2011年8月29日月曜日

アブラゼミ 大和本草,和漢三才図会,本草綱目啓蒙

Graptopsaltria nigrofuscata今年の夏はアブラゼミの発生が遅く,初期は地震や東京電力福島第一原子力発電所の放射能の影響かとも云われたが,当地では発生個数は昨年より多いように思われた.庭のサクラの木にも多くのアブラゼミが止まってうるさく鳴き,下を通るとジージーと迷惑そうに飛び出していた.オナガの親が頻繁に来るようになったら,遊歩道の木々などでは盛んに鳴いているのに,庭のサクラでは聞かれず.25日にオナガの親子が飛び去ってからは,またひとしきり鳴き声が聞かれるようになった.今は真昼と真夜中を除いて,ヒグラシとアオマツムシ,キジバトの声が交代で賑やか.このキジバトの夫婦はオナガの空いた巣を使っているのかも知れない.

庭に落ちていたアブラゼミ(雌).かなり消耗していたが,激写した後,細い枝に掴まらせていたら飛び去った.江戸の本草書では「蝉(蚱蝉)」はクマゼミで,アブラゼミはアカゼミと呼ばれていたらしい.クマゼミの抜け殻が漢方薬として使われていたからか,後期になると「蚱蝉=アブラゼミ」となっている(『本草綱目啓蒙』)が,これは著者の住んでいた地域の違いも知れない.『和漢三才図会』の「蝉には五徳がある」という説は興味深い.頭にある「綬」とは3つある単眼と触覚を見立てたものか.
貝原益軒『大和本草』 (1709)

蚱蝉(セミ)
(中略)羽スキトホラサルアリ赤セミト云.晩ニナク.コノ者其形(蚱蝉=クマゼミと)相似テ別ナリ.

寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)(左図)

『本草綱目』(虫部、化生類・蚱蝉〔集解〕)に次のようにいう。蝉とは総称であって数種ある。みな蠐螬・腹蜟(ニシドチ)から変じて蝉となる。また(クソムシ)が転がして丸くした(糞土が)久しくして化して蝉と成るのもある。みな三十日すると死ぬ。ともに四角い首、広い額をもち、二翼で六足、脇腹で鳴く。あるいは小児がこれを飼うと数日も飲食せず、ただ風を吸い露を飲むだけである。だから溺(ユバリ)はするが、糞はしない、と。

一説によれば、蝉には五徳があるという。頭に綬(かんむりのひも)のあるのは文である。露を飲むのは清である。季節に応じていつも姿を見せるのは信である。黍(きび)をたべないのは廉(つつましい)である。巣穴をつくらずにいるのは倹である。実に卑穢(ひわい)なところにいながら高潔に趨(はし)るものである、という。(島田,竹島,樋口 現代語訳 東洋文庫446 平凡社)

小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1803-1806)

蚱蝉 アカゼミ サトゼミ クロゼミ アキゼミ ヒグラシ(中略)
蚱蝉ハ形大ニシテ翅ノ色黄赤ク、スキトホラズ。八月二至リ未ノ刻以後多ク鳴。弘景、雌 蝉トスルハ非ナリ。雌蝉ハ鳴ズ。故二唖蝉卜云。俗名ナハセミ オシゴロウ イイシゼミ 時珍、未得秋風、則瘖不能鳴、謂之唖蝉卜云ハ非ナリ。 (後略)

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