2010年11月5日金曜日

ホオズキ 実

Physalis alkekengi var. franchetii
鬼灯は實も葉もからも紅葉哉 芭蕉(芭蕉庵小文庫)

5月に花をUPしたホオズキの実が赤くなった.中には赤い丸い実があるはず.古代ではこの赤い丸い実はおどろおどろしいイメージが先行したようだ.

『古事記』 天照大神と須佐之男命「五穀の起源」では,ヤマタノオロチの目の描写に「答白、彼目如二赤加賀智(あかかがち)一而、身一有二找頭找尾。亦其身生二蘿及檜椙、其長度二谿找谷峽找尾一而、見二其腹一隅、悉常血爛也。【此謂二赤加賀智一隅、今酸漿隅也。】 」とあり,
『日本書紀』 巻第一「神代上(第8段)」でもこの大蛇の「眼は赤酸醤(あかかがち)の如し。」とされている.また巻第二「神代下(第9段)」で,猿田彦の「眼は八咫鏡の如くして然(てりかがやけること)赤酸醤(あかかがち)に似たり。」と記され,何れも眼光鋭い異形の目の例えに使われている.

しかし平安時代になると,上代と違ってこの実はポジティブに受け取られ,ふくよかな実の丸さが美しい女性の例えに用いられるようになったり,
『源氏物語』「野分」 (玉鬘の美しさの表現に)「酸漿などいふめるやうにふくらかにて、髪のかかれる隙々うつくしうおぼゆ。」
『栄華物語』(1028~92頃) 「初花」  御色白く麗しう、ほほづきなどを吹きふくらめて据(す)ゑたらむやうにぞ見えさせ給(たまふ)
また,大きい程美しく,実の形の趣があるものとされていたようだ.
『枕草子』「おほきにてよきもの」 法師。くだもの。家。餌嚢。硯の墨。男の目。あまりほそきは女めきたり、又鋺のやうならんはおそろし。火桶。酸漿。松の木。山吹のはなびら。馬も牛も、よきは大にこそあめれ。 
「草の花は」夕顔の花はさまも朝顔に似て、言ひ続けたるもをかしかりぬべきを、葉の姿ぞ憎きや。実の様こそいと口惜しけれ。などてさはた生ひ出でけん。ぬかづき(=ほほづき)などいふ物のやうにだにあれかし。されどなほ夕顔といふ名の付きそめけんいとをかし。
とある.
江戸時代の『本草綱目啓蒙』 巻之十二 草之五 濕草類下 には,
酸漿 力ヾチ アカヾチ ヌカヅキ ホウヅキ〔一名〕姑娘菜 燈寵児 掛金燈 絳嚢 叱利阿里
春月、宿根ヨリ苗ヲ生ズ。形状時珍ノ説ニ詳ナリ。夏月、葉間ニ花ヲ開ク。一弁ニシテ牽牛花ノ如ク、五尖アリテ五弁ノ如クニ見ミ。故ニ如盃状無弁、但有五尖卜云リ。花後実ヲ結ビ下垂ス。熟スレバ外殻紅色ニシテ美ハシ。云々」とあり,また,「凡酸漿実己熟スルモノヲ盆ニ裁、冬月紙袋ヲ覆テ寒ヲ防トキハ能久ニ堪。其殻筋脈ノミ残リ、蝉翼ノ如ク、中ノ紅実ヲ透見シテ燈寵ノ如シ。」
と興味深い鑑賞法も記されている.  

左図 ヨウシュホオズキ( セイヨウホオズキ) P. alkekengi var. alkekengi (ヨーロッパから中央アジアに分布)
Schlechtendal, D. F. L von et al. "Flora von Deutschland, Oesterreich und der Schweiz.... ( W Mueller) 独 1889 多色石版

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