2010年10月30日の「世界ふしぎ発見!」 第1163回 『あなたの知らないイギリス王室の秘密』 で,竹内海南江さんが今年の女王の公式誕生日の行事「軍旗分列行進式(Trooping The Color)」をレポートしていた.もう31年前になるが,我々家族も1979年6月5日に同じ会場で行われた公式リハーサルを抽選に当たって観覧することが出来た (Stand K, Block 3, Row W, Seat No. 23-25) ので,TVで放映された行進や軍楽隊の演奏を懐かしく聴いたが,もうエリザベス二世も87歳.31年前は乗馬でお出ましのリハーサルだったが.
歩兵連隊がかぶっていたのは黒い熊皮帽(Bearskin hat).文字通りクマの皮で作った背の高い帽子で,赤い軍服の上着と共に,王室の衛兵の象徴であり,リハーサルの後これを被った何人かの古参兵が,プログラムにサインを求められていたのを思い出した(上図).英国王室の象徴の一つとも言うべきこの熊皮帽だが,最近動物愛護の観点から見直しを求められている.
この背の高い帽子は,17~18世紀の戦場で勝敗を決する戦力として重要視されていた擲弾兵の帽子であった.当時,大きな破壊力をしめす擲弾(現在の手榴弾)を人力で投げる兵士は,歩兵よりも体格が良く筋肉の発達した兵士が選ばれ,一種のエリートであった.この体格をより大きく見せ,敵を威圧するために背を高く見せる熊皮帽を被ったらしい.特に有名なのがナポレオンの「皇帝近衛隊」の近衛擲弾兵や近衛擲弾騎兵で(「二人の擲弾兵」ハイネ詩,シューマン曲),彼らは戦場では「黒い熊毛帽の森」と呼ばれて恐れられていた(左下図).
1815年のワーテルローの戦いで,英軍のメイトランド将軍が率いる第1近衛旅団がナポレオン軍を破り,その功績を讃えられ,皇帝近衛隊の「熊毛帽」を被り「近衛擲弾兵」を称する栄誉を与えられた.それ以降,英国王室の近衛歩兵は主にセレモニーにおいてこの帽子を被るようになった.他にもカナダ,ベルギー,デンマーク,イタリー,オランダ,スウェーデンなどの国の儀仗兵も行事の時には被っている.
現在でもこの「熊毛帽」は野生のクマの毛皮から作成されており,一頭から一個しか作ることが出来ない.特に士官の帽子には,毛の密度からカナダの灰色熊のメスの毛皮が最適で,これを黒く染めて用いている.そのため,母親グマが皮をとるために殺され,子グマが飢え死にした事例もあるという.ちなみに,英国歩兵近衛兵の帽子の高さは45cm,重さは280g,英国軍は年間50~100個を現在のレートで85,000円で購入する.使用期間は適切に手入れをすれば十年ほどだが,100年以上前の帽子もあるとのこと.
現在でもこの「熊毛帽」は野生のクマの毛皮から作成されており,一頭から一個しか作ることが出来ない.特に士官の帽子には,毛の密度からカナダの灰色熊のメスの毛皮が最適で,これを黒く染めて用いている.そのため,母親グマが皮をとるために殺され,子グマが飢え死にした事例もあるという.ちなみに,英国歩兵近衛兵の帽子の高さは45cm,重さは280g,英国軍は年間50~100個を現在のレートで85,000円で購入する.使用期間は適切に手入れをすれば十年ほどだが,100年以上前の帽子もあるとのこと.
資源保護や動物愛護の点から,これを人工製品に交換を求める動きは古くからあり,とくに 「PETA (People for the Ethical Treatment of Animals)動物の倫理的扱いを求める人々の会」 は以前からいろんなデモンストレーションを行っていたが(GOD SAVE THE BEARS 2006年セントポール寺院近くでのDie-in など www.unbearablecruelty.com/21_bum_salute.asp),最近,元ビートルズのポール・マッカートニーさんの娘で,人気デザイナーのステラ・マッカートニーさんが開発した人工皮革の帽子を英国防省に提示し,交換を求めた.しかし,伝統を重んじる国防省側の反応は鈍かった(2010年9月8日朝日新聞)とのこと. PETA の活動はグリンピースとやや違ってどこかユーモラスで,日本でも杉本彩さんが「毛皮?裸でいいわ Fur? I'd Rather Go Naked 」という「反毛皮」メッセージを文字通り裸で送ったことが話題になった.
なお,英国王室衛兵の所属は熊毛帽につけられているhackle と呼ばれる羽根飾りと,上着のボタンの配列で見分けられる.ちなみに冒頭の兵士の所属は聖パトリックの青い hackle と襟章のクローバからアイルランド部隊,アイリッシュガーズ (Irish Guard) と思われる.
右は会場で兵士が売っていたスコットランドの軍楽 -バグパイプと太鼓- のカセット (売価 3ポンド) の外装.どの曲も同じように聞こえるが,最初の "Scotland the Brave" はよく演奏されるので,聞き分けられる.
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