2014年7月1日火曜日

コオニユリ(1/2) 大和本草,梅園画譜,シマユリ,本草綱目啓蒙,細葉ノ巻丹,本草図譜,スゲユリ,草木図説,大花卷丹

Lilium pseudotigrinum
2014年6月 茨城県南部
 庭では今二株のコオニユリが咲いている.一株は今年の正月料理の余り物の百合根から,もう一株は近くのホームセンターでテッポウユリとして売られていた球根の一つから成長した.最初は細い葉が密生して茎から出ている様子から,タカサゴユリが出てきたのかと思ってしまった.

最も分布の広いユリとして知られ,奄美大島から北海道の,海辺から山地草原に自生する.花はオニユリによく似ているが,葉は別名の「スゲユリ」が示すように,オニユリより細く,スリムなスタイル.茎に紫色の斑点がないのもその印象を深める.
一番大きな違いはオニユリは三倍体が普通で,種子は作れず,葉腋に作ったムカゴで繁殖するが,コオニユリはムカゴを作らず,種で繁殖する.食用とする「百合根」のなかでは最も苦味が少ないので,食用としては最適で,商品として販売されているのは,殆んどがコオニユリの鱗茎である.

コオニユリの記述は古い本草書・博物書にはあまり見出せなかった.

  貝原益軒『大和本草 諸品図 上(巻十九)草類』(1709) には,
島巻丹(シマユリ)
葉小花亦小
蓋巻丹之小者
一類異品ト為」
と,花のない状況と思われる図があり,「巻丹 オニユリ」の一種で,葉も花も小さいものと記述されているので,しまゆり=コオニユリと考えられる.(左図,NDL)

毛利元寿『梅園画譜 夏之部四』(春之部巻一序文 1825)(図 1820 – 1849)には,ムカゴが無いことからコオニユリと考えられる美しいユリの図が掲げられ,
「大和本草曰 島巻丹(シマユリ) シムラユリ?
此者武州野新田多 其葉小花亦小 蓋巻丹之小者 甚能相似 此為一類 巻丹異種」
と,採集された地の名称を記載し,『大和本草』を引用している.(右図,NDL)

★小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1803-1806) の「巻之二十三 菜之二 柔滑類 百合」の項に「今菜店ニ貯ルモノハ皆巻丹根ナリ。味苦シ。今ハ細葉ノ巻丹ヲ種テ売。味苦カラズ。」とあり,この時代には,コオニユリ(細葉のオニユリ)が食用として栽培・販売されていたことが分かる.

★岩崎灌園(17861842)『本草図譜 巻之四十八 菜部柔滑類四』(刊行1828-1844) の「百合(ひゃくごう)」の項には
「一種
すげゆり
越中富山に産
形状巻丹に
似て葉細きこと
羅漢松マキの如
し花ハ巻丹に
似て細し」(左図,NDL)
とあり,「スゲユリ」の名とともに,葉や花がオニユリに比して細いことを記しているが,ムカゴの有無については考察していない.

★飯沼慾斎『草木図説前編(草部)巻之五』(成稿 1852年ごろ,出版 1856年から62年)においては,コオニユリの名称が用いられ,ムカゴ(珠根)を付けない相違点についても言及されている.
コオニユリ 巻丹一種
往往山中ニ自生ス.オニユリヨリ小ニシテ.茎高三四尺紫点ナク.葉狭ク柳葉ノ如クシテ密邇撒布シ.梢上分叉花ヲ著クコトオニユリノ如ク.形色亦同フシテ稍小.辧内ノ点オニユリヨリ細ニシテ多ク.葉腋珠根ヲ生セズ.根苦味少シ.故ニ食用トスルニ佳ナリ.
按林氏第四種ニ挙ル「リリウム・カルセドニユム」羅「ローデ・クリュルーレリト」蘭ノ形状恰モ本条ニ合ス.宜就他書較考」(右図,NDL)

東アジアからユーラシア大陸に分布していて,中国での名は「大花卷丹」,「卷丹」とはオニユリのこと.日本ではオニユリより花は小さいとされているが,中国ではコオニユリの花の方が大きいのであろうか.日本と異なり食用としては認識されていないようだ.

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