2011年4月30日土曜日

サクラソウ(13) 喰裂紙,「さくらそう作伝法」,「江都近郊名勝一覧」,「東京名所三十六花撰」

Primula sieboldii cv. Kuisakigami 品種名:喰裂紙,品種名仮名:くいさきがみ,表の花色:純白,裏の花色:純白,花弁の形:,花弁先端の形:かがり,花容:浅抱え咲き・横向き咲き,花柱形:僅長柱花,花の大きさ:大,作出時期:江戸後期,類似品種:母の愛・白滝・山下白雨,その他:草姿のバランス良・繁殖良・育てやすい.
昨年の春に近くのホームセンターより5株のサクラソウを購入した.夏に手入れが出来なかったので懸念していたが,内4株は今春花をつけた.その1つ.
複雑に切れ込んだ白い花弁.猫が食い裂いた和紙に例えたのなら可愛いが,悋気する女房が悔しさのあまり齧った旦那宛の手紙に見立てたのなら,一寸おそろしい.風情はないが江戸の諧謔的なユーモアを感じる.

(承前)サクラソウ原産地への江戸町民の遊山の歴史は長い.


文政年間(1818-)の「さくらそう作伝法」には,「いつの頃よりか武蔵野の地に生じそめしにて、戸田川の野原よりして川下のつづき野原茅野に、いつ頃よりして生じ、今に至り沢山に生るや。人々桜草を翫ぶ事は、享保の頃より見出し翫び候事にして、追々江戸へ取出し詠めし事と思われ候。好事の輩は遠路をいとわず野原に足をはこび、中には変り色花もあれかしとたづねしに、ー通りの花のみにて、まれに白花を得しと」とある.

松亭金水 撰 ; 一立斎広重 画の弘化 3 年(1846)に出版された「江都近郊名勝一覧」北地方(六十四)には「戸田川渡し 中山道板橋と浦和との間にあり。此辺桜草の名所にして、春時花開く時は、宛然(あたかも)毛氈を敷たるが如し、都下の遊人群集してこれを賞す。」(右画像 早稲田大学)とある.

喜斉立禅(二代目歌川広重)が慶応 2 年(1866)に著した,江戸が東京と改まる以前に東京の文字を冠しての名所ものの一つである「東京名所三十六花撰」には,一番:亀戸 臥龍梅から三十六番:堀の内 山茶花まで,江戸の花の名所 36 箇所が季節の順に描かれている.その中には白い舟の帆の浮かぶ川を背景にして「東京 戸田原 さ九ら草」が描かれている.(左画像 国立国会図書館).

(続く)

2011年4月27日水曜日

オーストラリア 野生のショウジョウソウ,クサトケイソウ

Euphorbia cyathophora & Passiflora foetida会社勤めをしていた時に知り合った,米国在住の Kate-san と Dan-san.私が花好きなのを知っていて,時々「この花なーに?」と画像を添えてメールで訊いてくる.園芸植物なら共通のものが多いが,野草はなかなか難しい.英国生まれの医事コンサルタント Kate-san は,ガラパゴスやアマゾンなど世界中を旅して興味深い画像を送ってくるが,今年3月にも,オーストラリア,クイーンズランドを旅し,いくつかの植物の画像をおくってきた.調べても名前が分からなかったのが,この画像の2種類の野草.葉が赤いトウダイグサの仲間と,上方のもしゃもしゃの苞(ガク)が見えるつる性の植物.

そこでいつもの「この植物は何? ~ これ何?掲示板 ~」に相談したら,大場富士夫さんと Setton 8 さんから,トウダイグサ科のショウジョウソウ Euphorbia cyathophora とトケイソウ科のクサトケイソウ Passiflora foetida とであろうとの回答が寄せられた.
早速NETで検索したところ,どちらもオーストラリア原産ではなく(ショウジョウソウは南米,クサトケイソウは北米南部),オーストラリアに栽培品から帰化しもので,さらに日本でも沖縄などで野生化している事が分かった.オーストラリア→コアラなどの特有の生物→固有の野草 と思って Kate-san が私を喜ばそうと思ってせっかく撮って呉れたのに,日本にも帰化しているアメリカ大陸原産の植物だったとは!!!.

なお,ショウジョウソウはポインセチアの原種で観賞用に,クサトケイソウは熟すと橙色になる果実を食用にするため,導入栽培されたとの事.クサトケイソウの種小名 foetida = evil smelling,つまり「草」ではなく「臭」時計草だった.

おまけは彼女から送ってきた樹上にいる野性のコアラの画像.

「コアラを探せ」.見つからなかったら,画像をクリックしよう.

2011年4月24日日曜日

セイヨウカラシナ

Brassica juncea野生化したカラシナ,栽培品に比べると痩せ型との事だが,種としては同一.カラシナはクロガラシとアブラナの両方のゲノムを持つ複二倍体で、中央アジア原産と云われ,種から和芥子(わがらし)を取る為に栽培されていたが,日本全国で野生化し,春にセイヨウアブラナと共に河川敷や川の土手を黄色に彩る.茎葉を野菜として利用する地域はインド・アフリカ・中国・西欧など多いが,種を食品として利用するのは,絞った油をバングラディッシュで,15%程度の油分を含んだ絞りの残から日本で和芥子が作られるのみで,この2カ国向けのほとんど全量がカナダで栽培される.なお,洋芥子(マスタード)の原料はシロガラシ( Sinapis alba )或いはクロガラシ( Brassica nigra )の種である.


セイヨウアブラナ( Brassica napus )との違いは,
1)葉の表面は白っぽくなく,葉の基部は茎を抱かない.
2)下方の葉は羽状に分裂し,へりに歯がある.
3)花の色はやや青みを帯びて見え,花序は総状だが,上方のものは蕾とほぼ同じ高さになる.
4)ガク片は開花時に斜め上方を向く(セイヨウアブラナはほとんど直立して互いに相接する).

何処かから飛んできた種から成長.塩漬けにして重宝しているが,筋が多くてかなり堅い.左は筋向いの畑の群落.肥料たっぷりと見えて高さ2m近くまで伸びている.我が家のはここから飛んできたのかも知れない.

アブラナ科の植物は土壌中の重金属を吸収・蓄積しやすい.Wiki (English) のセイヨウカラシナの記述には B. juncea can hyperaccumulate cadmium and many other soil trace elements. Specially cultured, it can be used as a selenium, chromium, iron and zinc food supplement. と微量金属の供給源としての利点が述べられているが,逆に言うと今回福島第一原子力発電所事故で飛散した放射性セシウムやストロンチウムも吸収・蓄積するということ.この性質は汚染された土壌の浄化に使える可能性と,土壌の汚染度のモニターとしての可能性が考えられる.つまり,土壌中の汚染物質濃度は低くても,キャベツ・カキナ・ブロッコリー・カリフラワー・カブ・ダイコンを調べることにより感度高く汚染度が分かる可能性がある.土壌浄化法としては実際に2007年、NPO法人「チェルノブイリ救援・中部」(名古屋市)が地元の大学などと連携し,汚染された農地約18ヘクタールで菜の花の栽培を行い,アブラナが成長過程で土中の放射性セシウムやストロンチウムを根から吸収し,茎などに蓄える性質を利用し,土壌汚染の改善状況などを調べて一定の効果が認められたとしている.

2011年4月22日金曜日

ジンガサゴケ

Reboulia hemisphaerica

初めての蘚苔植物.チャボジャノヒゲの陰に見慣れない植物を発見.ゼニゴケかと思ったが,高さ0.5cmほど,径0.8cmほどの傘にはゼニゴケほどの細かい切れ込みが入っておらず,緑色の,足の先の丸いヒトデのよう.早速いつもお世話になっている「この植物は何? ~ これ何?掲示板 ~」に画像を UP して訊いたところ,毎度適切なコメントを下さる setton 8 さんから,「ジンガサゴケ科のジンガサゴケではないか」との回答.NET で検索したら,まさしくコケ類ジンガサゴケ科 ジンガサゴケ属のジンガサゴケと一致した.

名前の由来はこの傘(雌器床)が陣笠の形に似ていることからで,受精後それほど時間の経っていない雌器床と見えて,柄も長くなく,傘も青いみかんの様につやつやして,黄色い粒状の星がちりばめられている.
葉状体は二股状に分かれ,表面は灰緑色~緑色だが,縁と裏面は紫紅色を帯びていた.ゼニゴケは雄器床も立ち上がるが,このコケの場合は雄器床は無柄で盤状で,これから鞭毛性の精子が雨水などを伝って卵に到達する.その後柄が3-4cmに伸びて,傘の裏から成熟した黒い胞子を散布する.
今の状態は可愛いといえば可愛いが,これがはびこると侘しいので,退場して頂いた.

2011年4月20日水曜日

マキシラリア ポルフィロステール

Maxillaria porphyrostele 淡黄緑色の半開の花形や一茎一花,また花の配色は日本原産のシュンランに良く似ているが,ブラジル原産の着生ラン.花茎の高さは10cmほど.チョコレートかバニラのような甘い香りがする.色が地味な分だけ,香りで虫をひきつけようとの戦略か.原産地では湿度の高い樹林帯に棲息していて,水分が好き.球茎はやや扁平な球状卵形で,線形の葉を1個に2枚つけ,元から花茎を伸ばす.唇弁を守るかのように萼片が前方に湾曲している.



福島県にお住まいのランの愛好家の S さんから,「花付抜群の強健種で初心者にも育てやすい」と昨年の春に頂いた.昨年の夏は体調不良であまり水がやれなかったので心配していたが,十数個の花をつけた.数年育てれば鉢から溢れんばかりに成長するとの事.楽しみ.



ラテン語辞典によれば,属名の Maxillaria は“cheek, cheekbone”,横から見ると特に半開の花の萼片は顎の骨のよう(左図,上).

一方,種小名の porphyrostele は purple+column で「紫の蕊柱」の意(W.T.Stream, "Botanical Latin" 2004).蕊柱とはラン科の花によく見られる,雄しべと雌しべが合わさって 1 本の柱のようになった構造体で,左図の下,唇弁の真上の濃色の部分.紫よりは濃褐色に見えるが,--.

2011年4月17日日曜日

ヤエベニシダレ (2)

Prunus pendula cv.Pleno-rosea昨年の秋に植木屋さんに剪定をしてもらったら,地上近くに垂れた枝にまで花がついた.開花後は垂れ下がった枝は剪定して樹形を整えておくと,その近くから出た枝が垂れ下がり、翌年の花芽ができるとのことで,樹木樹木毎に適切な剪定法があるのだと納得.草本ばかりの庭の時にはほとんど来なかった鳥達が樹木を植えたら多数訪れるようになり,昨年はこのサクラに巣を作っていた.だが,心配も一つ.サクラの花が鳥に食べられないか?この樹にもヒヨドリやスズメがよくやってくる.

イカルやウソなどのアトリ科のなかまは花芽そのものを食べるため、開花前の花がなくなってしまうことは良く知られているが,最近はスズメやニュウナイスズメ,そして篭脱け帰化したワカケホンセイインコもサクラの花蜜が美味しいことを覚えた.しかし,くちばしや舌の構造が吸蜜に適していないので,花を食いちぎるため萼ごと木の下に落ちてしまう.スズメのこの文化はまだ当地には伝播していないが,南から神奈川県や東京都まできているらしい.一方メジロやヒヨドリ,コゲラは花にくちばしを差し込み,舌の先で花蜜をなめるため花を散らすことはない.

期待して来訪される鳥さんたちには申し訳ないが,幸い八重の品種は蜜が少ないので,鳥との共存は可能のようだ.左は先日訪れたソメイヨシノの名所で,吸蜜に夢中なヒヨドリ.いつもなら警戒心むき出しで人が近づくと逃げ出すが,よほど美味しいのか,写真を撮らせてくれた.ヤエベニシダレの歴史などはこのブログの http://hanamoriyashiki.blogspot.com/2010/04/draft_09.html で.また,平安時代のヒヨドリの鳴き合わせについてはこのブログの http://hanamoriyashiki.blogspot.com/2011/01/blog-post_30.html で.

2011年4月13日水曜日

八重シダレモモ

Prunus persica cv. (pendula) 今年の春は遅いが,急に暖かくなったためか,例年ならすれ違う開花期が重なりあって,思わぬ協艶が見られる.今は,昨年秋に剪定をしてもらって一本立ちにした白の八重シダレモモと,ヤエベニシダレザクラの盛りを見ることが出来る.白と薄紅とベカナの黄色と,チューリップの赤も添えて,見せるための庭ではないが,小さな庭を見渡しては,なかなかの春と自画自賛.

モモといえば,昨年奈良県の纏向遺跡から大量のモモの種が発掘され,女王卑弥呼が中国の神仙思想の影響を受けた儀式に使ったのではないかと話題になったが(保立道久の研究雑記 http://hotatelog.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-a808.html),当時のモモは実の食べる部分が少ない野生種に近いものだったろうとのこと.花粉分析や DNA 解析でどんな品種だったのか,分かれば面白いが.このモモの実も,形は桃の実だが果肉はほとんどなく,大きな種を薄い皮が包んでいるばかり.ついた実はせっせと摘んでいる.

おまけは地植えにした(日本)サクラソウ.鉢植えしていた栽培種のサクラソウは昨年の猛暑の影響で成績が悪いが,地植えのほうは元気で一番に花をつけた.これは濃色原種の系統らしく,生命力に富んで殖えている.春は日が当たり,夏はアスパラガスの陰になる場所に植えているのがいいようだ.

2011年4月11日月曜日

シクラメン シリシウム, 原種系シクラメン

Cyclamen cilicium1978年の10月に英国 Cambridge のカレジの裏庭.植え込みの落ち葉の間から顔を覗かせていた小型のシクラメン.当時は大きな鉢植えシクラメンしか知らなかったので,その可憐な草姿と花に感嘆した.最近,写真の整理をして,さて種名は?といつもの「これ何?」サイトに画像をUPして訊いてみたが,残念ながらピンポイントでの回答は返ってこなかった.

Wikipedia の英語版(http://en.wikipedia.org/wiki/Cyclamen)には26種のシクラメンがそれぞれの細かい特徴と共に記載されている.そこで,花期が Summer and autumn と記載されている種から,更に写真から読み取れた 1)葉が丸くて裏が紫色がかる.2)葉には斑が入る.3)葉と花が同時に見られる.4)花弁が細身で開花時にはよじれる.5)口元の突起(アゴ(auricles)という)が目立たない.を条件にして, Cyclamen purpurascens 若しくは Cyclamen cilicium ではないかと絞った.これ以上は常緑か否かが決め手のようだが,花の形と,丈夫さから後者ではないかと思われた. Cyclamen cilicium はトルコ南部のタウラス山脈の標高 700–2,000 m の針葉樹林が原産地で,秋に咲き,香りがあるとの事.種小名はトルコ西南部の古名 Cilicia に因んでつけられた(http://nanaimo.rhodos.ca/Newsletter/NewsMar2009.pdf).

最近は日本でも原種シクラメンの可憐さに魅力を感じる愛好家も多くなり,Yokoyama Nursery (http://homepage3.nifty.com/cyclamen/cib/index.html)など,殖やして販売している種苗店もある.

シクラメン 栽培種

2011年4月7日木曜日

シクラメン 栽培種

Cyclamen persicum cv.Wikipedia によるとシクラメン属の植物は母種だけで28種あり,地中海沿岸地方を中心に欧州全体に分布.逆さ向きの花冠をもち,淡紅色の単生花が,長くきゃしゃな花柄に支えられている.この花柄は開花期には真っすぐ立っているが,その前後には円形あるいは螺旋形に巻くようになる.この植物の名はこのことに由来している(14世紀に現れた cyclamen という名は,「円」の意の kuklos から出たギリシア語の kuklaminos から作られた).三角形あるいはハート形の円い形の葉は,クルミ形の地下の塊茎に付着している.

古来は花ではなく,塊茎の澱粉を注目され,サポニン配糖体を含むため有毒であるが「アルプスのスミレ」などと称され,食用とされていた.この塊茎はえがらっぼく瀉下作用があるので,大航海時代以後ジャガイモがもたらされると,シクラメンを食用にする習慣はなくなった. 薬用植物としても注目され,多くの本草に記載され,描かれた.アプレイウスは著書「本草書」の中で,シクラメンを鼻に詰めると脱毛に効果があるとし,六百年後ド・パスは,「この根は,毒消しとして用いると効果があると言われる」と記したが,この植物がたいへん価値があるのは出産の際に助けになることである.とはいえ,とても薬効が強いのでターナーは,「妊娠している女性が服用しすぎると,危険である」と警告している.そしてジェラードは,偶然にシクラメンを踏んだ女性が流産するといけないので,自分が育てているシクラメンのまわりには木で柵をするという配慮をしている.
彼はまた,「細かく砕いて,小さな平たいケーキを作り,本人に知られないように食べさせると,恋するようにしむけられる媚薬になる (Being beaten and made up into trochisches*, or little flat cakes, it is reported to be a good amorous medicine to make one in love if it be inwardly taken. *trochisches:トローチ)」と言っている.しかし,J. パーキンソンは,これは単なるおとぎ話だと切り捨てている(But for any amorous effects, I hold it meere fabulous.).

日本で秋から冬に鑑賞されるシクラメンは,ギリシャなどに原生している Cyclamen persicum (Persian cyclamen) の栽培品種で,1659年ごろに英国に導入されたが,その後アメリカで実生法が発見されてからは急速に改良が進み,1870年にはイギリスとドイツで‘ギガンテウム’に代表される大輪系の園芸品種がいくつか育成された.日本での鉢物のシクラメン栽培は1921年(大正12年)ころから始まり,最初は塊茎を無加温フレームで栽培したため,2~3月に開花する早春の鉢花として鑑賞されたが,加温フレームを利用した栽培が始まった昭和30年代後半から,現在のような冬の鉢花の代表格となり,最も生産量の多い鉢植え植物となった.

家内が一昨年の秋に友達から頂いた鉢植え.花が終わって外に出された鉢に水をやり,高温の時期には土間に取り込んで,ようやく花をつけさした.蕾を着けた若い花茎は半円形を描くが,螺旋形ではない.いつもは種をつけさせないように花が終わると摘むが,今年は一つ二つ本当に螺旋を描くか,実験してみようか.

左図は欧州原産の Cyclamen europaeum = C. purpurascens,種をつけた花茎が螺旋形になっているのが分かる. Prof. Dr. Otto Wilhelm Thomé ''Flora von Deutschland, Österreich und der Schweiz'' 1885 多色石版.

シクラメン シリシウム ケンブリッジの野外で見た原生種

2011年4月5日火曜日

ハナニラ

Ipheion uniflorum南米アルゼンチン及びその周辺国の原産.葉や茎にはニラのような匂いがあるので,この名前がある.英名は spring star 或いは spring starflower.蕾を覆っていた半透明な苞が,開花後も茎についているのが特徴.庭から逃げ出して世界各地の温帯で野生化している.

英国ではブエノスアイレスから球根が移入された1820年代から育種され,薄青紫色の 'Wisley Blue' ,濃いスミレ色の 'Froyle Mill' ,白い 'Album',鮮やかな青色の 'Jessie',また珍しいピンク色の 'Pink Star' などが品種化されている.種は違うが,同属の Ipheion sellowianum は鮮やかな黄色い花をつける.

欧米では手がかからず,背があまり高くならずに密に花をつけるので,花壇の縁取りやロックガーデンに適しているとされている. 植えっぱなしにしておいても四方八方に広がって,律儀に春になると花を咲かせるので,これが一面に咲いているのを見ると何か物悲しく,「廃園」abandoned garden という言葉が連想される.

どこからか紛れこんできて,スイセンと一緒に花をつけた.確かに葉はつぶすとニラかネギのような臭いがする.花はいい香りがするとされているが,この個体はほとんど何の香りもしない.残念.

2011年4月2日土曜日

ディモルフォセカ Namaqualand daisy, オステオスペルマムとの違い

Dimorphotheca sinuata南アフリカ共和国の北ケープ州にある半乾燥地帯,ナマクアランド(Namaqualand).普段は,乾燥した不毛の砂漠地帯だが,夏、一年に一回ほどしか降らない雨のあと,見事なお花畑になる.彩るのは4000種類とも言われる花で,多くはこの地方特産.その一つが,今,庭で100本ほどのミニお花畑を作っているディモルフォセカ.Namaqualand daisy という別名の通り,写真で見ると,季節に Namaqualand の地表を黄色やオレンジの花の絨毯で彩るのは主にこの仲間の花である(http://fieldvill.blog115.fc2.com/blog-entry-268.html).

5年ほど前にも黄色と橙色の2種の花を咲かせたが,非常に育てやすい.秋に種をまくが,発芽率は大層よろしく,簡単な霜よけで冬を元気に過ごし,春には高さ 30cm ほどになった何本もの茎に,径 8cm ほどの花を多数つけるので,こんもりとした株全体が花で覆われる.欠点は根元が弱く,強風が吹くと傾くこと.花はほとんど香らないが,茎や葉には甘い香りがある.つやつやとした光沢のある舌状花は外側の先端と内側の根元が濃色で,管状花も黒いので,若い花ではアクセントとなっている(下).花は日が当たると開き,日が翳ると閉じるが,不思議な事に開いた花を切花にすると,室内光でも開きっぱなしになる.根元の葉に光センサーがあるのかも知れない.

Dimorphotheca
はギリシャ語の dis (twice), morphe (shape) と theka (a fruit) 由来で,舌状花の種と,管状花の種では形が違うからだそうだが,種が出来たら確かめてみよう.ちなみに Sinuate とは「葉の縁が波状の」との意味だとのこと.同じナマクアランド出身で日本でも多く見られるオステオスペルマム(Osteospermum)は多年草で花の色が紫系が区別かと思っていたが,ディモルホセカは舌状花と管状花が二つとも受粉して種をつけるのに対して,オステオスペルマムは舌状花のみが種を作る点が,大きな違いだそうだ.