クサノオウは西欧でも古くから薬草として使われ,ギリシャのペダニウス・ディオスコリデス(40頃 - 90) の『薬物誌 De Materia Medica』の「第2巻 刺激性のある薬草 (HERBS WITH A SHARP QUALITY)』
「211.CHELIDONION Chelodonium maius クサノオウ」 の項には
「大型のケリドニア(Chelidonia)は,葉がいっぱいに繁った小枝をもつ,1キュービット〔約45.7cm〕あるいはそれ以上の高さになる細い茎を出す.葉はラヌンクルム(Ranunculm)に似ているが,それよりは柔らかく,いくぶん空色がかっており,アラセイトウ同様,すべての葉腋に花が一つずつ付く.搾り汁はサフラン色(濃黄色)で,刺すように辛く,少々苦味があり,強烈な匂いがする.根は,上部では1本であるが,下の方では多数に分かれており,サフラン色(濃黄色)である.実はツノゲシに似ていて,ほっそりとして長く,その中に,小さな種が入っているが,その種子はケシの種よりは大きい.
搾り汁をハチミツツと混ぜて真鍮の壷に入れ,石炭にかけて煮たものは,視力を増す作用がある.夏のはじめに葉と根と実から汁を搾り,その後,陰干しにし,小さな丸薬に製剤する.根をアニスといっしょにブドウ酒で飲むと,黄疸を治し,ブドウ酒と混ぜて塗ると疱疹を治す.また噛めば歯痛を和らげる.
これがケリドニアと呼ばれるもので,ツバメが姿を見せると同時に地面から芽を出し,ツバメが旅立つ頃に枯れることから,そう呼ばれるのであろう.ツバメのヒナのなかに眼のみえないものがいると,母鳥がこの薬草を運んできて,その眼を治すともいわれている.
これはまた(ギリシャでは),paeonia, crataea, aoubios, glaucios, pandionis radix, philomedion, また othonion とも呼ばれ,ローマ人は
fabium,ガリア人はthona,エジプト人は mothoth,そしてダキア人はcrustane と呼んでいる.」とある.
ローマ時代のガイウス・プリニウス・セクンドゥス(22 / 23 – 79)の 『博物誌 Naturalis historia』 (77 A. D.) にも“ケリドニア” の名で記載されている.
プリニウスは,名が鳥のツバメに由来するとして,「50 ケリドニア(Chelidonia)
動物も植物を発見したことがある.なかでも主なものはケリドニア(chelidonia, クサノオウ)である.ツバメはこの植物を用いて巣の中の雛の眼を治すし,ある人がいうには,眼がくり抜かれてしまったときでさえも視力を回復させる.これには二種類がある.大型のものはよく茂り,葉は野生のニンジンに似ているが,もっと大きい.それ自体は高さ二クビトゥム(two cubits high)で,明るい色をしていて,花は黄色である.小型のものの葉はツタに似ているがもっと丸くて,(大型のに比べると)もっと色が濃い.その汁はサフランの汁のように苦い.種子はケシのそれに似ている.
これら二種ともツバメが来るころに花を咲かせ,去るころに枯れる.花の咲いているときに汁を搾り,アッティカのハチ蜜(Attic honey)と一緒に銅の器に入れて熱い灰でゆっくりと煮ると,目のかすみに対して最良の治療薬となる.汁はそれ自身でも,また,この植物に因んでケリドニア(chelidonia)と呼ばれる眼薬(eye-salves)としても用いられる.」とし,その他にも,蛇の咬傷(ブドウ酒に入れて),虫歯(根をつぶし酢漬けにして),腺腫(オオバコの葉と共にハチ蜜とブタの脂を加えて)に薬効があり,化膿や腫れ物や凹みのできる潰瘍を乾燥させる効果がある.と記している.
ここに出てくる「小型のケリドニア」は同じ時期に黄色い花をつけるキンポウゲ科の Lesser Celandine (Ranunculus ficaria 右図) と考えられる.
(注 *Bluebell, Endymion non-scripta ブルーベルのことか **Winter Aconite, Eranthis hyemalis キバナセツブンソウのことと思われる)