個体変異の多いヘクソカズラの花 (画像提供 いわきのトミーさん)
葉や茎を切ると特有のにおいを発する蔓草.万葉集には「屎葛(クソカズラ)」として,臭いではなく蔓を力強く伸ばして繁茂する生命力が賛美されている.「*莢に延(は)ひおぼとれる 屎葛絶ゆる事無くみやづかへせむ (16/3855,高宮王)」
*は草冠に皂で,カワラフジあるいはサイカチといわれているが,同じつる性のカワラフジ(ジャケツイバラ)に分がありそう.
花は小さいが可愛く,灰色がかった白と紅色の配色はエレガント.江戸時代初期には,悪臭はありながら観賞用として栽培されていたらしく,また落ちた花を水に浮かべて歌の材料にしていた.
伊藤伊兵衛著『花壇地錦抄』(1695)巻之三「藤並桂のるひ」,「百部桂(へくそかづら) 通草秋中秋初 葉ニあしき香也.白紫成小りんの花さく.そうとめかつら共云」
同じく巻之六 「草木植作伊呂波分」 ,
「へくそかつら 植分春秋合肥 」
伊藤伊兵衛著 『広益地錦抄』(1719)巻之五 薬草五十七種
「女青(へくそかづら) 蔓草冬もあり葉は春出両對きわめて悪臭あり花ハ薬種の丁子のかたち大キさも左のことく外ハうす白く花中紫落花をあつめて水にうかへて詠とせり實丸くちいさく多く付見るにたらず」
今はリースの材料として使われている実も「見るに足らず」と形無しである.
また貝原益軒著『大和本草』(1709)巻之八にも「女青」の項で詳しく記述されている(左図,中村学園HPより引用). なお,文中の「籮藦」とはガガイモの漢名
全草の臭いは特徴的で,漢名もいかにも臭そうな,鷄尿藤,狗屁藤,臭藤などである.
この臭気の元は細胞内に蓄えられたペデロシド (Paederoside 属名由来) という配糖体で,葉や茎が食害を受けることでこれが分解され,揮発性物質のメチルメルカプタン (CH3SH) が生成され悪臭として働く.従って,ヘクソカズラを食草とする昆虫はほとんどいない.一方ヘクソカズラヒゲナガアブラムシは,ヘクソカズラの汁を吸い,成分を体内に蓄積することで,テントウムシの捕食から逃れていると言われており,また,スズメガ科のホシヒメホウジャク,ホシホウジャクの幼虫もヘクソカズラを食草とすることが知られている.チョウの幼虫の多くは狭食性を示すが,このスズメガ科の幼虫は,誰も手を出さない植物を選択したことで,食草を独占できる.
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