2010年8月17日火曜日

ミント

Mentha sp.
23 Woe unto you, scribes and Pharisees, hypocrites! for ye tithe mint and anise and cummin, and have left undone the weightier matters of the law, justice, and mercy, and faith: but these ye ought to have done, and not to have left the other undone. (Matthew XXIII)

‘mint’ の名は L menthe のなまりで,ローマ神話の妖精 Minthe に由来する.Minthe は地獄の河神 Cocytus の娘で,Pluto に愛されたのでその妻 Proserpine のねたみを買って,この草に変えられた.水辺に好んで生えるのも,もとは河神の娘だったからだという.

この草が野菜・薬草として古来高く評価されていたことは,パリサイ人が十分の一税(tithe)として mint,anise(アニス),cumin(ヒメウイキョウ)を納めていた(マタイによる福音書,XXIII,23)ことからも察せられよう.
「偽善な律法学者,パリサイ人たちよ.あなたがたは,わざわいである.はっか,いのんど,クミンなどの薬味の十分の一を宮に納めておりながら,律法の中で最も重要な正義・慈悲・誠実はないがしろにしている.これこそ行うべきことである.もとより、十分の一の献げ物も無視してはならないが.」

ローマ人もこれを盛んに用い,Plinyは,mintの香りをかげば頭がすっきりし,肉がむしょうに食べたくなると言っている.また,Ovid:Met- Amorphoses VIII, 631によれば,PhilemonとBaucisのふたりは,旅びとに身をやつしたJupiterとMercuryに食をふるまう前に,食卓を青いmintの汁で清めたという.この草はミルクの凝固・酸化を防ぐといい,したがって胃によいとされていた.
イギリスへはローマ人が伝えたものらしく,既に9世紀の尼僧院でも栽培していて,中世紀の植物誌でmintに触れていないものはないという.(英米文学植物民俗誌 加藤憲市著より 一部改変)

地植えにしてはいけないハーブのNo.1.以前頂いたミントを地植えにし,退治するのに数年かかった.今年もアップルミントを家内が買ってきたので,絶対庭に植えてはいけない,といって,鉢に植えさせたが,実際は使いもしない.
この花はもう数年,プランターの中で生育しているミントの花.種類は不明.

2010年8月15日日曜日

アサガオ(3)曜白梅咲き

Ipomoea nil (3)
1695 年の伊藤伊兵衛『花壇地錦抄』では白,赤,浅黄,るりと花色の違いで分類していたが,約 100 年後の小野蘭山 『本草綱目啓蒙』 (1803 - 1806年) 巻之十四上 草之七 蔓草類には

牽牛子 アサガホ ケニゴシ 仮君子 三日草
古、アサガホト云ハ木槿ナリ。故ニ万葉集秋七種哥ニ、アサガホトイフハ牽牛ニアラズ。牽牛ハ人家二多クウユ。花青碧色ノモノヲ黒丑卜云、マタ黒牽牛トモイフ。又白色ノモノヲ白丑ト云、マタ白牽牛ト云ナリ。葉ノ形ミナ三尖ニシテ互生シ微毛アリ。
品類尤多シ。花鼓子(チャルメラ)ノ形ヲナシテ五尖アルキノハ尋常ノモノナリ。又五弁筒マデキレクル者アリ。又花頭五尖ナルモノヲ桔梗ザキトイフ。葉モ亦五尖ナリ。其円弁ナルモノヲ梅ザキト云。尋常ノ花ノ形ニシテ中二小弁アルモノヲ孔雀トイフ。
紫アリ、淡紫アリ、紅アリ、浅紅アリ、間色ナルキノアリ。碧白相間ルモノヲ黒白江南花ト云、俗ニ、マツヤマアサガホト云。又藍色ニシテ紅点ナルモノアリ、又千葉ニシテ間色ナルモノアリ。弁多シテ重シ。故ニ正開スルトキハ茎自ラ折テ実ヲ結ビガクシ。

と,薬用の観点からの黒牽牛及び白牽牛の区別のほかに,桔梗咲き,梅咲き,孔雀咲き(二重?),八重咲きなどの咲き方や,花色の変化が多数あることを記しており,100年の間に観賞用の園芸種として改良が相当進んだことが伺える.
画像のアサガオは,その中の曜白梅咲きに当たるか.

2010年8月13日金曜日

ニホンカナヘビ

Takydromus tachydromoidesキジバトに続いて,仲の良いご夫婦の画像を.
日本固有種の爬虫類.鼻先から尾の先端までの全長は20cm程度.尾は全体の2/3を占め,体のほとんどが尻尾の感じ.トカゲと同様,捕まりそうになると尾を自切することがあり,その後尾は再生するが,再生した尾には骨がないので,完全な再生ではない.鱗には光沢がなく,表面はザラザラして乾いた感じに見える.背面は灰褐色 - 褐色で腹面は黄白色 - 黄褐色.側面には二本の黒褐色の帯があり,この2本の帯の間は黄白色の帯となっている.

古くはトカゲの一種と思われ,和漢三才図会では「蜥蜴」,本草綱目啓蒙では「石竜子」の項にトカゲと共に記述されている.
シーボルトの「日本動物誌『Fauna Japonica』(1833 -1850)」の爬虫・両生類(1842~1844)の分冊でヘルマン・シュレーゲルが新種として学名をつけた(『Fauna Japonica』のニホンカナヘビの原記載文(101頁)--京都大学電子図書館).テキストにはシーボルトが,長崎近辺にも棲息し,「シジムシ」と呼ばれていると水谷助六から聞いたと記されている.日本動物誌のニホンカナヘビの画像も
京都大学電子図書館で見ることが出来る(http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/b03/image/01/b03s0310.html).

最近,庭での棲息数が増加.春浅いうちは,日のあたる敷石の上で体を伸ばし,動きは鈍いが,温度が高くなると活動が活発となる.この画像を撮った時は夢中なのか,かなり近づいて写真を撮っても動きもしなかった.最近現れたこのご夫婦の子供たちかも知れない若い個体は痩せ型でスマート.増えて害虫を食べてくれることを期待している.

2010年8月12日木曜日

エビスグサ 杜甫,決明,視力を回復させる薬

Senna obtusifolia

雨中百草秋爛死 階下決明顏色鮮
著葉滿枝翠羽蓋 開花無數黃金錢
涼風蕭蕭吹汝急 恐汝後時難獨立
堂上書生空白頭 臨風三嗅馨香泣

秋雨嘆三首 (一) 杜甫(712- 770年)
In autumn rain, the grasses rot and die, / Below the steps, the Chinese Senna's colour is fresh.
Full green leaves cover the stems like feathers, / And countless flowers bloom like golden coins.
The cold wind, moaning, blows against you fiercely, / I fear that soon you'll find it hard to stand.
Upstairs the scholar lets down his white hair, / He faces the wind, breathes the fragrance, and weeps.

降りつづくながあめの中で、草という草はこの秋に当たってくさって枯れてしまったが、階の下の決明だけが黄色い色もあざやかに咲いている。
その葉は枝にいっぱいついて、翠羽(カワセミの羽)の車蓋のようだし,その花は無数で、まるで金の銭のようだ。
今やうすら寒い風が粛々としてしきりにお前を吹いている。恐らくはお前が、時におくれてやっと咲き出しても、いまさら独り立ってゆくことはむつかしいであろう。
いたずらに白頭となって来ているこの堂上の老書生は、風に向かって、いくどもお前のかおりを嗅ぎながら泪を流すのである。(目加田誠)

中国名は決明.熱帯地方に広く分布しているジャケツイバラ科の小草本.日本では一年草として扱う.草丈は1m以上になり,葉は互生し,5-6枚の小葉からなる羽状複葉である.茎や葉をつぶすと,不快臭がある.花は葉腋に一輪か二輪ずつ咲き,いびつな5弁花で,10本ある雄しべも不揃い.

3世紀頃に編纂された「傷寒論」や「金櫃要略」には見られないが,種子を漢方では決明子(けつめいし)といい.唐以降よく用いられるようになる.「決明子」とは,「眼をすっきりさせるタネ」という意味で,石決明(せっけつめい,アワビの貝殻)とともに,視力を回復させる薬として用いられてきた.

《本草綱目》「此馬蹄決明也,以明目之功而名,又有草決明、石決明皆同功者。草決明即青葙子,陶氏所謂萋蒿是也。」

陶弘景《本草經集注》稱「決明,葉如茳芒,子形似馬蹄,呼為馬蹄決明……又別有草決明,是萋蒿子,在下品中也。」

而草決明在《本經》中有記載,又稱牛尾花子、狗尾巴子。《本草綱目》中有「青葙子治眼,與決明子、莧實同功」的明述。


また,一方,便秘や排尿障害・高脂血症・高血圧などの生活習慣病の予防や改善に効果があるとされ,健康茶の一つとしてそのままあるいは,どくだみ・はとむぎなどと混合して売られていることもある.日本では,炒ったものを,お茶のようにお湯を注ぎ,少し蒸らした後,かすをこして飲む.中国や韓国では,生のものを煎じてのむ.少々不快な青臭いにおいと,苦みやえぐみがある.

本来「ハブ茶」というのは,同属の植物ハブソウの種子を用いるべきだが,現在利用されているのは,すべてエビスグサの方である.
(左:大和本草巻之十九「大和本草諸品図上」より)

2010年8月11日水曜日

キジバト (1/3) 仲のよいご夫婦,ツチクレバト,大和本草,和漢三才図会,病人食

Streptopelia orientalis草花ばかり植えていた時はスズメぐらいしか,庭に来る鳥はいなかったが,サクラやモモが大きくなると,いろんな種類の鳥がやって来るようになった.ジョウビタキ・コゲラ・シジュウカラ・オナガ・ムクドリ・ヒヨドリ.

今回はご夫婦でやってきたキジバト.庭にはアサザを植えている水槽もあるので,良く水浴びをしている.この庭は,彼らにとって「無農薬の食事つき温泉宿」の様なものか.

全長約33cm.体色は雌雄同色で茶褐色から紫灰色.翼に,黒と赤褐色の鱗状の模様があるのが特徴.英名(Oriental Turtle-dove)のTurtle(亀)はこの鱗状の斑紋に由来する.また頚部側面に青と白の横縞模様がある.和名はキジの雌に体色が似ていることが由来とされる.

古くはツチクレバトと呼ばれ,オスは晴れを呼び,メスは雨を呼ぶとか,巣作りが下手で(これは確か),カササギの巣に仮住まいする,など俗信も多く伝わる.また,肉は美味で栄養に富み,特に病人食として高く評価されていた(左:大和本草,右:和漢三才図会).

そのためか,かつては山地に生息し,めったに人前に姿を現さなかったが,1960年代に都市部での銃猟が制限されるようになってからあまり人間を恐れなくなり,1970年代には街路樹や建造物でも営巣するようになった.このご夫婦はお隣のハクモクレンの木に家庭を持っているらしい.

2010年8月8日日曜日

シロバナミヤマタムラソウ~ これ何?3

Salvia lutescens var. crenata f. leucantha「oNLINE 植物アルバム」の~ これ何?掲示板 ~に相談することで,5年越しの疑問に決着がついた.
今年7月の観察会で群馬県の高地の林下に見た白い花をつけたシソ科の植物.指導者は雄しべが突き出していることから「ナツノタムラソウ」と同定した.5年前に栃木県の高地で同じ花を見ていて,その際も同じ指導者から「ナツノタムラソウ」といわれた.しかし,その後図鑑を調べたら「ナツノタムラソウ」は濃い紫色の花をつけるとされていたので,白い花をつけるのは地域的あるいは個体的変種かと思いつつも,釈然としなかった.
しかし,今回地域的に離れた場所でも同じ花を見たので,薄紫色の花をつけるとされるケナツノタムラソウを候補として,掲示板に全体像と部分像をUPしてご意見を伺った.

その結果,setton8 さんから,以下のコメントとシロバナミヤマタムラソウの画像が掲載されているサイトを教えてもらった.
“シソ科のミヤマタムラソウ=ケナツノタムラソウ(Salvia lutescens var. crenata)のように思います。理由は、ご覧になった場所(分布している場所)や、雄しべが少し湾曲してつき出しているように思えること(ナツノタムラソウはほぼまっすぐです。ただ、これは微妙な印象になるかと思います)等からです。
なお、ご投稿の花色は白でしょうか。もしそうなら、白い花のミヤマタムラソウということで、シロバナミヤマタムラソウ(=Salvia lutescens var. crenata f. leucantha) というのがあるようです。“

指摘された通りの特徴を持っており,サイトの画像とも一致するので,シロバナミヤマタムラソウと同定でき,5年越しの疑問が解消した.この掲示板でコメントくださる方々はそれぞれの植物に詳しく,なお分布範囲から種を絞ることが出来るように広い知識を持っておられるので,非常に頼りになる.これからも図鑑だけでは解決できない問題は相談しよう.


図書館から借りてきた,東洋文庫の小野蘭山著「本草綱目啓蒙」(1803 - 1806)を見ていたら,鼠尾草の名前でハル・ナツ・アキノタムラソウの3種が記載されていて驚いた.引用すると
「鼠尾草
タムラサウ(種樹家ニテタムラサウト呼モノハ玉ババキノコトニシテコレト別ナリ)メクログサ加州〔一名〕鼠菊(救荒本草)陵翹(証類本草)鼠尾子(類書纂要)
春夏秋ノ三品アリ。秋ノタムラサウハ、山野二多ク生ズ。冬ヲ経テ枯ズ。脚葉ハ地二就テ叢生ス。霜雪ノ時ハ背紫色、暖ニ向へバ緑色二変ズ。菓ハ五葉(末三葉ニシテ本ニ二葉対ス)ニシテ鋸歯アリ。又七葉(末三葉ニシテ本ニ両対二節)ニモナル。又枝ヲ分テ小升麻(アカセウマ)ノ葉ニ似タルモアリ。春以後漸ク方茎ヲ抽コト七八寸、葉対生ス。梢葉ハ三葉或ハ二葉ニモナル。コノ草変葉多シ。八月長穂ヲナシ、花ヲ開。ヤマハツカノ花二似テ、淡紫色。又白花ノモノアリ。皆六七蕚一節ニ連リ、層層尺余ニ至ル。一種夏ノタムラサウアリ。形状同ジ。山ノ幽谷二生ズ。五六月二花アリ、形大ニシテ深紫色、愛スベシ。又春ノタムラサウアリ。苗葉花穂、共二小ク、茎葉トモニ青シ。春末、花ヲ開ク。白色ニシテ至テ小シ。以上三種通ジテ鼠尾草ナレドモ、秋ノ田村草極メテ多ク、集解ノ説ニモヨク符ス。古来誤テソハギヲ以テ鼠尾草トス。今薬肆モ亦然リ。故ニ和ノ方書ニ鼠尾草トアルハ、ミソハギヲ用べシ。唐山ノ書二鼠尾草トアルハ、秋ノタムラサウヲ用べシ。ミソハギハ救荒本草ノ千屈菜。」

2010年8月7日土曜日

オオヤマサギソウ ~ これ何?-2

Platanthera sachalinensis 地域の自然友の会の観察会で訪れた群馬県内の湿原.常日頃見ることの出来ない高層湿原の花を色々と見ることが出来て満足だったが,スケールとしては尾瀬や池の平に比べるとかなり小さい.その中で木の下のやや暗い水溜りに数本群生していた,高さ20cmほどのラン.ツレサギソウの仲間だとは思うのだが,分からず~ これ何?掲示板 ~に画像と共に質問(湿原のツレサギソウの仲間 No.2112).


早速,大場さん,buntarouさん,蘭に詳しいあいらん童さんからコメントがあり,「唇弁が後方に反り返り、長さが短いこと。距が横に出ていること。花が小さく密にたくさんつくことと、光沢が強いという葉の質にも特徴がある、ツレサギソウ属の中では特徴的なもの」なので画像だけからでもオオヤマサギソウと同定してかまわないとの事.


Netでみたツレサギソウの仲間の他の花では,これらの特徴をかね備えているものはなく,オオヤマサギソウと確定した.ついでにoNLINE植物アルバムのオオヤマサギソウに画像を登録した.
この掲示板と詳しい方々の親切なご教授がなければ,未だに画像との類似性でのみで,ああだこうだと,うろうろし,しかも間違っていた可能性が高い.


おまけはその湿原近くの山道に咲いていたエゾアジサイの花.ヤマアジサイの変種だそうだが,碧い装飾花の色が美しい.

2010年8月6日金曜日

フイリフモトスミレ(実)~これ何?-1

Viola sieboldii f. variegata芭蕉の奥の細道をたどるバス旅行で訪れた日光の古刹.参道の鬱蒼たる杉木立の下の苔の中に埋まるように生えていた,はじめてみる草本.長径3cmほどの葉にはシクラメンの葉のような白い斑が葉脈にそって入っていた.花は咲いていなかったが,蕾とも実ともとれるものを先端にうつむいてつける茎が中心に立っていた.
葉の斑の模様と,茎の先に蕾が付いているとするとイチヤクソウの仲間か,しかし,葉に光沢が無く,毛が多い.葉だけ見るとカンアオイの仲間か?でもこれらの仲間の花は地面近くに咲いて,花茎は伸ばさない.

図鑑をひっくり返しても該当するものが見つからない.こんな時は人に訊くのが一番ということで,画像をあるサイトの掲示板に送ってみた.管理者からは,葉の模様の入り方からジンヨウイチヤクソウであろうとの返答.しかし,ジンヨウイチヤクソウなら,葉の表面に光沢があり,先端が凹にへこんでいるはず.そこで属している自然観察会の指導者に写真を見てもらったところ,一目見て,カントウカンアオイであろうとのこと.


どうしても納得がいかないので,宮城教育大学の環境教育実践研究センター  安江研究室  鵜川研究室が運営する「oNLINE 植物アルバム」の~これ何?掲示板 ~(http://plantdb.ipc.miyakyo-u.ac.jp/cgi/newkorenani/newkorenani.cgi)に,画像を撮影地の制限情報と共に送ってみた(No.2130).すると何人かからのコメントがあり,最終的にはフカイさんから「葉の斑の入り方、葉の基部、葉柄の付き方、毛が多いということからも「フイリフモトスミレ」で間違いないだろう。」と教えていただいた.

複数の人からコメントをもらえることで,より信頼性が増し,またなぜ,そう判断したのかの根拠も教えてもらえるので,この掲示板は名前の分からない植物を相談するのに非常によいサイトである.

いう事で味をしめ,2つほど追加の相談をした.

- 続く -

2010年8月5日木曜日

アサザ 和漢三才図会

Nymphoides peltataスイレンに似た切れ込みのある葉をつける浮葉性植物で,地下茎をのばして生長する.若葉は食用にされることもある.夏,細かい切れ込みのある黄色い花弁の花をつける.

『大和本草』(巻八)には「荇」として,『和漢三才図会』(巻九十七 水草)(左図)には「あささ(莕),別名金蓮花」として,性状と薬効も記載されているが,白い花の咲くガガブタを「銀蓮花」として,同一種とみなしているようだ.
(あさざ, ヒン)

『本草綱目』(軍部水草類葉〔集解〕)に次のようにいう。(ミツガシワ科アサザ)はあちこちの池沢にある。茎は白い。葉の径は一寸ぐらいで、(ジュンサイ)に似ていて、やや尖って長く、茎の端にあって水の上に浮ぶ。長短は水の深浅による。根は大へん長く、水底では(カンザシ)の股のようになっている。
上は青く下は白い。夏月に黄花を開くが、白花のものもある。実を結ぶが、大きさは棠梨(山果類)のようで中に細子がある。これととは同類の二種である。
葉〔甘、冷〕 消渇を治す。熱を除去し、小便の出をよくする。搗いて諸腫毒につける。
毒蛇にさされてその牙が肉に入り大へん痛いとき〔本人に知らせず、ひそかにの薬でその上を覆い、穿たれたところは物で包んでおく。一時もすれば折れた牙は、自然に出てくる〕。
〔六帖〕みるからに思ひ増田の池に生ふるあさざのうきて世をはへよとか
△思うに、の花は小蓮華に似ていて、水上に浮かんでいる。大へん美しい。人家の近くの池には見あたらない。
金蓮花 銀蓮花
『画辞』に、金銀蓮花には二種類ある。湖中に大へん多い。園林盆に水を入れてこれを種(う)える。ただ二色の重台(桜弁)のものだけを珍重する。思うにこれはと同類である、とある。


ユーラシアに広く分布し,図譜を示したJ. Sowerby の "English Botany" の Text によれば,イギリスでは “fringed buck-bean(フリンジの着いた鹿の豆)” と呼ばれ,テームズ川の流れの緩やかな場所に生えている.
また,有名な自然科学者ベヒシュタインは,日本でのこの植物について “the inhabitants of Japan, where the fringed buck-bean is also indigenous, eat it as a pickle, simply prepared with salt; or, after simmering it in water, and removing the impurities from the top, they use it in broths.” と言っているとのことだが,ジュンサイと混同しているのではないだろうか.(左図,J. Sowerby "English Botany" (1794, 英) 銅版手彩色)

各地でアサザ個体群の保全や復元,ひいては流域環境の保全を目的として,植栽やシードバンクの掘り出し といった復元・保全活動が行われている.アサザの植栽は護岸の消波や水質浄化に効果があるとされることもあるが,逆に水がよどんで水質が悪化するという意見もある.

保全活動の代表的なものとして知られている,茨城県霞ヶ浦で行われている「アサザプロジェクト」の里親制度で預かった数株を,庭のプランターに水を溜めて育てているが,機会が無くまだ親元に帰していない.

2010年8月2日月曜日

カワセミ(翡翠)(4)ペリットの中身,名前の由来,絵画

カワセミ(翡翠、Alcedo atthis)カワセミ科 (4)ペリットの中身と名前の由来

私が遭遇したカワセミが良く止まるコンクリートの水門(左)、調べると白い糞のほかに、褐色のペリットらしきもの(下左)を発見。採取して崩してみると中からアメリカザリガニのものと思われる赤い殻の破片が多数(下右)、でも魚の骨は見当たらない。

釣人に聞くと、この川にはオイカワやヤマメがおり、春には大きなフナも釣れるとの事だが、現在の主食はこのザリガニのようだ。どのくらいの大きさのザリガニをどうやって丸呑みにするのか分からないが、あんな殻ばかりのようなザリガニでは、効率が悪いのではと心配させられる。
また生まれて直ぐの子供には、親が半消化した食物を口移しで与えるのだろうか。そんな現場を見たいものだ。


次に「カワセミ」の語源を。(2)で述べたように古代では、青い鳥という意味の「ソニドリ」と呼んでいたようだ。ソニ(青土)はハニワ(埴輪)のハニ(赤土)に対応する。
このソニドリからソニになり、(3)の「和漢三歳図会」「大和本草」にあるように、ソビからショウビ及びセビに変わり、前者はアカショウビン・ヤマショウビンのショウビンへ、後者は川にいるセビ・山にいるセビのカワセビ・ヤマセビからカワセミ・ヤマセミになったと考えられる。
背中が美しいから「背美」それが変わって「セミ」説や、穴で育っている雛の鳴き声がセミに似ているから(山渓カラー名鑑「日本の野鳥」)などという説よりも、説得力があると思うが。

カワセミが絵画に現れる頻度は高くない。調べた限りでは、有名画家で題材にしたのは、北斎(「翡翠、鳶尾草、撫子」-左)、広重(「翡翠と紫陽花」)、渡辺始興(旧嵯峨御所 大覚寺「四季花鳥図」【重要文化財】)、ゴッホ(The Kingfisher 1884、 The Kingfisher 1886)、加山又造(「翡翠1990」「寂」)など。

特筆すべきは宮本武蔵の水墨画で、「布袋竹雀枯木翡翠図」岡山県立美術館蔵、「蓮池翡翠図」吉川英治記念館蔵の2つが現存する。彼の水墨画にカワセミ、モズ、ウなど、捕食性の鳥が多く登場するのは、静と動との切り替えに武芸者として共感したからかも知れない。




おまけは、(3)で言及した1596年刊「本草綱目」のカワセミの図(左、国会図書館)。なんとも稚拙で可愛い。

2010年8月1日日曜日

カワセミ(翡翠) (3)薬効

カワセミ(翡翠、Alcedo atthis)カワセミ科 (3)薬効

江戸時代の絵入り百科事典『和漢三歳図会』(寺島良安 1712年頃刊)のカワセミの項を見ると左の様に
 「鴗(立+鳥 かわせび)」別名「魚狗、天狗、水狗、魚虎、魚師、翡翠鳥、和名ソビあるいはショウビ」として、「中国の本草綱目*によれば、鴗は各地の水辺にいる。大きさは燕くらい。くちばしは尖って長く、足は紅で短い。背毛は翠色に碧を帯びている。翅毛は黒色に青が浮き立って見え、女人の首(かしら)の飾り物とする。本性、よく水上で魚を取る。この鳥は魚を害するために、狗とか虎とかの名がついた。」とあり、更に「肉は鹹(塩からい)、腸を除いて黒焼きにして食べれば咽に刺さった魚骨を除く事ができる」とする。「女人のかしらの飾り物」とは前節に述べた鳳冠のことであろう。(*李時珍撰 初版 金陵万暦 18年(1596)刊)

 また、『大和本草』(貝原益軒 1709年刊)でも、「其肉は腥(なまぐさ)し食すべからず」としながら、「黒焼にて魚骨骾(骨+更 のどに刺さる硬い骨)を治す。煎服すべし」とある。

 この薬効については、中国の本草書から得た知識をもとにして江戸時代初期につくられた『和歌食物本草』にも
   ○かはせみは魚の骨喉に立たるに 煮て食たるも黒焼も吉(食物和歌本草 二)
   ○ひすいこそのんどにほねの立たるに くろやきもよし煮て食も吉(食物和歌本草 七)
の二首があり、元は中国にせよ、日本でもかなり広く流布されていたと思われる。

 カワセミの肉にこんな薬効があるとは思えないが、なぜこのように信じられたのか。それはカワセミの行動に原因があるのではないかと考えられる。

 小魚・カニやザリガニを餌とするカワセミは、消化しきれなかった骨や殻を筒状にまとめて吐き出す習性がある。これはフクロウ、ワシタカ、サギ、モズなどの肉食鳥にも見られるが、吐き出したものをペリット(Pelet)という。このような習性と、吐き出したペリットに魚の骨が含まれているのを見て、「カワセミの肉を食べれば、咽に刺さった魚の骨が吐き出せるだろう」と考えたのであろう。カワセミこそいい迷惑である。以下のHPで吐き戻す瞬間をパラパラ動画で見られる(上)。http://plaza.rakuten.co.jp/farmerk/diary/200909180000/

 当地で見られたカワセミがよく止まるコンクリートの水門に残されたペリットを崩してみると、赤色のアメリカザリガニの殻の破片が認められた。
-続く-