熱帯アメリカ原産のつる性植物.熱帯では多年草だが,温帯では冬の寒さで根まで枯れるので,一年草扱いとなる.庭では毎年こぼれ種で咲いていたが,だんだん個体数を減少させ,いまではほとんど見られなくなってしまった.細い蔓は見かけより強く,なかなか手ではちぎれない.切り口からは水滴が滴り,一種独特の匂いがする.枯れた後の蔓も強靭で,ネットからの除去も,アサガオより手間がかかる.
『草花絵前集』 NDL |
伊藤伊兵衛三之丞画・同政武編『草花絵前集』 (1699) には「○留行 花あさがほ形(なり)。図ほどの小りん、色朱(あけ)のごとし。ほそきかづらにて、葉の艶美事(つやうつくしきこと)、又花にすぐれたり。」とあり,葉と花の繊細さが高く評価されている(左図).
和漢三才図会 |
貝原益軒『花譜』(1694)には「柬蒲塞牽牛花(かんぽちやあさがほ) 子(み)をまきて生ず.日あてをこのむ.蔓はなはださかへ生ず.盆栽箱にうへて,ませを作り,かごのごとくにして蔓をはわしむ.花ひらきてはなはだ愛すべし.うへたる盆を床のほとりにをくべし.七月中の後花咲く.この草の種近世異国よりきたる.もろこしの書にていまだみず.」とあり,同人の『大和本草』(1709)「巻之七 草之三 花草類」には「蛮種 柬蒲塞牽牛花(カホチヤアサカホ) 蔓草也 寛永年中 (注 1624~1644) 長崎ニ来ル 間柬蒲塞又甘孛智ト云 真臘国(注 しんろうこく,初期のクメール人の王国,現在のカンボジア王国周辺)ナリ 葉ハ結明又豌豆ニ似テ甚細也 七八月細紅花ヲ開 形丁香ニ似愛ス可 好事ノ者盆ニウヘ籬ニ延(ハヽ)シム 根ハ當年枯ル 實ヲマクヘシ」とあり,寛永年間に東南アジアから長崎に来たこと,丁子の花のように花筒の長い花を「愛すべし」とし,また蔓を籬に絡ませて,鉢で楽しんでいる人々がいたとされている.
花彙 (NDL) |
小野蘭山『花彙』(1765)には「藤菊(トウキク) ルカウ 花史左編 葉繊線(ホソキイトスチ)ノ如クニテ青緑色 形チ架(タナ)ニ上ル●(虫+吴)蚣(ムカヘ)ノ如シ 婆々綿々トノ蔓延ス 五六月花ヲ開ク 五弁深紫色 又紅黄艸ト呼(ヨフ)モノアリ 又其千葉ナルモノヲ千壽菊(センシュキク)ト名ク 即此ノ種類ナリ」とある.図は明らかにルコウソウだが,花の色を深紫色とし,また,紅黄艸(フレンチマリーゴールド)も其の一種とするなど,うなづけない点もあるものの,葉をムカデのようだとは言いえて妙.
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