2014年5月24日土曜日

ユキノシタ (2/5) 絵本野山草,備荒草木図,本草綱目啓蒙,物品識名,梅園草木花譜,本草図譜,薬品手引草,草木図説

Saxifraga stolonifera (Syn. S. sarmentosa)
幸野楳嶺(こうの・ばいれい)『草花百種』(1903) 芸艸堂刊,多色木版

★橘保国『絵本野山草』(1755)には,「ゆきの下 一名 石荷(せきか), 又虎耳(こじ)草といふ
花,三月咲.真ん中より蕨のごとく出て,花形,雪のごとし.葩(はなびら)三枚は小さく,二枚は大にして長し.花色.白.葉の形丸く,雪輪のもやうのごとくにして,あつし.葉のうら,若葉は本紅,古はは薄紅也.表に薄白き筋有.根下より長き蔓出て,先に,めがい生ず.地に根ををろす.」と,花のつくりや葉の模様,繁殖法など,よく観察されていて,簡明にして詳しい(左図,NDL).

『備荒草木図』 NDL
★建部清庵『備荒草木図* 巻之下』(1771成,1833刊)には,「虎耳草 はをゆで、ミづにひたし、しほまたハミそ・しやうゆとゝのへ、くらふべし
葉を煠、水に浸し、塩またハ味噌・醤油に調、食べし。」と,飢饉時の調理法が紹介されている(右図).
* 明和8 (1771) 年に『民間備荒録』と対になる書物として建部清庵によって草稿が書かれたが、果たせないまま世を去ったため清庵の死後、杉田玄白の次男杉田立卿により天保4年(1833)に刊行された。(明和8年刊行の『民間備荒録』の巻末には、「『備荒録草木図』一冊 未刻」と予告されている。)『民間備荒録』が理論的な書として書かれているのに対し、この書では実践の書として多くの人が読めるよう全体にわたって振り仮名がつけられている。内容は、104種の植物をとりあげ、実際の植物と見分けがつけられるよう詳細な図のもとに名称と可食部、調理方法を簡単に記述する。)

★小野蘭山『本草綱目啓蒙』 巻之十六 草之九 石草類  (1803-1806)には,「虎耳草 ユキノシタ キジンサウ筑前 イドバス泉州 キンギンサウ石州 イハカゾラ上野 イハブキ越前 〔一名〕金糸荷葉(汝南圃史)(中略)
梅園草木花譜 NDL
山谷陰湿石上ニ生ズ。又市中ニモ多ク栽、甚繁茂シ易シ。葉ハ円扁ニシテ●(虫+解)殻ノ如シ。周辺ニ浅岐アリ、質厚ク面深緑ニシテ紫色ヲ間へ、紋脉白色ニシテ紫毛アリ。背ハ毛ナクシテ淡紫色。一根ニ数葉布生ス。夏月、茎ヲ抽ルコト長サ一尺許、紫色多シ。花多ク穂ヲナス。其形白色ノ二長弁下垂シ、二ツノ短小弁上ニ並ビテ品字ヲナス。粉紅色ニシテ紅点アリ。一種粉紅花ノ者アリ。甚稀ナリ。共ニ根上ニ細紅線ヲ出シ、四辺ニ引コト甚長シ。処処ニ小葉ヲ生ジ、後鬚根ヲ出シ、分レテ数窠トナル。(以下 ハルユキノシタ等の類品の記述 略)」と,性状や花や葉の形状,特に花のつくりに詳しい説明が載っている.

★岡林清達・水谷豊文『物品識名(1809 )には「ユキノシタ 虎耳草 金絲荷葉 汝南圃史」とある.

★毛利梅園(1798 1851)『梅園草木花譜』夏之部 一(1825 序,図 1820 – 1849)には,
「綿●(糸+系)艸(ユキノシタ)蔵記 又 虎耳草ハ ユキモヨウ 別種
増補多識編石草類ニ曰 虎耳草 和名 今按ニ 土羅乃美美(トラノミミ) 増補異名 石荷葉(セキカヨウ) 和漢三才図会石草類曰 虎耳草(ユキノシタ) 石荷葉 俗云 雪下莫(ユキノシタ)」と美しい写生図と共にある(左上図, NDL).

★岩崎灌園(17861842)『本草図譜』巻之三十六 石草類 (刊行1828-1844) には,「虎耳草(こじさう) ゆきのした きじんさう
人家庭際に多く栽う 葉ハ円くして浅き鋸歯あり 茎葉共に紅色 又紅色の毛茸阿り 夏月茎を抽て花あり 白色三辧ハ小く二辧ハ大なり 後三尖ある蒴を結ぶ 根の傍紅色の長鬚を生じ末地に落つ 根を貼して苗を生ず」と,果実の記述もある(右図 NDL).

★加地井高茂 []薬品手引草』下ノ七(1843) には,「虎耳(コジ)草 ゆきのした」とある.

★飯沼慾斎『草木図説前編(草部)』巻之八(成稿 1852年ごろ)には,「ユキノシタ 虎耳草
草状啓蒙詳之衆亦通知.故ニ略之.萼披針上ノ五辧.ソノ二辧ハ長大ニシテ白色.三辧ハ短小ニシテ本ニクリコミアリ.白色ニシテ紅暈四ノ紅点(正しくは,黙の犬の代わりに占)二ノ黄点アリ.子室柯子状ニ顆並位シ.●(里+頁)柱ヲナシ●(里+頁)絻ニ開反.雄蕊十二ニシテ葯淡紅色.綻テ白粉ヲ吐ク.ソノ大辧間ニアル一茎ハ.徴扁大ナルモノ多シ.子室ノ前面ニ黄色帯緑色ノ蜜鱗アツテソノ本ヲ被ヒ.後面ハ然ラズシテ子室直ニ可見」 附全花郭大圖
按ユキノシタ.大文字サウノ類ミナ サキシフラガ ノ属ニ不外レトモ.未得的當種名」と,花や果実のつくりの記述はより詳しくなり,属名はリンネが命名したラテン名を正しく当てている(左図, NDL).

非常に身近にある植物なので,その性状・形状の記録は詳細である.薬効について本草綱目や和漢三才図会以上の記述は調べられなかったが,特に耳の疾患へは有効と考えられていたらしく,多くの方言(地方名)がそれを示す(次記事).

ユキノシタ (3/5) 耳の疾患への薬効伝承,方言,畸人草,キジンソウ

ユキノシタ(1/5) 本草綱目,丹方鑑源,多識編,訓蒙圖彙,和刻 本草綱目,花譜,大和本草,和漢三才図会



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