2010年5月6日木曜日

サクラソウ(7)赤蜻蛉 花壇地錦抄・草花絵前集・広益地錦抄・地錦抄附録

Primula sieboldii cv. "Red Dragonfly" 品種名:赤蜻蛉(あかとんぼ),表の花色:紅色目白,裏の花色:紅色,花筒の色:紅色,花弁の形:紅色,花弁先端の形:粗かがり,花容:平咲き・受け咲き,花柱形:短柱花,花の大きさ:小,作出時期:明治?,類似品種:緋の袴・緋の重,その他:古典的で愛らしい花形に愛好者多い.

元禄年間になると江戸でも桜草を園芸植物として愛でることとなる.

染井の伊藤伊兵衛家は農家であったけれど、近くの藤堂家の下屋敷の庭の手入れをしている縁で植木屋となり、江戸第一の名を得る事になり,優れた園芸書を何冊か出版した。サクラソウの記述をそれらの本に見ることが出来る.

三代目伊藤伊兵衛三之丞
『花壇地錦抄』 元禄八年(1695)巻四・巻 草花春之部
 桜草 中末 花形桜に毛頭もたかわす 色むらさきと雪白の二種有

四代目伊藤伊兵衛政武
『草花絵前集』 元禄十二年(1699)
 桜草 花形よくもさくらににて 色ハ白と紫と二種あり 三月にさく 〈左図 NDL〉

『広益地錦抄』 享保四年(1719)巻之二 草花の分
 本桜草 春初中 草たち花形つねのさくらそう也 はなの色 山さくらより少いろありてほんのりとうすし 〈右図NDL〉

『地錦抄附録』 享保十八年(1733)巻之一
 濃紫桜草 桜草の内に色すぐれてこいむらさき 二月咲 〈下図〉 
 紅軸桜草 花形つねのとかはりて間すきて うすく痩形にて 色白く花の軸長くのびて 軸ばかり濃紫色なり 二月咲 〈下図〉
地錦抄附録 NDL
藤裏桜草 花のおもて桜色にて うら藤色也 うらの色おもてへうつり、羽二重に紅裏の景気なり 二月咲 〈上図〉
 源氏桜草 花形がはり花びらあつく 六七葩もまじりて出る 色うすむらさき少しかき色のごとくにて まはりうす白クはつるゝ 〈上図〉
 咲分桜草 惣地むらさきにとび入り白く有 さきわけさらさのごとく 二月咲 〈上図〉
 鞍馬桜草 花の色うす桜ほんのりとして本桜草より少し色こく見ゆる 二月咲 〈上図〉
 紅裏桜草 花のおもてうすいろうらべに紫也うらの紅表へうつりてもゝいろに見ゆる二月咲 〈上図〉
南京小桜 花形極て小りん花形少しそりかへりじんじやうに花の内白くまはり紫にこ白ともいふべしかはりたる物也 二月咲 〈左図-右〉
 はぎやう桜草 <上図>

と40年の間に紫・白の2種から9-10種の品種が区別されるようになった事が分かる.また南京小桜は現在までその品種が受け継がれている(左図,右部分の左上).

これらの変種の産地について浪華さくらそう会の山原氏は「(江戸近辺ではなく)珍しい草花の一つとして上方からきたものであろう」と言っているが身びいきかもしれない.

サクラソウ(14) 南京小桜 桜草自生地への行楽,夏目漱石『虞美人草』,田山花袋,永井荷風

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