わが二十 町娘にてありし日の おもかげつくる水引の花 与謝野晶子
「考えてみれば,こんな小さな花を観賞栽培する国は,日本をおいて,まずない」(湯浅浩史).
ヒマラヤ,中国南部と朝鮮半島、そして日本列島へと分布している多年草。長さが四〇センチ以上にもなる花穂に、点々と長さ2-3㍉の濃紅色の小さな花がならぶ.花に花弁はなく,四枚の蕚片と四本の雄蕊に囲まれた二花柱の子房からなりたっている。蕚片は上の3枚が赤く,下の1枚が白く,花穂を上から見下ろすと赤く,下から見上げると白いので,紅白の水引に喩える.
室町時代以前の書籍でこの草ににふれたのは知られていないが、雪舟の弟子で十六世紀の始めに活躍した長谷川等春の代表作『花鳥人物図』には描かれているとのこと.
江戸時代には多くの文献に記述され
寺島良安『和漢三才図会』(1713)(左図,左)
伊藤伊兵衛『広益地錦抄』(1719)巻之五 薬草五十七種 では
「海根」 田野に多く生ス葉毛蓼の葉に似大キく中に黒点少有花ほそながく二尺ばかりくれない穂のごとく也草花に水引草と云 とあり図(右図)も添えられている.
小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1803-1806) 巻之十二 草之五 では
「海根」 詳ナラズ。
ミヅヒキサウニ充ル古説ハ穏ナラズ。其水引草ハ一名ハイトリグサ、汝南圃史二載ル所ノ金線草、一名重陽柳ナリ。山野二多ク生ズ。春、旧根ヨリ苗ヲ発ス。葉互生ス。形土牛膝ノ葉二似テ、長大ナリ。面背トモニ短毛アリ。苗高サ一尺許、秋二至テ茎頭及葉間二一尺余ノ細紅茎ヲ抽テ、極小ノ深紅花、稀二綴リ、ミヅヒキノ状ノ如シ。又白花モアリ、ギンミヅヒキ卜云。紅白雑ルヲ、ゴシヨミヅヒキ卜云。一種葉ノ中間黒斑相対シテ墨記草(イヌタデ)ノ如ク、八ノ字ノ形二似タルモノアリ。八幡水引卜云。又一種長葉ノモノアリ。又チャボミヅヒキアリ。矮茎短穂、地ニッキテ生ズ。
と何れも本草の「海根」がミズヒキに当たるとしている.
庭に野趣を与えるが,根を張り大株になる困り者になった.また思わぬ所から芽生えるので不思議に思っていたら,ミズヒキの戦略に乗って私たちが種を拡げていた.
長田武正著『野草図鑑 8 はこべの巻』 に
果実の柄には関節があり,さわるとここで切れて果実がぴんぴんととぶ。さらに花柱の先はかぎ形に曲がるので,動物体にひっかかって運ばれる。
とある.
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