower. Diuretic, cathartic. It generally disagrees with the stomach, and possesses no power of curing syphilis, from which supposed virtue it took
its name. It is employed in the form of decoction,

made by boiling ?ss. of the dried root in Oxij. of 
water, to Oviij. Dose Oss. Bis, quaterve in die.

北アメリカには L. cardinalis, L. siphilitica の他にも,大型で花の目立たない L. inflate (Indian Tobacco) ,Pehr Kalm にちなんだ L. kalmii,青紫の花の L. spicata など数種のロベリア属の植物が自生しているが,その全てが先住民の間で薬草として用いられている.

ミシガン大学の “Native American Ethnobotany(アメリカ先住民民俗植物学)”の HP で,”Lobelia” をキーワードとして検索すると,83件がヒットする.チェロキー,デラウェア,イロコイ,ズニ,メスクワキなどの部族が,催吐薬を筆頭に,鎮痛剤,駆虫薬,抗リウマチ剤,風邪薬,皮膚病薬,解熱剤,消化器用薬,止血剤,肺疾患薬,性病薬など数多くの疾病に対する薬として用いていた.
興味深い薬効としては,” Love Medicine” として,媚薬・強壮薬,はては,抽出液を飲ませると愛が復活して離婚を思いとどまらせる効果があるとされている.更に,喫煙や飲酒の悪癖を是正し,また,”Witchcraft Medicine” としてかけられた呪いを解く効果などがあるとされていた.

これらの薬効をもつ植物としてロベリア属の植物は,開拓者たちの間でも薬草として高い評価を得ていた.19世紀の米国では Samuel Thomson (1769 –1843) が提唱した "Thomsonian Medicine" の中では,催吐剤として L. inflate (Indian Tobacco) が大きな地位を占めていて,需要が多く,一部の地域ではこの植物が取り尽くされたとのこと.

2017年2月6日追記
高野 長英(1804 - 1850)著の『外科薬剤秘録』(制作時期:不詳)は,外科系の疾患にかかわる強壮剤,止血剤,鎮痛剤,緩和剤など20種類の薬種に,数種の該当する薬剤を挙げてまとめた書.現在でも使われているものもが含まれている.
この書の「各性藥劑」の章「○暗然トシテ病ヲ治スル勢力アルモノ之ヲ各性ノ薬品卜云フ各病各々ノ性アリ是亦人間得テ知ル事能ハサル所ノ者ナリ然シテ藥品多クハ各々ノ性アツテ實驗ヲ経ルト雖トモ其効力ヲ知ル事能ハス予穀三共異性ノ効力及其藥劑ノ効アル病症ノミ掲示ス可シ其審説ノ如キハ第二編ニ説ク」には,梅毒に対する治療薬として「○アンチヘネリヤ 黴毒ヲ治ス諸薬中水銀尤モ其魁タルキノニシテ誤チナキ物ナリ 然トモ次ニ載スル薬品モ亦良効ヲ奏ス
○ポックホート ○金剛刺 ○セレマーチス ○ロベリヤー ○テーメリヤー」
と水銀剤以外に「○ロベリヤー」が挙げられている.本書は欧書の翻訳であるが,原本は特定されていない.

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