2010年4月24日土曜日

サクラソウ(5)天女 江戸文献「花譜」「大和本草」「和漢三才図会」

Primula sieboldii cv. “Heaven maiden”
品種名:天女(てんにょ),表の花色:白,裏の花色:紫桃,花筒の色:赤紫,花弁の形:重ね,花弁先端の形:かがり,花容:抱え咲き・横向き咲き,花柱形:短柱花,花の大きさ:大,作出時期:昭和後期,類似品種,その他:草姿剛直・弁質厚い・3倍体
2年前の全国都市緑化ぐんまフェアの前橋会場で購入.つつましくややうつむいていながら,表裏の色が異なるあでやかな花が名にそむかない.

 江戸時代に入ると,桜草が書物にも載るようになる.桜草が最初に取り上げられたのは,日本で最初の総合園芸書といわれる水野元勝著「花壇綱目」延宝九年(1681)であり, 「桜草 花薄色白あり 小輪 咲頃三月時分也 養土は肥土に砂を合せ用なり 肥気ある干粉少用て宜し 分植は春秋時分宜し」とあるが,この「花壇綱目」には寛文四年(1664)に成った稿本がかってあり,そこでは「桜草 紫薄色白(ぬ)白 春分植ル」とある.(http://www.ndl.go.jp/nature/img_r/027/027-001r.html).「花壇綱目」には桜草に黄花があるように記されてあるが,これは稿本の文字「ぬ紀白」の「紀」を「黄」と読み替えてしまったためらしい.

 「養生訓」で有名な貝原益軒の「花譜」元禄七年(1694)中巻三月の項には, 「桜草 三月花をひらく.むらさき色あり,白色有,淡紅黄色あり,花の大さ銭のごとし,愛すべし.紫(葉の誤りか)は蔓青(かぶら)に似て小なり.寒暑をおそれ,湿を忌.消やすし,よく保護すべし.春秋のころわかちうふ.盆にうへて,寒月は屋下におくべし.また七重草あり,同類なり,陰地をこのむ.」と出ている.この頃には露地ではなく鉢に植えて栽培・観賞していたことが覗える.

 また同じ益軒の「大和本草」宝永六年(1709)巻之七 草之三 花草の項には「桜草 三月紫花ヲ開ク 桜花ノ形ニ似タリ 又白色アリ ウスキ紅 黄色アリ 高キ事一尺餘ニスギズ葉ハ蘿蔔(だいこん)ニ似テ小ナリ 花如銭 大畏寒暑 又九輪草アリ 七重草アリ 此類ナリ好陰地」とほぼ同じ内容が記載されているが,葉の形が蕪から大根のそれに変わっているのが興味深い.

 さらに,1712年(正徳2年)頃大阪の医師寺島良安が出版した日本最初の百科事典「和漢三才図会」の「湿草類」-「桜草」の項には,「櫻草 さくらさう
△按ずるに、桜草は山谷中に生ず。即ち九輪草の一類異種なり。葉の形相似て微小辺に歯刻無く、甚だ光沢ならずして葉の心白し。(九輪草の葉の心は紫なり) 三四月に茎を抽き頂に花を生ず。九輪草の花に似て単への淡紫色、或は白色、又、桜花の如く最も艶美なる故、桜草と名づく。蒴児を結ぶ、青色、内に子を結ぶ。初めは青く後に茶褐色、人家に之れを移し種う。」と左の図の様に記載されている.内容的には,益軒よりクリンソウとの違いはずっと詳しく,また実際の観察に基づいたと思われる結実の様子や,人家で育てる事も記されている.

 寺島良安(大阪)も貝原益軒(福岡)も西日本に住んでいたので,このサクラソウに関しての記述は江戸近辺に生えていたものについてではないと思われる.

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