2011年8月17日水曜日

バジル メボウキ (1) キーツ『イザベラ』

Ocimum basilicum (1)インド原産のハーブ.イタリア料理によく使われているのは Sweet basil だが,160種以上の栽培種があり風味が異なり,アフリカ,中国や東南アジアの料理にも使われてエスニックな味を出してる.バジルの名は王を意味するギリシャ語の βασιλεύς (basileus) に由来し,古代ギリシャでこの草を貴人の香水・膏薬・浴湯また薬物に用いたからとも,コンスタンティヌス1世の母フラウィア・ユリア・ヘレナが 326 年に訪れたエルサレムで,聖十字架を発見した場所に生えていたからとも言われている.
この草が取り上げられた文学作品としては,キーツ(John Keats 1795 –1821)の『イザベラ』(Isabella,Or the Pot of Basil, 1820) が有名で,この詩で彼はローマ時代のフィレンツェの名家の娘 Isabella が,金満家との結婚を望む兄達に殺された恋人,使用人の Lorenzo の首をつぼに隠し,その上にbasil を植えて,涙の水を切らさなかったことを詠った.

William H. Hunt (1827-1910)
LIV. 1-6

And so she ever fed it with thin tears,

Whence thick, and green, and beautiful it grew,
So that it smelt more balmy than its peers
Of Basil-tufts in Florence; for it drew
Nurture besides, and life, from human fears,
From the fast mouldering head there shut from view:

(かくて彼女はそれに絶えず涙を注ぎ,
バジルはやがて太く青く美しく育って,
フローレンスいちの香りを放った.
なぜならそれは,人間の恐れや
隠されて急速に朽ちゆく頭蓋から
栄養と生命とを吸っていたから.)

この話は Keats がボッカチオ (Giovanni Boccaccio, 1313 –1375) の,『十日物語』 (Decameron (1350 -1351/3) のメッシーナを舞台にした “The Tale of Lisabetta and her pot of basil (IV, 5) ” のイメージを膨らませた作品である.古くはイタリアでも basil で墓を飾っていたのかもしれないが,恐らくは Boccaccio 自身もこれを東方から借用したと見られている.

この,甘い香りのバジルと,陰惨な生首との対比は多くの芸術家の創作意欲を刺激し,Boccaccio から始まり,Keats,Wilde,Strauss,Massenet,Schmidt,Klimt らに作品を生み出させた.

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