2011年8月7日日曜日

エンダイブ ユダヤ教徒 出エジプト記 苦菜,『菜譜』『大和本草』 おらんだちしや,紅毛萵苣,『和漢三才図会』 高野苣,『本草綱目啓蒙』 萵苣

Cichorium endivia 去年の春に家内がレタスと間違えて買ってきた苗のこぼれ種から生えてきた.日当たりが悪いサクラの陰に発芽した株を放置しておいたので,ひょろひょろと茎がのび,それでも花がついた.花の色は美しい青色.長く咲ければ観賞用の価値はありそうだが,一日花.苦味が強い葉はサラダにするが,あまり好みではない.

花の色は変わっているが,形から分かる様にキク科の植物.原産地はヨーロッパの地中海地域を中心に,北アフリカや西アジアと推定されている.ギリシャ時代には,本草家プリニクスや医者として名高いディオスコリデスの他,詩人のオウィディクスやホラティウスも言及しており,かなり古くから好まれて栽培され,食べられてきたと思われる.
エジプトではキリスト生誕以前から食べられていたらしく,ユダヤ教徒は「過ぎ越しの祭」に,苦難をあらわす苦菜(bitter herb)のひとつとして,チコリなどと食べる.

出エジプト記第12章8節 "And they shall eat the flesh in that night, roast with fire, and unleavened bread; with bitter herbs they shall eat it." 「 そしてその夜、その肉を火に焼いて食べ、種入れぬパンと苦菜を添えて食べなければならない。」


日本には江戸時代の,遅くとも正徳年間(1711 - 16) には日本に渡来し,一部では栽培され食用にされていたらしい.
貝原益軒の『菜譜』((1704)には「おらんだちしや,四五月青き花さく.葉に光なし.うるわしからず.朝ひらき,夕にしぼむ.冬はわらにて包むべし.葉しげりて,白く生にてもくらふ.」とある.また同人の『大和本草』 (1709) には「紅毛萵苣 オランダチサ」の項に「菊に似た碧花を開いて,朝に開いて夕方には萎れる.ムクゲの花のようだ.生で食べても良い.」とあり,葉と花の絵が『大和本草 巻之十九 諸品図』に載る(左上図 中村学園).

寺島良安『和漢三才図会』(1713頃) の「白苣(しろちさ),石苣  生菜」の項(右図)には「一種に高野苣(こうやちさ)というのがあり,近ごろままみる.
高野苣は枝椏(えだまた)ごとに小さな紫花がつく.」とあり,花色や花の着き方からエンダイブと思われる.

また,小野蘭山『本草綱目啓蒙』(全48巻.1803 - 1806) の巻之二十三,「萵苣 チサ チシャ」の項には,「萵苣 (中略) 一種ヲランダヂサ 一名,ハナヂサ キクヂサ 葉ニ花岐多シ.生食,煮食,並ニ佳ナリ.一根ニ叢生ス.冬末春初最繁クシテ千葉牡丹花ノ形ノ如シ.漸ク薹ヲ起スコト二三尺,葉互生ス.葉間ニ枝ヲ抽ルコト長シ.夏ニ入テ葉間ゴトニ花ヲ開ク.形蒲公英花ニ似テ,深藍色.朝ニ開キ午前ニ色変ジテ萎ム.蕾ハ葉ゴトニ多ケレドモ日ニ一花ノミ開ク.後実ヲ結ブ.形同蒿(シュンギク)子ノ如シ.絮(じょ)ヲナサズ.是モ亦萵苣ノ一種ナリ.(後略)」とあり,深藍色の花,花の寿命や花の着き方から,江戸時代エンダイブは「オランダヂサ,ハナヂサ,キクヂサ」と呼ばれて,食用に供されていたことが分かる.

0 件のコメント: