庭に落ちていたアブラゼミ(雌).かなり消耗していたが,激写した後,細い枝に掴まらせていたら飛び去った.江戸の本草書では「蝉(蚱蝉)」はクマゼミで,アブラゼミはアカゼミと呼ばれていたらしい.クマゼミの抜け殻が漢方薬として使われていたからか,後期になると「蚱蝉=アブラゼミ」となっている(『本草綱目啓蒙』)が,これは著者の住んでいた地域の違いも知れない.『和漢三才図会』の「蝉には五徳がある」という説は興味深い.頭にある「綬」とは3つある単眼と触覚を見立てたものか.
貝原益軒『大和本草』 (1709)
蚱蝉(セミ)
(中略)羽スキトホラサルアリ赤セミト云.晩ニナク.コノ者其形(蚱蝉=クマゼミと)相似テ別ナリ.
寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)(左図)
『本草綱目』(虫部、化生類・蚱蝉〔集解〕)に次のようにいう。蝉とは総称であって数種ある。みな蠐螬・腹蜟(ニシドチ)から変じて蝉となる。また(クソムシ)が転がして丸くした(糞土が)久しくして化して蝉と成るのもある。みな三十日すると死ぬ。ともに四角い首、広い額をもち、二翼で六足、脇腹で鳴く。あるいは小児がこれを飼うと数日も飲食せず、ただ風を吸い露を飲むだけである。だから溺(ユバリ)はするが、糞はしない、と。
一説によれば、蝉には五徳があるという。頭に綬(かんむりのひも)のあるのは文である。露を飲むのは清である。季節に応じていつも姿を見せるのは信である。黍(きび)をたべないのは廉(つつましい)である。巣穴をつくらずにいるのは倹である。実に卑穢(ひわい)なところにいながら高潔に趨(はし)るものである、という。(島田,竹島,樋口 現代語訳 東洋文庫446 平凡社)
蚱蝉(セミ)
(中略)羽スキトホラサルアリ赤セミト云.晩ニナク.コノ者其形(蚱蝉=クマゼミと)相似テ別ナリ.
寺島良安『和漢三才図会』(1713頃)(左図)
『本草綱目』(虫部、化生類・蚱蝉〔集解〕)に次のようにいう。蝉とは総称であって数種ある。みな蠐螬・腹蜟(ニシドチ)から変じて蝉となる。また(クソムシ)が転がして丸くした(糞土が)久しくして化して蝉と成るのもある。みな三十日すると死ぬ。ともに四角い首、広い額をもち、二翼で六足、脇腹で鳴く。あるいは小児がこれを飼うと数日も飲食せず、ただ風を吸い露を飲むだけである。だから溺(ユバリ)はするが、糞はしない、と。
一説によれば、蝉には五徳があるという。頭に綬(かんむりのひも)のあるのは文である。露を飲むのは清である。季節に応じていつも姿を見せるのは信である。黍(きび)をたべないのは廉(つつましい)である。巣穴をつくらずにいるのは倹である。実に卑穢(ひわい)なところにいながら高潔に趨(はし)るものである、という。(島田,竹島,樋口 現代語訳 東洋文庫446 平凡社)
小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1803-1806)
蚱蝉 アカゼミ サトゼミ クロゼミ アキゼミ ヒグラシ(中略)
蚱蝉ハ形大ニシテ翅ノ色黄赤ク、スキトホラズ。八月二至リ未ノ刻以後多ク鳴。弘景、雌 蝉トスルハ非ナリ。雌蝉ハ鳴ズ。故二唖蝉卜云。俗名ナハセミ オシゴロウ イイシゼミ 時珍、未得秋風、則瘖不能鳴、謂之唖蝉卜云ハ非ナリ。 (後略)
蚱蝉ハ形大ニシテ翅ノ色黄赤ク、スキトホラズ。八月二至リ未ノ刻以後多ク鳴。弘景、雌 蝉トスルハ非ナリ。雌蝉ハ鳴ズ。故二唖蝉卜云。俗名ナハセミ オシゴロウ イイシゼミ 時珍、未得秋風、則瘖不能鳴、謂之唖蝉卜云ハ非ナリ。 (後略)