2013年6月 茨城県南部 植栽 |
若い葉は虎の耳の形 |
★本草綱目(李時珍著、1590年) 草之九 石草類 (一十九種)
「虎耳草
【釋名】石荷葉(見下)。
【集解】時珍曰︰虎耳生陰濕處,人亦栽於石山上。莖高五、六寸,有細毛,一莖一葉,如荷蓋狀。人呼為石荷葉。葉大如錢,狀似初生小葵葉,及虎之耳形。夏開小花,淡紅色
【氣味】微苦、辛,寒,有小毒。 獨孤滔曰︰汁煮砂子。
【主治】瘟疫,擂酒服。生用吐利人,熟用則止吐利。又治●(月+亭)耳,搗汁滴之。痔瘡腫痛者,陰乾,燒煙桶中熏之(時珍)。」
日本においては古くから食用や民間薬として使われていたらしい.「ユキノシタ」と言う名の磯野の初見は『日葡辞書』(1603-4)
だが,確認できなかった.一方,深根輔仁撰『本草和名』(901 - 923)にも,源順『和名類聚抄』(931
- 938)にも「虎耳草」が記載されていない事は,『本草綱目』以前に渡来した『本草經集注』や『新修本草』などの漢本草書には「虎耳草」が記載されていなかったためと思われる.
★林羅山『多識編』(1612) (再版 1630、1631)では,「虎耳草 今案 登良乃美美(思うに とらのみみ)」とあるが,単なる漢語の翻訳と思われ,実際にこの名で呼ばれていたのか不明(左図,NDL).(注;八坂書房編『日本植物方言集成』八坂書房(2001)には,下総の方言として収載されている)
★中村惕斎『訓蒙圖彙(キンモウズイ)』初版巻之二十,草花(1666)には,「石荷(せきか)今按ゆきの志た 虎耳草(こじさう) 一名石荷葉(せきかえう)」とあり,虎耳草=ユキノシタが認識されていて,描かれている図も実物の写生と見えて,かなり正確・精密だ.(右図,NDL)
★『本草綱目』の和刻版での「虎耳草」への振り仮名は,「トラノミミ」(1672年版,伝,貝原益軒校,左図左),「キジンサウ」(1714年版,稲生若水校,左図右)であり,「ユキノシタ」の名前は現われていない.添付されている「虎耳草」の図は,1672年版では,全くユキノシタとは思えず,また1714年版でも,枝の途中から蔓が出ているし花の着き方も異なる(いずれもNDL).
★貝原益軒『花譜』(1694)中巻 四月 には,「虎耳草(きじんさう)葉まるく毛おほし.蔓生じて小白花を開く.倭俗,おほく園中の石上,あるひは假(つき)山にうふ.葉花共に愛すべし.しげりやすし.園史曰,はじめうふるとき,水をそゝぎ,つくたる時やむ.濕をこのむ.かはけば枯る.」
1979年5月 London Zoo |
また★同人の『大和本草』 (1709) 巻之七 草之三 園草類 には,「虎耳草(キジンサウ) 本艸石草ニ載ス 雪ノ下ト云 又キシンサウト云 其花白シテ二片アリ 他花ニ異ナリ梢ニ先一花開テ後下枝ノ衆花サク 是亦他花ニカワレリ 多クサキタルハ愛スヘシ 甚暑ヲオソル 暑ニアヒテカハケハ枯ヤスシ 日ヲ掩ヒ水ヲソソクベシ 根下ノ蔓ヨリ根ヲ生スルハ活ヤスシ 獨根ヲウフレハ枯ル 秋ウフヘシ 春ウフレハ枯ヤスシ 陰地ニウヘタルハ活ヤスシ 石ノ側ニモウフルヘシ キシン草ヲ菟葵ナリト云説アリ誤レリ」とあり,観賞用植物として高く評価して,湿気を好む性質に合わせた栽培法や,花の咲き方が他の植物と異なり「有限花序」であることを記している.
この「キジンサウ(きじんそう) 畸人草」の別名は,これ以降他の文献にも現われるが,漢本草には見えず,日本独特の漢名と思われる.漢名の「金糸草」のよみ「キンシソウ」の転訛か?
★寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)巻第九十八 石草類 には,「虎耳草(ゆきのした) 石荷葉 〔俗云 雪下(ユキノシタ)草〕
本綱、虎耳草ハ陰湿ノ処ニ生ズ。人亦タ石山ノ上ニ栽ヱテ茎ノ高サ五六寸、細カナル毛有リ。一茎一葉、荷蓋ノ状ノ如ク、葉ノ大イサ銭ノ状ノ如ク、初生ハ小葵ノ葉及ビ虎ノ耳ノ形ニ似タリ。夏ニ小花ヲ開ク、淡紅色ナリ。
葉(微苦、辛、寒、小毒有リ) 温疫ヲ治スルニ擂キテ酒ニテ服ス。(生ニテ用ウレバ人ヲシテ吐利セシム。熟用シテ吐利ヲ止ム) 痔瘡、腫痛ヲ治スルニ陰乾シニシ烟ニ焼キ、桶ノ中ニテ之レヲ熏ズ。●(月+亭)耳(タレミミ)ヲ治スルニ汁ヲ擣キテ之レヲ滴グ。
△按ズルニ、虎耳草ハ、葉ハ地ニ布キ生ズ。其ノ花白ク淡紅ヲ帯ビテ、微カニ秋海棠ノ態ニ似タリ。子ヲ結ブ。其ノ葉ヲ採リテ黒ク焼キ、油ニ和シテ小児ノ頭瘡ニ傳クニ良シト為ス。」(右図)と,ほぼ『本草綱目』の【集解】と【主治】をそのまま写すが,「△按ズルニ」以下に花がシュウカイドウに似ている事,当時の民間薬としての薬効等の,良安の知見が追加されている.
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