2014年3月31日月曜日

スノードロップ(10/10) リンネ,ローエン,ボアン,Reneaulme,Hulme/Hibberd, 湯浅浩史/畔柳都太郎「ユキタマソウ」

Galanthus Nivalis
1966年賀状 自作木版

スノードロップに,現在でも有効な学名,Galanthus nivalis をつけたのは,「分類学の父」といわれるカール・フォン・リンネ(Carl von Linné、1707 - 1778)で,まず,『植物の属 Genera Plantarum』(1735) p 101 で “Galanthus” と言う属名を発表し(右図上),その特長を記述した.次いで『植物の種 Species Plantarum 』(1753) の第一巻 p288 に ”Galanthus nivalis” を記載した(右図下).

Galanthus” はギリシャ語の ” gala: : gala=milk”,また “anthos : anthos =flower” に由来し花の色から,さらに “Nivalis” はラテン語の ”snowy” に由来し,雪のように白く,または雪に中で咲くことに因んで名づけられたと思われる.

『植物の種 Species Plantarum 』の記載

GALANTHUS.
nivalis.
1. Galanthus. Hort. cliff. 134. Hort. ups. 73. Roy. lugdb. 35.
Leucojum bulbosum trifolium minus. Bauh. pin. 56.
Erangelia. Reneal. spec. 97. t. 96.
Habitat ad radices Alpium Verona, Tridenti, Vienna.


引用されている “Hort. cliff.” はリンネがオランダ滞在中に研究したハーレム郊外 Hartecamp のゲオルグ・クリフォード (Georgius Clifford) 氏の大邸宅で栽培されていた植物の集大成 “Hortus Cliffortianus” (1738) で,ゲオルグ・エレットによる非常に美しい彫版の図譜とともによく知られている.
”Hort. ups” はやはり彼の著作 “Hortus Upsaliensis” (1745) でウプサラ大学の植物園で栽培されていた植物研究の著作である.
” Roy. lugdb.” はライデン植物園(Hortus botanicus Leiden)の園長アドリアーン・ファン・ローエン(Adriaan van Royen、1704 - 1779)らの著作 “Florae leydensis prodromus” (1740) である.数字は各著作の該当ページ数であり,右図に該当部分の画像を掲げる.


また,” Bauh. Pin” は,スイスの植物学者であるギャスパール・ボアン(Gaspard Bauhinまたは Caspar Bauhin、1560 - 1624)の著した『植物対照図表』(Pinax theatri botanici, sive Index in Theophrasti Dioscoridis, Plinii et Botanicorum qui a saeculo scripserunt opera;植物の劇場総覧とも,全12巻)で,その中に彼は何千もの植物を記載し,古今の名称を対照している(左図左).
さらに “Reneal. Spec” はフランスの植物学者 Paul Reneaulme, (1560-1624) のアルプス,スイス,イタリー,パリ近郊で採集した植物の書 “Specimen historiae plantarum” (1611) で, 25 ある添付図譜の一つに “ΗΡΑΓΓΛΙΑ: Erangelia” の名で,スノードロップが描かれている(上図右).

「生育地:アルプスの麓,ヴェローナ,トレント?,ウィーン」とあり,“”は元々は 錬金術で Jupiter を表すが,リンネは多年性草本を表す記号として用いた.

一方,英語の通称名の “Snowdrop” の由来ははっきりとはしていないが,drop は「雫」ではなく,その当時流行していた耳飾りに因むというのが定説らしい.
フレデリック・エドワード・ヒューム (Frederick Edward Hulme , 1841-1909) 図の 「身近な庭の花 ”Familiar garden flowers” (1907) において,解説者の James Shirley Hibberd (1825–1890) は以下のように,由来はドイツ語を経由した耳飾であり,「雪の雫 a drop of snow と言うものはこれまでも,またこれからも絶対にない」と述べている(右下図).

THE SNOWDROP.
Galanthus nivalis.
IT will appear to the casual reader that the snowdrop is regarded, in the light of its name, as "a drop of snow." The philologists often remind us that “obvious" derivations are always wrong. We may doubt if the sweeping declaration is a good one ; but the present case justifies it so far, because the snowdrop is not a drop of snow. The reader may have seen in the jewellers' shops and in the ears of some fair lady imitations of fuchsia flowers in precious stones, and called "fuchsia-drops." The word before us is an exact parallel thereto. These flowers are likened to eardrops, and they are called "white flowerdrops," and that is the proper interpretation of snowdrops. The name is from the German schneetropfen ; it implies that the flower affords a type of a class of personal adornments, and to copy it in jewellery would be in perfect taste, other matters having concurrent consideration. The Germans have schneehlnme, white winter flower, and schneeflocke, snowflake. To liken a flower to a drop of snow is not reasonable, because there is no such thing as a drop of snow, and there never will be.” 

一方,湯浅浩史(文)「花おりおり」朝日新聞2002年2月1日のスノードロップのコラムには,「明治の英文学者・畔柳都太郎(くろやなぎ くにたろう)はユキノタマと名づけた。」とある.しかし,畔柳都太郎 (1871-1923) は『文談花談』春陽堂(1907)の「文学上の水仙」の章で,和漢文学の水仙・梅に相当する英文学上の春を告げる花の一つは「普通の(スノードロップ)と云う此頃迄日本に無い花で植物学上には水仙と云はずユキノハナと云ふて通つてをります.云々」と記し,更に同書の「略解 英文学中の花」の項では「学術界の通称ユキノハナをして Snowdrop の訳語ならしめんか,余は之に換ゆるにユキタマサウの名称を以てせば,多少読者に可憐の連想を惹起せしむべき媒介とならずやと想へど,深く省察したるにあらねば,姑(しば)らく記して後日を俟つことゝせん.(以下略)」とあり,畔柳は「ユキタマサウ 雪玉草」と名づけたと思われる.


スノードロップ (9/10)  欧州本草書での名称推移,ソーントン『花の神殿』部分画像

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