2010年10月30日土曜日

Edible mum 食用菊 延命楽(もってのほか,かきもと)

Chrisanthemum ( Dendranthema ) x grandiflorum cv. ‘Enmei-raku’

蝶も来て酢を吸ふ菊の酢和へかな 芭蕉
夕飯や醤油かけても菊の花 一茶

日本特産のエディブル・フラワー.中国ではキクは紀元前から不老長寿を願う花として親しまれ,菊酒にしたり,お茶に添えたりして味わう伝統があった.日本へは8世紀後半天平時代に唐から(左に示した『和漢三才図会』によれば,仁徳天皇七十三年 -西暦386年- に百済から)渡来したと云われる.
最初は主に薬草として用いられ,貴族社会を中心に重陽の節句(旧暦九月九日)の菊酒や,真綿に花の香りを移す「被綿(きせわた)」などに用いられていた.その後観賞用としての栽培が始まり,一般の人々の食用として普及するのは,江戸時代前期以降.江戸時代の本草書では,花弁が甘い(苦くない)物を薬用・食用とする.

小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1803-1806) には「菊花種類多シ。大抵二品ニ分ツ。薬食ニ用ル菊卜花ヲ賞スル菊トナリ。薬用ノ菊ハ甘菊ナリ。本草ニ説トコロハ此モノヲ指。甘菊ハ元来色ノ黄白ニ拘ラズ昧甘キ者ヲ用ユ。然ドモ今本邦二伝栽ル者ハ皆黄色ナリ。和名アマギク又料理ギクトモ云。九月ニ花ヲ開ク。大サ寸許、或ハ寸余、弁ハ常菊トチガヒ細筒子ニシテ末五出、弁多ク重テ心ナシ。変ジテ濶弁(ヒラシベ)トナレバ黄色淡クナリテ中ニ小心アリ。此菊、花葉共二苦味ナクシテ食料ニ充べシ。故ニリヤウリギクト云。此花薬用ニ良トス。」とあり,黄色い八重咲きで先がやや開いた細い管状の舌状花の品種を料理菊としている.
これは今の「阿房宮(あぼうきゅう)」に当たるのかも知れない.他の本草書でも黄色い花が食用・薬用に適しているとし,紫色の菊については記載がない.芭蕉や一茶が食したのは黄色い菊だったのだろう.

庭で育てているのは「もってのほか」とも呼ばれている「延命楽(えんめいらく)」で,淡紅紫色の八重咲き中輪種.主に山形や新潟において栽培されている.おひたしにするとさわやかなキクの香りとちょっとした苦味が日本酒に合う.この一風変わった名前は、「天皇の御紋である菊の花を食べるとはもってのほか」または「もってのほか(思っていたよりもずっと)おいしい」に由来するとか云われているが,私は「こんな美しい花を食べるとはもってのほか」が由来と思いたい.

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